目次 I-4


4 消費税の用語

(1) 基準期間とは

2年前の期間 先生  さて、消費税の計算をする際、特殊な用語がいろいろ出てくるから、ここでまとめておこうね。伊呂波くん、どんな言葉が出てくるかな?

一郎  ええと――基準期間、課税売上高、課税仕入高……。

先生  そうだね。順番にいこうか。まず、「基準期間」って何かな?

一郎  はい。2年前の期間です。

先生  うむ。今年の分の消費税を計算する際、今年が課税期間で、その2年前の期間が基準期間だね。


爽香  2年前がどうかしたんですか?


免税や簡易課税の
判定に使う
先生  さっき説明した免税事業者(1,000万円以下)や簡易課税の特例(5,000万円以下)に該当するかどうか、それは2年前の期間の売上高で判定するんだよ。

爽香  ふーん、どうして今年のを使わないんですか?

先生  年間売上高が判明するのは、その年が終ってからだね。それでは今年の消費税がどうなるか、翌年にならなきゃ分からない。だから期間のスタート時点で免税かどうか、簡易課税でいけるかどうか、ハッキリさせようということでそういう扱いになってるんだね。

一郎  なるほど、そういうことでしたか。

先生  ついでの話だけど、23年度の改正で“免税”扱いに関して変更があって――2年前の基準期間が1,000万円以下でも、前年の上半期が1,000万円を超えていたら、今年は課税事業者になるという扱いが導入されたんだよ。ま、このことは、後で詳しく説明しようね。

爽香  なんだか、ややこしそう……。


個人の場合は
前々年
先生  それから2年前ということに関して、個人の場合は話が簡単だね。消費税も所得税と同じく暦年課税で、毎年1月1日から12月31日までが課税期間だから、基準期間は“前々年”ということで何も問題はない。ところが、法人の場合はどうかな、伊呂波くん。

一郎  前々期、でしょう?

先生  1年決算の場合はそうだね。でも、そうでなければ……。

一郎  あ、そうか。どうなるんだろう。


法人の場合は複雑 先生  基準期間を正確にいえば、「その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間」ということになる。

一郎  ??

先生  半年決算の会社を考えてみようか。たとえば、27年9月期の消費税を計算する際、基準期間はどの期間なのか。


一郎  ええと、事業年度開始の日が27年4月1日で、その2年前は25年4月1日……。

先生  いや、2年前は4月2日だよ。その前日が4月1日。

一郎  あ、そうか。そこから1年経過する日は――26年3月31日?

先生  そうだね。その1年間の中で開始する事業年度といえば、25年9月期と26年3月期だよね。

一郎  ええ。ということは、25年4月1日から26年3月31日の1年間が基準期間なんですか?

先生  そういうこと。

爽香  ああ……わたし頭が痛くなってきた。

先生  まあ、こういうややこしい話はめったに出てこないから安心して。

爽香  そんなのしょっちゅう出てきたらたまらないわ。

先生  通常は1年決算だから、基準期間は“前々期”と理解しておけばいいよ。



(2) 課税売上高とは

消費税を
含まない金額
先生  じゃあ次に、「課税売上高」って何だろうね、伊呂波くん。

一郎  消費税のかかる売上げ、ですか?

先生  まあ、そういうことかな。売上げでも消費税のかかるもの、かからないものがあるからね。ところで爽香くん、この課税売上高には、消費税を含んでるか含んでないか、どっちだと思う。

爽香  さあ、どちらかしら。

先生  含まない、税抜きの金額だよ。これに8%の税率をかけて税額を計算する元になる金額なんだから……税金を含んでたらおかしいよね。

爽香  そういえばそうね。


非課税の
売上げもある
先生  さて伊呂波くん、消費税のかからない売上げって、たとえばどんなのだろうね。

一郎  非課税の売上げは、ええと、土地の売却や地代、住宅の家賃、受取利息……などですね。

先生  うむ。まだまだあるけど、これもまた後で説明しよう。あと、気をつけるべきは、簿記会計でいう売上げとは概念が違う、という点だね。

一郎  決算書に上がってる売上げだけじゃないんですよね、消費税でいう売上げは。


簿記会計の
売上高より
範囲が広い
先生  会社で作る損益計算書でいけば、“営業外損益”や“特別損益”の部に計上された項目も入ってくるね。しかも、決算書の数字そのままじゃない。

一郎  はあ? どういうことですか?

先生  たとえば建物を売って、売却益が100万円上がってるとしようか。消費税の課税売上高はこの100万円じゃないよね。

一郎  ……。

先生  簿価1,000万円の建物を1,100万円で売って、100万円の売却益が計上されているとしたら……。

一郎  あ、そうか。1,100万円が課税売上高ですね。


先生  そうだね。売却時点で相手から受け取る消費税は、1,100万円×8%=88万円であって、100万円×8%=8万円じゃないからね。

爽香  ふーん、そうなの。


売却損も
課税売上げ?
先生  さらにいえば、売却損の科目からも課税売上高が発生するよ。

爽香  え、どうして?

先生  古くなった機械を処分したとき――たとえば、簿価100万円のものをスクラップ価格の10万円で処分すれば、90万円の売却損が出る。このときどうなるかな?

爽香  なるほど。10万円に消費税がかかるのね。


先生  実務で気をつけるべきは、車の買い替えだね。古い車を下取りしてもらって、支払いはそれを相殺した金額でするのが普通だけれど、そのときも下取り価格が課税売上げになるからね。消費税の計算で、もれないように気をつけて。

爽香  うーん。消費税の話って、聞けばきくほど奥が深いのね。



(3) 課税仕入高とは

通常は
領収書などで判断
先生  課税売上げに対する、課税仕入れについても簡単に説明しておこうか。
 まず、これも課税売上高と同じく税抜きの金額だね。で、消費税の納税額は「課税売上高×8%−課税仕入高×8%=納付税額」の計算で求めるから、納める税金を減らすためにどこまでこれを控除できるか、大事な話なんだよ。

一郎  請求書や領収書で判断するだけじゃダメですか?

先生  普通はそれでいいだろうね。消費税を上乗せしてるということは、先方ではその分、課税売上げ扱いしてるだろうから……。でも、実務的には判断に迷うケースもときどきあってね。

一郎  そうですね。僕も処理していて、先生にご相談することがよくあります。


相手方で
課税売上げなら
課税仕入れ
先生  みんな節税のため課税仕入れにしたがるけれど、忘れてならないのは、当方で課税仕入れになるからには、売り手側では課税売上げに該当するという整合性だね。先方は消費税を納めない、当方は課税仕入れで控除するでは、税務署も黙っちゃいないからね。


一郎  そりゃそうでしょう。そんなのいいとこ取りですよ。


簿記会計の
仕入高より
範囲が広い
先生  それから、課税売上げと同じように、ここでいう仕入れも簿記会計のものより範囲が広い、という点には注意を要するね。

一郎  商品や原材料の仕入れだけじゃないですものね。販売費や一般管理費も入るし……固定資産を買ったときも仕入れなんだから。

爽香  あら、わたしも少しは簿記の勉強してるから分かるけど、固定資産って減価償却で費用になるんでしょう?

一郎  いや、だけど消費税では買った年に全額仕入れ扱い――ですよね、先生。



売上高より
仕入高が
大きければ還付
先生  簿記会計ではいったん資産に計上して、そのあと償却計算で徐々に費用に振り替えるけれど、消費税には減価償却という概念はないんだよ。伊呂波くんの言うように、初年度に全額仕入れとして控除できるから、大きな買い物をした年は消費税がマイナスになる場合も珍しくないね。

爽香  マイナス?

先生  納税額がマイナスということは還付だね。仕入れの際に立替払いした税金が大きすぎるから、申告すれば戻ってくるケースで、よくある話だよ。

一郎  そうですね。還付申告もときどき出てきますよね。



すべての
経費項目が
課税仕入れ
ではない
先生  あと気をつけるべきは経費項目で、販売費や一般管理費の全部が、課税仕入高というわけじゃないからね。

一郎  人件費なんて控除できませんね。

先生  要は、相手方で課税売上げにならないもの――金利、地代、保険料、租税公課、法定福利費……こういうものは課税仕入れにならないからね。

爽香  いろいろ、覚えなきゃならないわ。

先生 仕入税額の控除に関しては、23年度に大きな改正(“95%ルール”の見直し)があったんだけど、これは後で詳しく説明するね。

 

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