目次 第1章−7


7.数字を読む上でのちょっとしたテクニック
―― 知っておくと必ず役立つ!

 今度は、数字を読む上で知っておくと便利な、ちょっとしたテクニックをお話しします。こうしたテクニックを知っておくことも、「おかしな数字」に対する基本姿勢としては必要なことといえるでしょう。以下では、特に、合計した数字をチェックするテクニックに関するものをとりあげます。


1「間違っていないかどうか」のチェック

図表2 合計は正しい?
図表2 合計は正しい?

 図表2の計算は正しいでしょうか。もし計算する時間が十分にあれば、電卓を使い計算チェックすればよいことです。もし、電卓もない状態で10秒で確認してくださいと言われたら、あなたならどうしますか。

 「正しいかどうか」を確認する目的であれば、1の位の数字のみ合計してみれば(図表2(1))、合計が「正しいかどうか」高い確率でわかります。この方法は、多くの数字を合計するときなど、合計すべき数字に漏れがないかどうか、素早く確認する方法としてよく用いられます。気を付けなければならないのは、1の位の合計が実際の合計値の1の位の数字と合っていたとしても、漏れている可能性は10分の1あるということです。

 最近では、表計算ソフトを使って多くの数字を合計するということがありますが、最後の数字が計算式に含まれておらず、合計が誤っていることがときどきあります。このようなことがないかどうか確認する手段として、この方法を利用してみるのが効果的でしょう。

図表2(1)
図表2(1)


2 「おおむね合っているか」のチェック

 先ほどの図表2で、今度は「おおむね合っているか」どうか、10秒で確認してください、と言われたらあなたならどうしますか。もうおわかりかと思いますが、たとえば1億の位だけ足してみて、実際の合計値と合わせてみるということを行います。「おおむね」の精度を上げようと思えば、百万の位以上を足す、というように足す位を下げれば、これに対応することが可能です。

 図表2の例を使えば、千万円単位で四捨五入し、億単位で合計すると、

 3+1+0+6+3+0+0+2+0+0=15

となり、だいたい15億円ということになります(図表2(2))。精度をもう少し高めようとすれば、百万単位で四捨五入し、千万単位で合計します。

 29+13+2+57+34+0+0+23+0+1=159

となり、だいたい15億9,000万円であることがわかります(図表2(3))。

図表2(2)
図表2(2)

図表2(3)
図表2(3)

 この方法がとられるのは、計算すべき数字の漏れは起こりにくいが、計算自体を誤ってしまうリスクがある場合に用いられる方法です。たとえば、加算だけではなく減算もあるような計算が行われる場合、加算すべきところを減算していないか、確認する手段として効果的といえるでしょう。


3 有価証券報告書等の合計が合っているかどうかのチェック

 有価証券報告書の財務諸表等では、表示単位が千円もしくは百万円単位になっています。ですので、そのまま表示されている数字を足しても合計があっているかどうかわかりません。しかし、「間違っていないかどうか」を確認することはできます。ちなみに、財務諸表等では、表示単位未満で切り捨て表示されるのが一般的です。

図表3 ある上場企業の有価証券報告書における連結貸借対照表(流動負債の部のみ抜粋)
図表3 ある上場企業の有価証券報告書における連結貸借対照表(流動負債の部のみ抜粋)

 図表3の数字をそのまま合計すると、47,280になります。十万の位以下で切り捨てられているため、当然一致しません。では、いくらまでの差異であれば、「間違っていない」との心証が得られるでしょうか。

 足していくそれぞれの数字の切り捨てられた数字の最大値は、表示単位である百万円以上になることはありません。たとえば、支払手形及び買掛金の残高は、29,025,000,000円以上29,025,999,999円以下であり、29,026,000,000円には当然なりません。ここで、すべての流動負債につき、1ずつ大きい数字と仮定して合計を出します。すると、

 29,026+1,501+4,001+3,974+2,467+27+307
+1,698+178+157+3,955
 =47,291

となります。実際に1円単位まで計算したとしても、47,291百万円にはなりえないので、なりうる最大値としては、

 47,291−1=47,290

となります。そうすると、円単位で合計してありうる数値は、そのまま表示単位で合計した47,280から47,290ということになります。実際に円単位で合計し、百万円単位で表示した47,284はこの範囲のなかにありますので、流動負債合計は正しいと推定されます。

 言い方をかえれば、そのまま表示単位で合計した数値47,280と円単位で合計した数値47,284との差異「4」が、合計する数値の数(例では、勘定科目11個分)から1引いた数字「10」までであれば、合計値は正しいと推定されるということです。


4 入力間違いがないかどうかのチェック

 電卓を使って計算チェックをするとき、たとえば293,490,383と入力するところを29,349,038と入力してしまい、合計が誤って計算されてしまうことはないでしょうか。こうしたミスがないかどうかをチェックする方法があります。

 あらかじめ正しいと思われる合計値の数字と実際に電卓で計算した数値の差額を出します。その差額を0.9で割ります。割って算出された数値がもし足し込んでいった数字の1つと一致したならば、それが一の位まで入力できなかった数字です。

 図表2の例で、293,490,383と入力するところを29,349,038と入力してしまったとします。すると合計は、1,344,003,704となります。これと正しいと思われる合計値1,608,145,049との差額は、264,141,345です。これを0.9で割ると、293,490,383(端数切り捨て)が得られます。つまり、293,490,383を誤って入力していたということがわかるというわけです。

 この方法は、多くの数字を合計した合計値を、あらためて電卓を使って再計算した結果、差異が生じた場合、電卓の打ち間違いなのかどうか、簡単にチェックするものとして使われます。


ポイント
 数字の合計が間違っていないかどうか、すばやくチェックする方法を身につけておくことも「おかしな数字」を見抜く上で、1つのテクニックとなる。

 

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