目次 I-9


9 大量退職の会計処理


Question
 当社は、今年度末に早期退職制度を実施して、財務体質の改善を図る予定です。当社は税制適格退職年金制度を採用しており、退職給付会計上の会計基準変更時差異及び数理計算上の差異の償却期間は、それぞれ15年と10年を採用していますが、近年の年金資産の運用収益の悪化、割引率の年々の下落により、数理計算上の差異が巨額に累積しています。

 今回の早期退職制度の実施により、従業員の4割近くの応募があるとの予想をしています。このような場合の会計処理はどのようになるのですか。



Answer

(1) 大量退職の処理の考え方の背景

 大量の従業員の退職により退職給付債務の大幅な減額がある場合には、会計上、退職給付制度の終了と類似している現象とみなし、終了の処理として取り扱います。(適用指針8、11(8)、25)

 退職給付債務は、過去の実績により算定された予想脱退率で計算されており、早期退職等により大量の退職が発生した場合は、退職給付債務の著しい減少が発生し、巨額の数理計算上の差異(貸方)の発生が予想されます。

 基礎率の一つである予想脱退率の修正に基づく数理計算上の差異の発生の場合は、数理差異上の差異の費用処理の会計方針に従って、会計処理を行います。

 しかし、数理計算上の差異の発生原因が、特殊な要因による脱退率の変動によるものであれば、数理計算上の差異を一時に費用としない理由が失われているものと考えられます。数理計算上の差異を一時に費用としないのは、基礎率が予測に基づくもので、予測値と実績値では必ず差異が発生するものとの前提のもとに基礎率の変動の許容範囲を認め、毎期末の退職給付債務の計算において、基礎率の変動を退職給付債務に反映させることなく、数理計算上の差異の一定期間の規則的償却により基礎率の予測のゆれを緩和しようとする考えによるのですが、大量退職の場合には基礎率の変動の許容範囲を超える事象が生じたと考えられるわけです。

 このように、特殊な要因による許容範囲を超える基礎率(脱退率)の変動については、退職給付制度の終了に準じて、当該部分について退職給付債務の消滅を認識することが適切として取り扱います。


(2) 大量退職に該当するかどうかの判断

 大量退職に該当するかどうかの判断を一律に示すことは困難ですが、企業会計基準適用指針では、構成従業員が退職することにより概ね半年以内に30%程度の退職給付債務が減少する場合には、大量退職に該当すると示しています。なお、これは例示であって、実務的には個々の企業の実態に応じて判断すべきものとしています。(適用指針25)


 参考: 企業会計基準適用指針1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」(平成14年1月31日企業会計基準委員会)25項

 

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