目次 I-1


 I 不服申立ての実務―基礎編


1 国税の処分の取消しを求める!

1 税務調査と更正処分

 1 申告納税制度と税務調査

 わが国の主たる国税については、申告納税制度が採用されている。国税通則法第16条第1項第一号には、申告納税方式につき、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式」と規定されている。申告納税制度があるからこそ、税務調査があるのであり、賦課課税方式(通則法第16条第1項第二号)により課税される税目(たとえば酒税、たばこ税、揮発油税等)についての税務調査はあり得ない。

 納税者の申告により、原則として税額が確定するという申告納税制度は、建前上、すべての納税者が正しい申告をすることが大前提とされているので、課税庁側の調査は、納税者の申告が客観的に正しいことを確認するためのものであり、したがって、税務調査を受けるすべての納税者に申告漏れの疑いがあるということでは決してない。しかし実際には、調査件数のうち、8割以上の確率で何らかの申告漏れが指摘され、2割近い確率で不正計算が発見されている。税収不足が慢性化した今日においては、巨額かつ悪質な脱税事件が摘発される一方、調査の現場において、善良な納税者に対するには不適切というべき横柄な態度をとる調査官や、強引とも思える更正処分を目の当たりにする機会が増加していることもまた事実なのである。


 2 税務調査の法的根拠

 税務調査時において、税務署または国税局の職員は質問検査権を有しており(法人税法第153条、所得税法第234条等)、納税者はこれに応対する義務がある(受忍義務)。

 査察の場合には、黙秘することができるのと対照的である。当該職員の検査を拒否し、妨害し、もしくは忌避し、または質問に対して答弁せず、もしくは偽りの答弁をした場合や、当該検査に関し偽りの記載または記録をした帳簿書類を提示した者に対しては、罰則規定がある(法人税法第162条第二号・第三号、所得税法第242条第八号・第九号等)。

 ただし、事業所内の書棚やキャビネットから始まり、従業員の机の中やロッカーまで、すべてを調査官の求めに応じるがまま開けて見せる必要はないことに留意すべきである。調査対象期間の帳簿類、証憑類を調査官の閲覧に供した後は、提出資料を基にした上で、何の目的で、何が記載された資料を必要としているのかを聞き取り、必要と認められる適切な資料を調査官に示せばよいのである。


 3 調査終了後の対応

 一般的な場合、調査が一通り終了すると、一定の期間の後、調査官より指摘事項なるメモが示される。これらの項目に関する処理が適当とは認められないとの理由で、修正申告の慫慂という行政指導がなされるのである。この時点で双方の見解が一致していれば、修正申告をすることで調査は終結するのであるが、見解の相違がある場合には、安易に修正申告を行ってはならない。


2 更正処分を受けたら

 1 更正処分と不服申立て

 税務署長から更正処分を受け、その処分に不服がある場合には、不服申立ての手続きをとることになる。国税に関する法律に基づき行われる処分については、行政手続法の適用除外(通則法第74条の2)となっており、その不服申立ての手続きは国税通則法に則って行われる。この不服申立ての手続きには期間の制限があり(通則法第77条)、期限を徒過してしまった場合は、天災等のやむを得ない理由がない限り、却下される(通則法第83条、第92条)ため、留意しなければならない。

 不服申立ての手続きに入る前に、可能であれば、増差税額および過少申告加算税、延滞税等の附帯税の納付もしておくことが望まれる。納税者側としては承服しかねる処分をされ、納付に抵抗がある場合も多々あると思うが、納付を滞ると、納付すべき延滞税の額も増加していくことになり、敗訴の場合の負担額が大きくなる。また、滞納に係る処分の取消訴訟が係属中であっても、原則として、国税の徴収手続きは続行される(通則法第105条第1項本文)ため、財産の差押え等の危険もある(*1)。

*1  差し押さえられた財産の換価は制限される。

 

目次 次ページ