贈与税は相続税を補完するという性格から、同じ課税価格でも相続税より税負担が大きくなるようになっています。しかし、「相続税の節税対策」を講ずる場合、まずこれ以上相続税の課税対象となる資産の増加を防がねばなりません。
そこで、贈与分岐点を活用して、将来相続税評価額が高くなると思われるもの(土地、有価証券等)を評価額が低いうちに贈与します。
《贈与分岐点》 |
分母の相続財産に係る相続税額
相続財産の価額 |
≧ |
分母の贈与財産に係る贈与税額
贈与財産の価額 |
設 例
・相続財産 5億円
・相続人 配偶者 子1人
上記の場合、贈与分岐点は510万円(次の贈与分岐点早見表参照)になり、この510万円を贈与する前と贈与した後では次のようになります。
このように、贈与分岐点を活用して贈与を行えば贈与税の負担を加算しても、なおかつ、贈与前の相続税額よりも税額が低くなります。
《贈与分岐点早見表 1》
正味遺産額 |
子1人 |
子2人 |
子3人 |
子4人 |
100,000 |
(1.9%)
1,300 |
(1.1%)
1,111 |
(0.5%)
1,105 |
(―)
1,100 |
200,000 |
(7.2%)
3,000 |
(5.6%)
2,500 |
(4.7%)
2,000 |
(3.9%)
1,800 |
300,000 |
(10.3%)
3,900 |
(8.6%)
3,400 |
(7.5%)
3,100 |
(6.7%)
2,800 |
400,000 |
(12.7%)
4,600 |
(10.8%)
4,000 |
(9.7%)
3,700 |
(8.9%)
3,500 |
500,000 |
(14.5%)
5,100 |
(12.3%)
4,500 |
(11.3%)
4,200 |
(10.4%)
3,900 |
600,000 |
(16.2%)
5,700 |
(14.0%)
5,000 |
(12.8%)
4,600 |
(12.0%)
4,400 |
700,000 |
(17.5%)
6,100 |
(15.2%)
5,400 |
(13.8%)
4,900 |
(13.1%)
4,700 |
800,000 |
(18.4%)
6,500 |
(16.2%)
5,700 |
(14.9%)
5,300 |
(14.0%)
5,000 |
900,000 |
(19.3%)
6,900 |
(17.0%)
6,000 |
(15.8%)
5,600 |
(14.7%)
5,200 |
1,000,000 |
(20.4%)
7,300 |
(18.0%)
6,300 |
(16.7%)
5,900 |
(15.7%)
5,600 |
(注1) |
表の数値は、相続税と贈与税の分岐点を表わします。 |
(注2) |
( )内は、相続税の実効税率を表わします。 |
(注3) |
配偶者の税額軽減は、法定相続分(1/2)を取得したものとして計算しています。 |
(注4) |
上表は、受贈者が1人であるものとして計算していることにご注意ください(次の表も同様です。)。 |
《贈与分岐点早見表 2》
正味遺産額 |
子1人 |
子2人 |
子3人 |
子4人 |
100,000 |
(7.3%)
3,100 |
(3.7%)
1,700 |
(2.0%)
1,300 |
(1.0%)
1,110 |
200,000 |
(20.4%)
7,300 |
(14.3%)
5,100 |
(11.0%)
4,000 |
(8.6%)
3,400 |
300,000 |
(28.3%)
11,200 |
(20.5%)
7,300 |
(16.8%)
5,900 |
(14.1%)
5,000 |
400,000 |
(33.7%)
15,000 |
(25.4%)
9,600 |
(20.6%)
7,400 |
(18.1%)
6,400 |
500,000 |
(37.8%)
18,800 |
(28.9%)
11,600 |
(24.5%)
9,200 |
(20.6%)
7,400 |
600,000 |
(41.5%)
24,000 |
(32.4%)
13,900 |
(27.1%)
10,500 |
(23.9%)
8,900 |
700,000 |
(44.1%)
28,700 |
(34.9%)
16,200 |
(29.2%)
11,700 |
(26.2%)
10,000 |
800,000 |
(46.1%)
32,800 |
(36.8%)
17,900 |
(31.8%)
13,400 |
(27.9%)
11,000 |
900,000 |
(47.6%)
36,900 |
(38.6%)
19,800 |
(33.8%)
15,100 |
(29.4%)
11,800 |
1,000,000 |
(48.9%)
41,000 |
(40.8%)
22,800 |
(35.4%)
16,600 |
(31.4%)
13,100 |
(注1) |
表の数値は、相続税と贈与税の分岐点を表わします。 |
(注2) |
( )内は、相続税の実効税率を表わします。 |
税法は毎年改正され、現在有効な相続税対策も将来税制改正や通達改正に伴いその効果が大きく減殺されることも予想されます。例えば、民法の規定に関わらず、相続税法上の法定相続人は、複数の養子がいても実子がいる場合には1人と数えるという養子縁組規制が行われたり、自社株の評価方法では、特定会社に該当する場合には、会社規模に関係なく純資産価額によって評価することとされたりしました。これらの規定は対策を実行した時期に関係なく相続発生時における現況において適用することとしているため、対策実行時の相続税法では大きな節税効果が予想されたものが、その後の改正により効果が大きく減殺されてしまいました。しかし、贈与による対策は贈与のあった年の税制により課税され、将来の税制改正等によるリスクを回避できます。
贈与によって財産が移転すると贈与税が課されることになりますが、相続税対策で贈与を行った場合、税務上、実質的に贈与があったかどうかが問題とされることが多くあります。
(1) 贈与による財産移転の証拠を残す
夫婦や親子など特殊な関係にある者の間において行われる金銭等の贈与は書面を作成して行われることが少なく、また、書面を作成して行われる場合であっても形式的なものにすぎないことが多いので、贈与であるのか、あるいは金銭消費貸借であるのかの事実認定はむつかしい場合が多くあります。
そこで、贈与の事実を明らかにするために贈与契約書を作成し、客観的にみても贈与の事実があったと認められる状況をつくります。例えば、父から子に現金を贈与する場合、贈与契約書の作成に加え、現金を父の銀行口座から子の銀行口座に移し、預金通帳に現金の移転の証拠を残すようにします。
(2) 贈与財産の管理などは受贈者が行う
前記の例のような場合、贈与後は通帳も印鑑も受贈者(例えば、子)に渡し、贈与者である父は贈与した財産にタッチしないようにします。贈与により財産が移転すれば、受贈者がその贈与された財産の使用・処分を自由にできるはずです。ですから、子供に現金を贈与したと主張しても通帳も印鑑も父が所持したままでは贈与による財産の移転があったとは認められません。
つまり、現預金・有価証券などは単に名義だけを変えたもので、実質は父の所有財産と判断され相続財産として相続税が課されることになります。
(3) 贈与税は受贈者が納付する
贈与税はたとえ子供でも贈与された者が納付するのが原則です。親が贈与税の肩代わりをするとそこにもまた贈与税がかかります。贈与税の立替払は贈与とみなされる危険が大きいので注意が必要です(受贈者が資力を喪失している場合を除きます。)。
名義預金の判定基準
名義は被相続人のものでなくても、実質的に被相続人に係る預貯金と認められるものは、被相続人の相続財産に該当します。
名義預金は、単に名義を配偶者や子・孫などの親族のものとしているもの、形式的に贈与を行ったに過ぎず実質的に贈与が成立していないものの2つに大別されます。
名義預金に該当するかどうかは、様々な観点から総合的に判断する必要がありますが、主な判断基準としては次のようなものがあります。
・その預金の管理、運用を誰が行っているのか?
名義は親族等のものになっていても、通帳や印鑑の管理を被相続人が行っていたり、実際に預入れ、引出し、預替え等預金の運用を被相続人が行っていれば、被相続人の相続財産と認められる可能性が高くなります。
(例1) |
被相続人が子名義の銀行預金口座を、被相続人の使用しているものと同じ印鑑を使用して作った場合
→単に子の名義を借りて口座を作ったと考えられ、名義預金と判断される可能性が高くなります。 |
(例2) |
孫は東京に住んでいるが、被相続人が孫名義の銀行預金を被相続人が居住している大阪で作った場合
→実際に口座を管理・運用しているのが被相続人であると推定されるため、名義預金と判断される可能性が高くなります。 |
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