2 債務者と交渉して債権回収を図る
 
 
1 債権を強化する! II-2-1

 
【1】 ぜひとも実行したい債権強化策
 
 返済が滞りがちになっても、債権者と債務者の間に長年続いてきた関係があったり、債務者側にやむを得ない事情があるという場合、いきなり法的回収手段に出ることは少ないでしょう。むしろ、債務者と交渉をし、支払に一定の猶予を与えたり、支払条件を緩和するなどして、債務者からの任意の支払を期待することが多いでしょう。
 けれども、債権者としては、ただ漫然と支払の猶予を与えたりしていてはいけません。将来、債務者が全く支払をしなくなることを想定して、そのときにできる限り債権を回収できるよう、債権を強化しておくべきです。
 債権強化策としては、(1)債務承認と支払約束の覚書をとっておく、(2)担保をとっておく、(3)債務名義をとっておく、ということが考えられます。
 これらはすべて債務者の協力なしにはできませんし、(2)と(3)は債務者に抵抗感があることも多く、また、少々手間がかかりますが、(1)は最低限やっておくべきことです。(3)については、後の項で説明します。
 
 
【2】 債務承認兼支払約束の覚書をとっておく!
 
 債務承認兼支払約束の覚書をとる意味は次の点にあります。

(1) 債権の存在と支払約束をした事実を証拠化する
 支払に猶予を与えると、債権の発生から時間が経過してしまい、後になって、債務者が、誤解か故意かは別として、債務があること自体を否定するおそれがあります。また、当初の約束とは異なる支払日や支払回数を口頭だけで約束すると、後日、それをめぐってもめたときに、言った言わないの争いになってしまいます。このような事態を避けるために、証拠化しておくのです。

(2) 債務の承認になるので、時効中断が働く
 債務承認・支払約束の覚書を書いてもらうことで、時効の進行が振出しに戻り、覚書を作成した年月日から、新たに時効期間が進行します。
 
(3)  期限の利益喪失の約束をしてもらい、支払猶予などをしても、いざというときには全額の権利行使ができるようにしておく
 
(4)  継続的に発生した複数の売掛債権が対象となっているときは、これを一本化して明確にする
 債務者に継続的に商品を売っており、その中で発生した複数の売掛債権の支払が滞留してきたとき、放っておくと、どの債権が未払かを把握するのも困難になりますし、それぞれに2年の時効期間が進行し、債権管理が非常に煩わしくなります。このような事態を避けるため、「継続的取引(売掛債権)の債務承認兼支払約束の覚書」のようなものをもらい、債権を一本化して明確にするのです。

   
【3】 担保をとっておく!

 担保とは、債務者が債務を履行しなかった場合債権者が受けるリスクを考慮して、あらかじめ債務の弁済を確保し、債権者に満足を与えるために提供される手段をいいます。
 「担保」として思いつくのは、保証人の保証、抵当権でしょうが、担保にはそれ以外にも、上の表にあるような種類のものがあります。
 一般に、「担保をとる」という場合の担保とは、物的担保のうちの約定担保や人的担保のことを指しています。


【4】 どのタイミングで担保をとる?

 債務者が約定担保を提供してくれたとしても、そのとき債務者が経済的に破綻しており、その後破産宣告を受けたような場合、破産管財人が担保を否定(否認)してくるおそれがあります。
 したがって、担保をとるのは、債務者はもうダメだ、というときでは遅いといえます。むしろ、債務者がまだ取引を続けて行けそうなときにこそ、とっておくべきなのです。


【5】 担保をとったらすぐ対抗要件を!
 
 また、担保を受けたらできるだけ早く、その担保権を第三者に対抗(主張)するための要件(対抗要件)を備える必要があります。対抗要件とは、例えば、抵当権なら抵当権設定登記、債権譲渡担保ならば内容証明郵便等でその債権の債務者に債権を譲り受けたことを通知することです。
 担保だけもらっていて、債務者が経済的に破綻してからあわてて対抗要件を備えても、債務者が破産宣告を受けたら、破産管財人から対抗要件を否認されてしまいます。
 対抗要件がないことになると、せっかく担保をとっても破産管財人に対しては無力ですから、対抗要件を素早く備えておくことが重要なのです。

 

次ページ