目次 I-13


13 確定給付型退職給付制度から他の確定給付型退職給付制度への移行


Question
 当社では、税制適格退職年金制度を採用していますが、税制適格退職年金は平成24年に廃止されると聞いております。そこで、税制適格退職年金をこれに類似した規約型確定給付企業年金制度に移行したいと考えていますが、その場合の会計処理上の留意点を説明してください。



Answer

(1) 基本的な考え方

 企業会計基準適用指針では、確定給付型の退職給付制度から他の確定給付型の退職給付制度に移行した場合には、原則として移行前後の制度を一体のものとみなし、移行前の制度について退職給付制度の終了とはしない考え方をとられています。

 ただし、移行前の制度が移行後の制度に名目的にしか引き継がれていない場合には、移行前の制度の終了と移行後の制度の導入として取り扱います。


(2) 単一の退職給付制度から複数の退職給付制度へ移行する場合

 ある確定給付型の退職給付制度を複数の確定給付型の退職給付制度に移行する場合には、それぞれの移行ごとに制度の終了を判断します。例えば、移行前の退職給付制度の50%を規約型確定給付企業年金制度に移行し、残りの50%を確定拠出型退職年金制度に移行する場合には、前者の部分は移行前後の制度を一体のものとみなし、後者の部分は終了として処理します。


(3) 複数の退職給付制度から複数の退職給付制度へ移行する場合

 退職一時金制度と税制適格退職年金制度を採用している企業が、規約型確定給付企業年金制度と確定拠出退職年金制度に移行する場合、移行前の制度のどの部分が移行後のどの制度へ移行したのかが労使合意規約などで明らかな場合は、問題ありません。しかし、対応関係が明らかでない場合は、退職給付債務比率による等何らかの方法で按分計算をすることにより、継続部分と終了部分を分ける必要があります。

 ・移行前:退職給付債務   A制度(確定給付型)  100  
    B制度(確定給付型)  200  
 ・移行後:退職給付債務   A制度(確定給付型) 50  
    B制度(確定給付型)  
    C制度(確定給付型) 150  
    D制度(確定拠出型)  (既得権換算100)

 この場合、A制度は移行前後で50、B制度は移行前後で200の退職給付債務が減少しています。その減少分合計250のうち、移行前後を一体とみなすC制度には150が移行し、確定拠出型制度であるD制度に100が移行しています。この場合、A制度及びB制度の減少分のうちいくらがC制度あるいはD制度に移行したと考えるのが妥当であるかが問題になりますが、制度の対応関係が規約あるいは移換関係などで明らかでない場合は、比率で按分するのが適当と考えられます。つまりA制度の減少分50のうち、30(50×150/250=30)がC制度に移行したと考え、A制度の存続分50とともに存続処理を行い、20(50×(250−150)/250=20)がD制度に移行したと考え、終了処理を行います。

 また、B制度の減少分200のうち、120(200×150/250=120)がC制度に移行したと考えて存続処理を行い、80(200×(250−150)/250=80)がD制度に移行したと考え、終了処理を行います。


(4) 遅延処理項目の処理

 確定給付型の退職給付制度から他の確定給付型の退職給付制度に移行した場合には、移行した部分について名目的にしか引き継がれていない場合を除き、移行前後の退職給付制度を一体のものとみなし、未認識過去勤務債務、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異(以下、「遅延処理項目」といいます。)の未処理額については、従前の費用処理方法及び費用処理年数を継続して適用します。終了した部分については終了処理を行います。

 なお、移行に際して生じた退職給付債務の増額又は減額(過去勤務債務)並びに移行前の制度に係る遅延処理項目の未処理額は、退職給付制度ごとに区分して把握します。

 また、移行に際して、退職給付債務が増減した場合でも、移行前の遅延処理項目の未処理額については、従前の費用処理方法及び費用処理年数を継続して適用します。


(5) 過去勤務債務の認識

 確定給付型の退職給付制度から他の確定給付型の退職給付制度へ移行した場合に、退職給付債務の増額又は減額があった場合は、その差額を退職給付会計上の過去勤務債務として会計処理することになります。この場合も、名目的にしか引き継がれていない場合には、過去勤務債務を認識しません。


 参考: 企業会計基準適用指針1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」(平成14年1月31日企業会計基準委員会)24項

 

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