目次 II-8


8 税理士への申告委任

(1) 税理士から見た相続税申告のマーケットの大きさ

 平成19年分相続税の申告事績によれば同年中に相続税の申告が必要であった被相続人の数は46,820人で、税理士登録者数約71,571人(日本税理士会連合会・平成22年2月末現在)で割ると1人当たり年0.65件の小さなマーケットに過ぎません。普通法人は全国で約289万社あり、税理士1人当たり40社となります。一般論ですが、年間40件を超える法人の決算申告を受託している法人税法に精通している税理士は多くいると思われます。しかし、年に1件にも満たない相続税の申告では、すべての税理士が相続税に精通しているとは思えません。

 税理士も医者同様、複雑に多様化している税理士業務の中で専門特化が始まっています。


(2) 相続に精通している税理士の見分け方

 税理士の中で相続に精通している人を見分けるには、最近取り扱った事案はいつ頃の申告で、財産の分割と納税についてどんな問題があり、どのように解決したかなどを質問してみるといいでしょう。相続に精通している税理士であれば、守秘義務違反にならない範囲で明快に回答してくれるはずです。

 経験豊富な税理士で、分割や納税など相続問題全般についてアドバイスしてくれる人を捜す努力をすべきです。また、仮に相続を不得手とする顧問税理士との関係を良好に維持しながら、相続を得手とする税理士に依頼する場合には、委任の範囲を財産の大半を占める土地評価及び自社株評価と税法上有利に遺産分割を行うことについての助言に限定して行うことも一法です。


(3) 相続税申告の標準的な進め方

 相続税の申告手続きについては、単に相続税の計算だけに留まらず、遺産分割の工夫など相続人間で検討すべき点など多くあります。そこで、相続税の申告は以下のような手順でまとめていくことが望ましいと考えます。

(1) 相続人又は相続人代表と定期的な説明機会(毎月1回が標準)を持つ

(2) 説明は原則書面で行い、口頭で内容を補足する

(3) 相続人又は相続人代表は説明を受けた内容について質問及び確認を行う

(4) 提案を受けた遺産分割などの内容について検討を行う

(5) 次回までの宿題を確認して終わる

 なお、相続税の申告は、遺産等に係る資料が提供された分から順次計算を開始し、申告期限に向けて精度を高めていくようにします。また、遺産分割により税負担がどのように変化するかなどについても併せて計算し提案をするようにします。そのためには、相続税の税務ソフトによって処理することが必要となります。

 このことにより、毎回概算相続税額を確認し、税理士及び相続人等により相互に申告内容を検証することができるようになることから、精度の高い申告書を作成することにつながります。

 

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