II.実際の債権回収はこうして進める
 
 
1 債権回収をはじめる前に現状を確認
 
 
1 債権回収のプロセス II-1-1
  
【1】 まずは交渉から
 
 近代社会以降、自力救済は禁止されています。つまり、権利を有していても、相手が拒む場合には、その実現はすべて司法の手を借りる必要があります。売掛債権があっても、あくまで債務者が支払を拒むときは、債権者自らが債務者の金庫にあるお金をとってくることはできません。権利があれば自力救済できるとなると、権利があると勝手に決めて実力に物をいわせ相手にいうことを聞かせるような無法者の天下になりかねませんし、権利があったとしてもその行使の方法や程度が度を過ぎてしまうおそれがあるからです。
 したがって、司法手続を使わずに債権回収を図ろうとする場合、債務者に支払能力(資力)があっても、支払意思がなければ不十分で、支払意思を引き出す(支払う気にさせる)交渉術が必要になるのです。
 債務者が支払をしない原因はさまざまです。例えば、単に債権者からの請求書が届いていないからであったり、債権者の納入商品にクレームがあるといった、債権者側に原因がある場合も少なくありません。また、一時的に債務者の資金繰りが悪化したため資力が低下していることが原因である場合には、債務者に厳しく支払を迫ってみても、それはただ債務者を苦しめるだけです。そのほか、資産がないといって支払わない債務者の場合でも、債務者宅や営業所を訪問し、債務者の生活実態を把握し、収支の内容を細かく聞き出すことで、債務者のウソが露呈することもあります。
 そこで、債務者との交渉の中で、債務者が支払をしない原因を探し、債権者がその原因の払拭に務めたり、現状から債権者債務者双方にとって利益になるポイントを見つけ、そこで折合いをつけることで、債権の回収を図ることができる場合も多いのです。交渉によっても埒があかないといった特別のケースについて、司法の手を借りることになるのです。
 
金銭債権回収のプロセス

【任意の回収】
・請求書の送付、電話、訪問などによる支払の催促、交渉
内容証明郵便の送付
 

 
【強制的回収】

 
【2】 債権回収のための司法手続
 
 それでは、債権の回収のために司法はどのような手段を用意しているのでしょうか。
 上のように、法は、債務者が任意の履行に応じない場合には、裁判所(執行裁判所)を通じ、担保権の実行と強制執行という手段によって、債権の回収を図ることを許しています。これら2つの手続は、「民事執行法」に定められています。

【担保権の実行】
 抵当権や質権等の担保権に基づいて、目的財産を競売等の方法で強制的に換価して、被担保債権の満足を図る手続。

【強制執行】
 債権を国家権力によって強制的に実現し、いわば履行があったのと同じ状態にする手続。
 金銭債権の実現は、「債権の存在を確定→債務者の財産を差押→これを換価→換価金を債権者に交付」という手続を踏みます。


【3】 担保権の実行と強制執行との相違点

【担保権の実行】
 担保権があることを証明する文書を執行裁判所に提出することによって、その実行を開始することができる。
 この文書は、抵当権等の担保権を設定するときに既に揃っているものか、日常取引の中で揃えることが可能なものです。

【強制執行】
 「債務名義」(サイムメイギ)という文書を執行裁判所に提出しなければならない。
 この「債務名義」とは、強制執行によって実現しようとする権利が確かに存在することを公に証明する文書です。「債務名義」の中でもっともわかりやすいものは、判決です。
 判決のような文書によって権利の存在が証明され、強制執行をしてもよいという執行力が認められてはじめて、執行裁判所が迅速に執行を開始することができるのです。


【4】 「債務名義」の種類と取得手続

 下表にあるように、「債務名義」にはさまざまなものがあります。また、これを取得できる手続も債務名義の種類に応じてさまざまです。
 どの債務名義をとるかは、どのような状況にあるか、その状況下でどの手続を選択できるか(または、すべきか)、にかかっています。手続選択の目安を知っておくことは、債権回収率の向上につながるでしょう。
 
  〈債務名義の種類と取得手続の使い分け(概要)〉
債務名義の種類 取得手続 どのような場合にその手続を選択するか
(即決)和解調書 即決和解(訴え提起前の和解)申立 債権者と債務者との話合いで解決できた内容を債務名義に残しておき、当面は債務者からの任意の履行に期待するという場合
公正証書 公証人役場へ
調停調書 民事調停申立 債権者に証拠がなかったり、負い目があったり、訴訟までしたくないなどの理由で、100%権利を実現しなくてもよいと考えている場合など、何とか債務者と話合いで解決できる可能性はあるが、第三者に間をとりもってもらえないと話ができないという場合
(少額訴訟)判決 少額訴訟提起 60万円以下(平成16年3月までは30万円以下)の少額の債権であり、1日で審理を終え、判決を出してもらえる状態に証拠が揃っている場合
仮執行宣言付
支払督促
支払督促申立
    +
仮執行宣言申立
債務者が債務を負っていることを否定する可能性はないが、分割払いにするなどの話合いもできず、任意の支払が期待できない場合
判決 民事訴訟提起 債権者にはある程度勝ち目はあるが、債務者が債務を負っていることを否定していたり、態度がのらりくらりで、任意の支払を期待できない場合
手形訴訟提起

 

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