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第2編 実践Q&A |
1.一般社団法人の設立と運営 |
株式会社の代わりに一般社団法人を用いることで、事業承継や相続税対策に役立てると聞きました。具体的にはどのようにすればよいのか、教えて下さい。 一般社団法人の行うことができる事業には、特段の制限がありません。設立も定款認証・登記だけで可能ですので、迅速な設立が可能です。設立には最低限2人が必要になります。 (1)一般社団法人の設立は株式会社とほぼ同様に考えてよい。 (2)設立は社員2人以上がいれば可能で、理事は1人必要。 (3)決算申告及び登記は株式会社とほとんど同じ。 (4)一般社団法人の財産は相続財産にならない。 (税務上の諸手続) [1] 1階法人あるいは2階法人になるかの決定 [2] 収益事業課税内容の検討(2階法人の場合) [3] 法人設立届出・青色申告承認申請(1階法人の場合)・消費税届出(共通) [4] 収益事業開始届・青色申告承認申請(2階法人の場合で収益事業開始時) [5] 法人税・法人地方税・消費税の申告(事業年度末から2か月以内)
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1 一般社団法人の設立 |
(1)一般社団法人の設立手続 |
濱田● | 株式会社の代用として、一般社団法人を利用できるということですが、設立手続は、どのようになるのでしょうか。 |
白井● | 一般社団法人は、名前の通り人の集まり(社団)ですから、社員が2人以上必要になります。設立時社員2人以上が集まって、定款を作成し、公証人の認証を受けて、法務局で登記を行えば、法人が設立できます。 |
北詰● | 定款では、絶対的記載事項を押さえておけば、後は全てオプションと理解しておけばよいわけです。 |
(2)株式会社の設立との異同 |
内藤● | ということは、要するに、株式会社の設立とほとんど同じと考えてよいのでしょうか。 |
北詰● | そうですね。設立までのスケジュールもほとんど同じです。敢えて違いを述べれば、まず、登記の手数料が一般社団法人の方が安いです。さらに、事業目的として、営利性が不要なので、ボランティアのみを目的とする法人でも設立できます。 |
岡野● | 北詰さんの仰る営利性というのは、商売っ気があるかどうか、という意味ですね。 |
北詰● | そうです。非営利法人というときの非営利は、構成員に分配を行わないという意味で使いますので、少しややこしいですね。 |
村木● | あと、当然ですが、資本金の払込みがありませんよね。資本金と劣後債務である基金とを混同してしまう人が結構いるようですが、別物です。基金は登記されるのですか。 |
北詰● | されません。基金は純資産の部に表示されますが、あくまでも債務に過ぎません。 |
(3)その他の設立手続 |
濱田● | その他設立関係の手続で必要な事項は何がありますか。 |
白井● | 理事を1人選任することが必要ですね。ただし、社員と兼任できますので、自分と妻2人でOKです。 |
内藤● | 理事を3人以上設置しなくてはならないとか、監事を設置しなければならないという義務はないのですね。 |
北詰● | 敢えて定款で設置しない限り、負債が200億円以上の大規模法人以外は、任意設置ですね。 |
濱田● | あと、株式会社における株主名簿のようなものを作成する必要があるのでしょうか。 |
北詰● | あります。社員名簿の作成が必要です(一般社団法32)。社員が入れ替わってしまい、後で誰が社員か分からなくなる事態を避けるため、きちんと管理していくべきでしょうね。 |
白井● | 法人税申告書の別表2のような継続的な管理資料が税務ではありませんから、意識しておく必要がありそうですね。 |
村木● | 機関設計では、会計参与がない以外、他に株式会社との違いは特にないと考えておけばよいでしょうか。 |
北詰● | そうですね。ただ、監査役会に対応する監事会というのはないのですが、皆さんの実務に弊害はないかと思います。 |
(4)税務関係の届出書類 |
岡野● | 法人税・源泉所得税・地方税・消費税関係の届出事項については、選択の基本は、株式会社と同じと考えてよいのでしょうね。 |
村木● | そうですね。ただし、消費税については、一般社団法人は、特定収入計算の対象となります(消法60)。会費収入がある場合以外は、まずほとんど出てこない論点でしょうけど、国や地方公共団体などから補助金収入を得た場合や、寄附金収入・受贈益のある場合は要注意でしょうね。 |
濱田● | ところで、今回は1階法人を前提にしていますので、株式会社とほとんど同じなのですが、2階法人の場合は、届出の考え方が違うそうですね。 |
白井● | この点については、まず、一定の要件を満たしている2階法人と満たさない1階法人とで法人税法上の所得区分が異なることを押さえておく必要があります。 1階法人は全所得課税で無制限納税義務者ですが、2階法人は収益事業課税で制限納税義務者です。 それを念頭に置くと、2階法人は収益事業課税なので、収益事業開始時に収益事業開始届出や青色申告届出書を提出すれば足ります。法人税の設立届出や青色申告届出書を、設立時に提出するわけではありません。 |
内藤● | 逆にいえば、法人設立届出を設立時に出せば、1階法人を選択したとの意思表示になりかねないのでしょうね。仮に、財産の寄贈を受けてしまっていた場合、1階法人であれば受贈益に課税されてしまいます。既に法人設立届出が出ていれば、課税を免れられないのでしょうね。 |
岡野● | いや、これについては、決算をまたぐ前に税務署に相談して、取り下げることで2階法人の選択を許された例があるようです。もちろん、理事数の同族3分の1以下要件などを満たしていたのでしょうけど。 |
村木● | 自分が選択しているのが2階法人なのか、1階法人なのかはきちんと認識しておく必要がありますね。特に2階法人は要件を満たさなければ選択できませんから。 |
濱田● | ところで、収益事業がない2階法人を設立する場合はどうなるのでしたっけ。 |
白井● | 通常最低額の均等割だけ納付することになります(地法52四・同312四)。 |
内藤● | 定款の決算期に関係なく、前年4月1日から3月31日までの間に、事務所又は事業所を何ヶ月有していたかによって、毎年4月末までに申告・納付を行う必要があります。 |
岡野● | 免除制度もないので、注意が必要ですね。 |
村木● | あと、法人設立届出の地方税分だけは提出が必要ですね。税務署が不要でも、都道府県や市町村が不要なわけではない点は、注意すべきでしょう。 |
濱田● | なお、労務関係の届出の一覧は下記です。 |
■労働基準監督署への提出書類
■ハローワークへの提出種類
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(5)設立時役員報酬の決定 |
白井● | 理事を選任した場合、理事報酬を支払うことになります。法人税法第34条の規制を受けますので、定期同額給与とするためには、設立時以後同額の給与を支給していく必要があります。 |
内藤● | 当然のようですが、社員は役員(一般社団法63)ではありませんから、社員のみの地位では、役員報酬を得ることはできません。理事ないし監事を兼任して、理事あるいは監事としての報酬を得ることができるのにすぎません。 |
岡野● | 時折、理事や監事というだけで報酬を得てもいいのかとの質問がありますが、当然にダメです。この点は、株式会社と変わりません。 |
村木● | 最近の税務調査では、勤務実態のない同族関係者への給与支給は念査事項の1つですので、要注意ですね。 なお、設立後3か月以内の理事報酬の改定は、定期同額給与とすることが可能です(法令69一イ)。 |
■一般社団法人の設立の流れ |