目次 I-1-Q1


I.民法(相続関係)の勘どころ


1 特別受益者が存する場合の相続分とその具体的な計算

◆ 本項目のポイント ◆
(1) 特別受益者の意義について確認してください。
(2) 特別受益の意義及び具体的にはどのような行為が特別受益に該当するのか確認してください。
(3) 特別受益者が存する場合の具体的な相続分の計算方法について確認してください。



Q1 特別受益者が存する場合の相続分

Question
 先月死亡した被相続人甲の相続人は3人(配属者、長男及び長女)ですが、このなかでも、長女は被相続人甲から殊更に可愛がられており、自己の居住する家屋の購入費を全額支出してもらっていたりしています。今回の被相続人甲の相続財産に係る遺産分割協議については、その生前から長女が厚遇を受けていた事項を考慮に入れて実施したいと考えていますが、具体的にはどのような方法で遺産分割協議を行えばよいのでしょうか。



Answer

 事例のように、共同相続人中に特別受益者(長女)が存する場合の相続分の計算については、民法第903条(特別受益者の相続分)の規定に基づいて算定することになります。

【解 説】

(1) 特別受益者の相続分

 民法第903条(特別受益者の相続分)の規定では、『共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定(注:民法第900条(法定相続分)、民法第901条(代襲相続分)、民法第902条(指定相続分))によって算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額を以てその者の相続分とする。』とされており、   部分に掲げる行為を通じて受けた利益を特別受益と定め、当該特別受益を受けた者を特別受益者として、その者に係る具体的な相続分の算定方法を定めています。この取扱いについて、図解とその計算パターンを示しますと下記のとおりになります。

【図 解】
 

【計算パターン】

 (1) 相続開始時の財産
  被相続人が相続開始時に
  有していた総資産の価額
すべての者に
対する遺贈

 (2) 特別受益額
   (a) 相続人に対する遺贈
   (b) 相続人に対する贈与
   (c) (a)+(b)

 (3) みなし相続財産
   (1)+(2)

 (4) 各相続人の具体的な相続分
   相続人X……(3)×法定相続分等−特別受益額=相続人Xの具体的相続分
   相続人Y……(3)×法定相続分等−特別受益額=相続人Yの具体的相続分
   相続人Z……(3)×法定相続分等−特別受益額=相続人Zの具体的相続分


(2) 特別受益者の意義

 民法の規定では、特別受益者は下記に掲げる4つに限定されていることに留意する必要があります。(前記(1)   部分を参照

  (a) 被相続人から遺贈を受けた者

(b) 被相続人から婚姻のため贈与を受けた者
 贈与の内容として、婚姻のための持参金、支度金、結納金等がその例示として挙げられます。なお、挙式費用については事例によってケースバイケースで対応する必要があるものと考えられます。

(c) 被相続人から養子縁組のため贈与を受けた者
 贈与の内容として、養子縁組のための持参金、支度金等がその例示として挙げられます。

(d) 被相続人から生計の資本として贈与を受けた者
 贈与の内容として、次に掲げるようなものがその例示として挙げられます。
 (イ)  親から独立して別世帯を持つために、住宅取得費用の贈与を受けた。
 (ロ)  新規開業を行うに際して、親から相当額の開業資金の贈与を受けた。
 (ハ)  音楽技能の習得を目的として相当な期間の外国留学資金を親が負担する等、他の相続人である兄弟と比較して特別な教育を受けた。

 なお、ただ単に、生活費の援助を受けていただけであるというような場合には、当該生活費の援助に資するための贈与は生計の資本としての贈与には該当せず、民法第877条(扶養義務者)に規定する相互間の扶養義務を履行したものと解されるところから、このような生活費相当額の贈与については、特別受益として取り扱われることにはなりません。

 

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