目次 I-3


3 贈与の種類

(1) 生前贈与

 贈与者が生存中に自分の財産を無償で他の人に与えることで、一般に「贈与」といえば生前贈与を指します。

<贈与契約書の見本> 父親・山本太郎(贈与者)/子供・山本一郎(受贈者)
贈与契約書

 贈与者 山本太郎(甲)と受贈者 山本一郎(乙)との間で下記のとおり贈与契約を締結した。

第一条 甲は、その所有する下記の財産を乙に贈与するものとし、乙はこれを受諾した。
(物件の表示)
1. 現金   ***円

第二条 甲は当該財産を平成*年*月*日までに乙に引き渡すこととする。

 上記契約の証として本書を作成し、甲、乙各一通保有する。

平成*年*月*日
甲 (住所) 大阪市**区**町*丁目*番*号
(氏名) 山本太郎     印

乙 (住所) 大阪市**区**町*丁目*番*号
(氏名) 山本一郎     印
   (注) 父親と子供が自分で署名し押印すること。


(2) 死因贈与

 生前に贈与するが、贈与者が死亡することによって初めて効力が生じる贈与を「死因贈与」といいます。死因贈与も、形としては契約や、生前贈与と同様に当事者間の合意によって成立します。しかし、贈与者が死亡することにより効力が生じる贈与ですので、ほぼ、遺贈についての規定が適用されます。

 遺贈とは、遺言で自分の財産の全部又は一部を処分することをいいます。

《遺贈と死因贈与の違い》
遺  贈 → ・遺言者の単独の意思表示
・何時でも遺言の方式に従って自由に取り消せる。
死因贈与 → ・贈与者と受贈者の当事者双方の署名押印が必要
・負担付死因贈与(例えば、生前に面倒をみてくることを負担とする)の場合に、すでに負担が履行されているようなときには取り消せないとの趣旨の判例がある。
・贈与者の生前に仮登記(始期付請求権保全の仮登記)ができる。この仮登記は、贈与者の承諾があれば受贈者が単独でできるので契約時に贈与者の承諾を得ておく必要がある。

 死因贈与は、税務上の取扱いについても遺贈の規定が適用され、贈与税ではなく、相続税が課税されます。また、この場合、受贈者が配偶者及び一親等の血族(代襲相続人を含みます)である場合を除き、「相続税の2割加算」(注)の適用があります。

  (注)  「相続税の2割加算」とは
 「相続税の2割加算」とは、相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)により財産を取得した人が、被相続人の配偶者及び一親等の血族(代襲相続人を含みます)以外の人である場合はその人の相続税額にその20%相当額を加算するという規定です(加算後の金額は、その人の相続税の課税価格の70%相当額を限度とします。)。

 死因贈与契約の優位性は、遺贈と異なり贈与者と受贈者間において生前に贈与の意思確認が行われますので、推定被相続人の意向に添った形で財産を移転させることができます。

 また、受贈者においては、贈与財産が不動産等の場合、贈与者の承諾を得て所有権移転の仮登記を行うことができます。さらに、贈与の執行人を定めておくことにより、相続人等の承諾や印鑑を受領することなく執行人の権限で仮登記から本登記へ手続を行うことができ、所有権が確実に移転することなどが挙げられます。

<死因贈与契約書の見本> 父親・山本太郎(贈与者)/子供・山本一郎(受贈者)
贈与契約書

 贈与者 山本太郎(甲)と受贈者 山本一郎(乙)との間で下記のとおり贈与契約を締結した。

第一条  甲は、その所有する下記の土地を乙に贈与するものとし、乙はこれを受諾した。
(物件の表示)
 所在地 **県**市**町*丁目*番地*
 種類  宅地
 地積  100平方メートル
第二条  本贈与契約は、贈与者甲の死亡と同時に効力を発生する。
第三条  甲が死亡する以前に乙が死亡したときは本契約はその効力を失う。
第四条  当事者は、本件土地について、受贈者乙のために、始期付所有権移転仮登記をするものとする。贈与者甲は、受贈者乙が右仮登記手続を申請することを承諾した。
第五条  甲は本契約の執行者として、次の者を指定する。
 住 所 大阪市北区○○町*丁目*番*号
 氏 名 佐藤一郎
 生年月日 昭和27年2月17日
第六条  本件土地の所有権移転登記手続に関する費用は、乙が負担する。

 上記契約の証として本書を作成し、甲、乙各一通保有する。

平成*年*月*日
甲 (住所)大阪市**区**町*丁目*番*号
(氏名) 山本太郎    印
乙 (住所)大阪市**区**町*丁目*番*号
(氏名) 山本一郎    印


(3) 負担付贈与

 負担付贈与とは、「債務を弁済することを条件とする」など贈与者だけではなく、受贈者も贈与に対する対価的な債務を負担するものです。

 一般的な贈与は贈与者だけが「財産を無償で与える」という義務を負う「片務契約」になりますが、負担付贈与は、受贈者に一定の条件を付けて贈与するため、受贈者もその条件を履行する義務を負う「双務契約」となります。

 例えば、「貸家を贈与するが、受贈者は家賃の何割かを贈与者の妻に与える」といったものです。

 負担付贈与があった場合、税務上は「贈与された財産の価額−負担額=贈与財産の価額」と考えます。

 設 例
 父から時価1,000万円、相続税評価額800万円の住宅をもらう代わりに、父の600万円の借金を返済する条件の付いた贈与を受けた場合
 1,000万円−600万円=400万円…が贈与財産の価額になります。

☆注意点☆
 一般的な贈与(前記(1)の贈与)の場合、「贈与された財産の価額」は「相続税評価額」になりますが、負担付贈与の場合は「通常の取引価額に相当する金額」が贈与された財産の価額になります。

〜 コ ラ ム 〜

公正証書贈与による贈与の時期

 不動産の贈与があった場合、その不動産に係る贈与税の納税義務が生じる「取得時期」は、公正証書等契約書が作成された時か、それとも実際に所有権の移転登記が行われた時なのかが争われていた名古屋地裁で、不動産の贈与に際して公正証書等の書類を作成するのは「贈与が行われたにもかかわらず、何らかの事情によって登記が得られない時や、登記のみでは明らかにできない契約内容等が存在するときに意義がある」のであって本来は所有権を確保するのには、一番確実な手段として所有権の移転登記を行うのが通常でこの公正証書等契約書の作成は脱税を目的として作成されたものと考えられるとの判断を下し、原則として、「所有権の移転登記がなされた時=贈与日」と見るのが妥当(平成10年9月11日判決・原告控訴)としています。相続税法基本通達によると贈与による財産の取得時期を「書面によるものについてはその契約の効力の発生した時により、書面によらないものについてはその履行の時」としています。しかし、これは原則的な取扱いを規定しているものであり、たとえ、書面による贈与であっても当該書面の作成が単に形式的なものであり、書面作成後、当該贈与による贈与税の申告をすることなく、かつ、相当期間(通常は税務上の徴収権が消滅する最長期間である7年以上であるケースが多い。)にわたって格別の理由もなく当該贈与による不動産の所有権の移転登記を行わない場合にはその登記が行われた時に贈与があったものと考えられます。

 

目次 次ページ