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III.出向をめぐる法人税 |
1 出向の税務問題 |
出向についての法人税の基本的な考え方は、出向先法人(出向元法人から出向者を受け入れている法人を指します)は、当該出向者の労務の提供に対して自己の負担すべき給与水準に相当する金額を負担すべきであるということです。つまり、出向者を出向先法人の従業員としてみた場合に、相当な人件費負担をしているかどうかがポイントになるわけです。
現在、商法等の株式会社法制において、株式交換、会社分割などの諸制度の改革が進んでおり、これに伴い法人間の資産の移転による譲渡益課税をどうするか、といった法人税法上の問題も検討途上にあるとされています。また、法人企業の従業員についても、終身雇用制度は揺らぎ、退職金制度が廃止を含めて再検討されるなど、日本的経営の中核をなしていた人事制度も大きく変わり始めています。特にホワイトカラー層については、従来の年功的賃金体系から仕事の成果を評価する賃金体系への移行が顕著です。 このような状況においても、法人間の出向については、従業員をなるべく波風たてずに関係会社等へ出向させるため、出向元法人で継続して勤務するのと同じ待遇を保証するのが一般的です。ところが受入側の出向先法人には、設立間もないところや経営基盤の弱いところがあり、とても出向者の人件費を負担できないケースがあります。また、余剰人員の押しつけ出向の場合で、出向者の人件費の大半を出向元法人が負担するケースや、実質上は出向なのに出向先法人の既存従業員との関係から転籍としたり、実質上は転籍なのに出向者の同意を得やすくするため出向とするケースなど、出向の実態は千差万別となっています。しかし、今後は雇用形態の変化に伴い、必ずしも出向前の待遇を保証しないような出向や、出向先法人が負担する出向者給与負担金についても成果を考慮した変動部分が入ってくるかもしれません。
税務上は、まず出向と転籍を法形態として区分したうえで、出向については、上記のような出向をめぐる諸事情にかかわらず、出向者本人に支給される給与の額と労務の提供先がどこであるかを中心として、課税関係を構成しています。仮に、法形態が出向であり、出向者は出向先法人で100%労務を提供している場合、出向先法人は少なくとも自己の給与水準による給与の額を負担すべきであり、出向者が出向の条件として保証されている出向元法人の給与水準がそれより高い時には、その差額は出向元法人又は出向先法人のどちらが負担してもよいとしています。つまり、「分相応の応益負担」という考え方で、シンプルな考え方であるが故に様々な出向の事情に対応できるようになっています。 したがって、出向者本人は出向先法人で100%労務を提供しているのに、支給される給与の大半は出向元法人が実質的に負担しているような場合は、出向元法人において、出向先法人への無償の利益供与として寄附金・贈与の問題が発生することになります。
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