目次 III-1


III.遺産分割の工夫


1 相続を放棄しても取得することができる財産・年金等

 被相続人の借金が多くて、正味遺産額が明らかにマイナスの場合などには、相続の放棄をすれば、被相続人のすべての財産を承継しないことができます。この場合には、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に相続の放棄を申し立てなければなりません。相続の放棄は、相続人の1人だけでも行うことができますし、相続人全員で行うこともできます。相続の放棄は、一度選択すると原則として取り消せません。また、その相続人に関しては、代襲相続も発生しません。しかし、死亡保険金・死亡退職金及び生命保険契約に関する権利などのみなし相続財産については被相続人の本来(民法上)の財産ではなく受取人(又は契約者)固有の財産ですので、相続の放棄をした人でも、死亡保険金などを受け取ることができます。

 また、遺族年金等については、たとえば、遺族基礎年金の受給要件は被相続人によって生計を維持されていたその人の子(18歳到達年度の末日までの間にあるか又は20歳未満で1級又は2級の障害の状態にある子)又は子のある妻に支給されます。そのため、当該相続人等が相続を放棄しても遺族年金等を受給することはできます。

<相続の放棄があった場合の留意点>

(1) 甲の相続人関係図

甲の相続人関係図

(2) 留意点

 甲が多額の債務を残し相続財産が明らかにマイナスの状態で死亡した場合に、債務の承継を免れるために第一順位である長男が相続を放棄すると第二順位である父母が法定相続人となります。父母も自分が法定相続人であることを知った日から3か月以内に放棄すると第三順位の妹が法定相続人となります。そのように先順位の法定相続人が全員相続を放棄した場合には、次順位の者が法定相続人となりますので、順次相続の放棄の手続をする必要があります。

 

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