目次 I−1

 T 相続税
 1 停止条件付遺贈
事例
 甲(被相続人)が死亡した後に、甲の公正証書の遺言書が発見された。当該遺言は、「停止条件付」の内容のものであった。すなわち、配偶者乙が甲の(病気中の)母親に対して5年間看護をした場合には、甲の財産(10億円)の3/4を乙に遺贈するというものであった。甲には乙以外に法定相続人として2人の子供(丙及び丁)がいた。しかしながら、当該遺言書が発見される前に、相続人(配偶者乙、子供丙及び丁)間の話し合いで、甲の財産について3人で平等に分割することを決めて、分割協議書を既に作成していた。この場合、相続人の分割協議書どおりに相続税の申告をしても良いか。また、遺言書に記載されている条件(5年間甲の母親を世話すること)が成就した時に、後発的な更正の請求をすることができるのか。その時には、配偶者の法定相続割合まで、配偶者の税額軽減(相法19の2)を受けることができるか。
回答
 相続人の分割協議に基づいて提出された相続税の申告は認められる。また、その後、遺言書に記載された条件が成就した時には、後発的な更正の請求をすることができ、配偶者の税額軽減を受けることができる。そして、この配偶者の税額軽減の適用は、「1/3」(分割割合)から「1/2」(配偶者の法定相続割合)になる。
コメント
 民法985条2項では、停止条件付きの遺言の効力として「遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる」と規定している。したがって、遺言は、当該条件が成就した時からその効力を生じるというのであるから、成就する前においては、遺言の効力が生じていないということになるので「未分割」の状況にあるといえる。そして、相続税法基本通達11の2―8では、「停止条件付遺贈があった場合の課税価格の計算」として、「停止条件付の遺贈があった場合において当該条件の成就前に相続税の申告書を提出するとき又は更正若しくは決定をするときは、当該遺贈の目的となった財産については、相続人が民法900条《法定相続分》から903条《特別受益者の相続分》までの規定による相続分によって当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、当該財産の分割があり、その分割が当該相続分の割合に従ってされなかった場合において当該分割により取得した財産を基礎として申告があった場合においては、その申告を認めても差し支えないものとする。」との取扱いを定めている。すなわち、条件が成就するまでは、「未分割」として、法定相続分で取得したものとして相続税の課税価格を計算するとしているが、相続人が分割した場合には、当該分割に基づいた申告も認めるということである。本件についても、相続人は相続財産の分割を決めて、分割協議書を作成していたのであるから、それに基づいた申告書を提出することができる。この場合、配偶者である乙の分割割合は相続財産の「1/3」であるから、当該割合については、配偶者の税額軽減の適用を受けることができる。また、その後、条件が成就したときには、相続税法32条「更正の請求の特則」5号の「前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたこと」を受けて、当該事由に準ずるものとして、相続税法施行令8条2項3号で、「条件付又は期限付の遺贈について、条件が成就し、又は期限が到来したこと」が挙げられている。したがって、本件については、相続人は、当該事由(条件成就)が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、相続税法32条5号(更正の請求の特則)の規定による更正の請求ができることになる。この場合、配偶者の乙の相続分の割合は、相続財産の「1/3」から「3/4」に増加するのであるから、配偶者の税額軽減の適用は、「1/3」(分割割合)から「1/2」(配偶者の法定相続割合)になるのである(なお、相続税法19条の2の規定から、3年以内に分割できないことにやむをえない事情がある旨の承認申請をして、所轄税務署長の承認を得ておく必要があると思われる)。
――参考条文等――
  • ① 民法900条《法定相続分》
  • ② 民法903条《特別受益者の相続分》
  • ③ 民法985条《遺言の効力の発生時期》
  • ④ 相続税法19条の2
  • ⑤ 相続税法32条
  • ⑥ 相続税法施行令8条2項3号
  • ⑦ 平成19.6.18裁決
 原処分庁は、本件贈与証明書の3の記載に基づき2回目の贈与が死因贈与に該当すると解しているが、5,000万円を贈与することについて、その1及び2の記載において具体的に定められていると認められ、被相続人が死亡しなくてもDは贈与を受けることができるのであり、また、本件贈与証明書の3の記載は、年明けまでに被相続人が死亡した場合に、滞りなく贈与が実行されるよう翌年1月1日の履行時期を待たずしてその履行を早める旨を定めたもので、単に贈与の履行時期の特約に過ぎないものと認められるから、2回目の贈与は贈与者の死亡により効力が生ずる民法554条の死因贈与に該当しないものと解するのが相当である。

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