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8 代表取締役の権限 |
1 代表取締役の権限 会社の意思決定は取締役会が行いますが、会議体であるため取締役会が実際の業務執行をすることはできず、代表取締役にその業務執行の任が与えられています。代表取締役は取締役会の決議によって定められ(会362)、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(会349) 2 業務執行権 (1) 代表取締役の権限の制限事項 代表取締役の業務執行の範囲は特に規定はありませんが、代表取締役は対外的にも対内的にも会社を代表する広範な権限を有すると考えられています。 ただし、法令または定款、取締役会規則等で株主総会の決議事項、取締役会の決議事項とされている次のような事項については代表取締役の業務執行権が制限されています。 [1] 株主総会決議事項 イ 計算書類の確定(会438、ただし439) ロ 定款の変更(会466) [2] 取締役会の決議事項 イ 重要な財産の処分および譲受け(会362i) ロ 多額の借財(会362ii) ハ 支配人その他の重要な使用人の選任および解任(会362iii) ニ 支店その他の重要な組織の設置、変更および廃止(会362iv) ホ 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項(会362v) ヘ 内部統制システムの整備に関する事項(会362vi)
(2) 代表取締役の権限事項 取締役の職務権限として会社法で定められているものがありますが、次の事項については各取締役ではなく代表取締役の職務権限と解されています。 [1] 株主総会、取締役会の議事録の備置(会318、371) [2] 定款、株主名簿、社債原簿の備置(会31、125、684)
このように代表取締役は対外的、対内的業務執行権を有しますが、一人で業務執行をすることは困難であり、定款の定めにより代表取締役以外に対内的な業務執行権を有する業務担当取締役を置くことができます。通常、役付役員のうち代表取締役以外が業務担当取締役になります。 3 代表権 (1) 代表権 代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(会349)。業務に関する一切の行為とは会社の権利能力の範囲内に属する一切の行為を指します。また、裁判上の行為とは、訴訟行為を指し、裁判外の行為とは一般の法律行為を指します。 (2) 代表権の制限 株主総会または取締役会決議とされている事項については株主総会または取締役会の決議がなければ、代表取締役は会社を代表することができません。この場合、必要な決議なしに行われた代表取締役の行為の効力は会社と相手方との利益衡量により法定決議事項ごとに個別に異なります。 また、定款、取締役会規則等によって代表取締役の代表権に制限を加えている場合にも、代表取締役はそれに従わなければなりません。しかし、この場合には、内部的に決めた規定に反して行われた代表取締役の行為は善意の第三者に対しては、対抗することができません(会354、民54)。 |