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3 遺産分割の基本方針 |
(1) 専門家の知恵を借りる 共同相続人全員の合意により、遺産分割協議が有効に成立した後は、税務上の取扱いにおいては、分割協議の「やり直し」はまずできませんので、慎重に行わなければなりません。遺産分割のやり直しができるケースとしては、例えば、(1)一部の相続人を除外して協議した場合、(2)遺産分割後に他の相続人のいることが判明した場合、(3)逆に遺産分割後に相続人でないことが判明した場合等が考えられます。 以上のような特殊なケースを除き遺産を再分割すると、最初の分割協議書に記載されている相続人からその財産を再分割により取得した相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課税されることとなります。 なお、遺産分割後に新たに財産が見つかった場合には、新たな財産についてだけ改めて分割すれば問題は生じません。 相続税の申告期限までに共同相続人が協議分割により遺産分割ができる場合には、遺産分割の工夫により、相続税等を大きく軽減することが可能です。 しかし、税金上有利な遺産分割の分割案が常にベストとは言い切れません。相続人固有の問題や「家」特有の事情により、やむなく税金上不利な遺産分割を選択することもあり得ます。要は、もろもろの事情に配慮し、かつ、税金上の有利・不利を理解した上で行われた遺産分割であれば、後日大きな悔いを残さないものになるでしょう。 遺産分割について与えられた協議期間は、原則として相続発生からわずか10か月しかありません。この期間内に遺産分割が調わない場合には、IVで述べるような不利益を被ることになりかねませんので、相続人同士譲り合って、分割協議を成立させるよう努力すべきです。 そのためにも、円満に、かつ、税金上有利な遺産分割を行えるよう税理士や弁護士などの専門家の知恵を借りることが賢い方法です。 (2) 不動産の共有による分割を避ける 不動産を共有によって分割した場合は、共有者全員の同意がなければ不動産の有効活用、担保提供及び換金処分等は困難となります。そのため、子同士が不動産を共有による遺産分割によって取得する場合には、将来不動産の活用問題をめぐり争いに発展する可能性を孕んでいるといわざるを得ません。 共有による分割を選択する事例としては、配偶者と子1人との共有が考えられます。その場合、配偶者に相続が発生したときには、共有者である子がその持分を相続すれば将来単独所有とすることも可能で、「争族」への発展を防ぐことができます。 (3) 遺産分割のポイント (1) 「三方一両損」 落語に「三方一両損」という話があります。暮れに大工が落とした3両入りの財布を左官屋が拾い、困っているだろうと思い落とし主の大工に届けたところ片意地を張って受け取らず左官屋にくれてやるといった。しかし、左官屋も大工の金を理由もなく受け取れないと言い出し、収拾がつかなくなり、結局大岡越前守が裁きの中で1両足して両人に2両ずつ与え、大工も左官屋も素直に相手の申出どおりお金を受け取っていれば3両手にすることができたのに、片意地を張ったために2両しか手にすることができず、それぞれが1両損をしたことになる。大岡越前守も裁きを通じて1両を負担し、その結果、3人がそれぞれ1両を損して円満に事を納めるという話です。 遺産分割は相続人同士が自分の主張を繰り返すだけではまとめることができません。互譲の精神で話し合うことが大切です。 (2) 「権利」と「義務」 相続は財産等の「権利」のみを分割するのではなく、「権利」と同時に残された配偶者の扶養や墓守等の「義務」も同時に承継されます。 そのため、多くの義務を相続する人が、多くの財産を相続することが公平な分割といえます。 (3) 残された「配偶者」 遺産分割において、子等の次世代者がどの財産を取得するか工夫するのも重要ですが、被相続人と共に財産を築き上げてきた配偶者の老後の生活の安定と確保を最優先に考えたいものです。そのため、配偶者が相続する財産は「量」ではなく「質」を重視した分割が必要です。 「質」を重視した遺産分割の具体例としては、日々の生活に密着した居住用不動産、現預金又は安定した収益を生む不動産などを相続すれば、配偶者の老後生活は安心です。 以下の失敗事例を残された配偶者の立場に配慮した遺産分割のヒントにしてください。
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