目次 I-3


3 改正前の取扱い

 消費税では、原則として、仕入れに係る消費税額は、課税仕入れを行った日の属する課税期間において全額控除することができる。

 しかし、固定資産などのように長期にわたって使用されるものについては、その購入時の用途や購入した日の属する課税期間における課税売上割合のみで仕入税額控除を完結させてしまうと、途中で用途変更があった場合や課税売上割合が大きく変動した場合に売上げと仕入れの対応関係の実態に大きくずれが生じてしまう。

 そこで、調整対象固定資産について〔1〕課税売上割合が著しく変動した場合、〔2〕調整対象固定資産を転用した場合には、仕入れに係る消費税額の調整を行うこととしている。


(1) 課税売上割合が著しく変動した場合

 課税事業者が、調整対象固定資産につき課税仕入れ等の税額を、個別対応方式のうち課税非課税共通に要するものに課税売上割合を乗じて計算した場合又は一括比例配分方式により計算した場合において、課税仕入れ等の課税期間の課税売上割合に比して、その後3年間の通算課税売上割合が著しく変動しているときは、その第3年度の課税期間において〔3〕のAとBの差額を仕入れに係る消費税額に加算又は控除する調整を行う。

〔1〕 対象となる場合
【課税売上割合が著しく変動した場合】
一括比例配分方式
個別対応方式 課税非課税共通に要するものに対応
個別対応方式 課税売上げにのみ要するものに対応 ×
個別対応方式 非課税売上げにのみ要するものに対応 ×
課税売上割合95%以上(※) ×
※ 課税売上割合が下がる場合は、課税売上割合が95%以上でも適用がある。

〔2〕 要 件
 次のいずれにも該当すること
当初の課税売上割合−通算課税売上割合

当初の課税売上割合
50

100
  又は
 
通算課税売上割合−当初の課税売上割合

当初の課税売上割合
50

100


当初の課税売上割合−通算課税売上割合

100
  又は
 
通算課税売上割合−当初の課税売上割合

100

〔3〕 調整金額の計算式
 A:調整対象基準税額×仕入れ等の課税期間の課税売上割合
 B:調整対象基準税額×通算課税売上割合
  通算課税売上割合 3年間の国内における課税資産の譲渡等の合計額

3年間の資産の譲渡等の対価の合計額
 調整対象基準税額とは、第3年度の課税期間の末日に保有しているその調整対象固定資産の課税仕入等に係る消費税額をいう。

 例
甲社の場合
  課税売上げ 非課税含む総売上げ 課税売上割合 課税仕入高
・平成21年度 400万円 4,900万円 8.1%
・平成20年度 400万円 4,900万円 8.1%
・平成19年度 200万円   250万円  80% 10,000万円

(1) 甲社は、平成19年度にマンションを10,000万円(税抜き)で取得した。

(2) 税額調整の判定
・通算課税売上割合
400万円+400万円+200万円

4,900万円+4,900万円+250万円
≒9.9%
・判定
80%−9.9%

80%
=87.625%≧50%
80%−9.9%=70.1%≧5%   ∴適用あり

(3) 調整税額
10,000万円×5%=500万円
A:500万円×80%=400万円
B:500万円×9.9%=49.5万円
A−B=350.5万円
甲社は平成21年度の申告で、350.5万円を仕入税額控除の金額からマイナス(納付税額が多くなる)される。マイナスしきれない金額は、課税資産の譲渡等に係る消費税とみなされることとなる(納付することになる)。
(注) この調整を逃れるため、たとえばこのケースであれば、平成20年度以後に免税事業者を選択して免税事業者となり、課税逃れをする行為が行われたため、法律が改正されることとなったのである。

〔4〕 調整を逃れるためには
 調整対象になるのは、第1事業年度と第3事業年度が課税事業者である場合なので、第3事業年度において(1)免税事業者になる、(2)簡易課税選択事業者になるという方法を採ると課税を逃れることができた。


(2) 調整対象固定資産を転用した場合

 消費税では、課税業務用の調整対象固定資産を取得した場合は、原則として、その全額が控除できるのに対して、非課税業務用のものを取得した場合は全額控除できないこととなっている。

【仕入税額控除】
【仕入税額控除】

 そこで、調整対象固定資産を取得してから3年以内に転用した場合には、次の調整をして、転用日の属する課税期間の仕入税額に加減算することとなっている。

(1) 1年以内……調整対象税額の全額
(2) 2年以内……調整対象税額の3分の2
(3) 3年以内……調整対象税額の3分の1
※ 調整対象税額とは、調整対象固定資産に課せられた消費税額のことをいう。

〔1〕 対象となる場合
【転用した場合】
一括比例配分方式 ×
個別対応方式 課税非課税共通に要するものに対応 ×
個別対応方式 課税売上げにのみ →非課税売上げのみ
個別対応方式 課税売上げにのみ →課税非課税共通 ×
個別対応方式 非課税売上げにのみ→課税売上げのみ
個別対応方式 非課税売上げにのみ→課税非課税共通 ×
課税売上割合95%以上 ×
 転用の場合は、課税売上割合が95%以上の場合や一括比例配分方式を適用している場合には適用がないし、個別対応方式を採用している場合であっても、共通用に区分したものを転用した場合や共通用に転用した場合には適用がない。

〔2〕 具体例
 具体例は、本書の第3章3の調整対象固定資産を転用した場合を参照されたい。

〔3〕 適用を逃れるためには
 調整対象になるのは、第1事業年度と第3事業年度が課税事業者である場合なので、第3事業年度において(1)免税事業者になる、(2)簡易課税選択事業者になるという方法を採ると課税を逃れることができた。

 

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