目次 VI-3


第3章 新たな展開─企業結合会計(参考)

 1 問題点

 ここ数年我が国では、企業結合を含む企業組織再編成に関する法制が整備されてきた。すなわち、合併制度の合理化、株式交換・移転制度の新設、会社分割制度の創設が、商法改正により実現した。また、これらに伴って税制も整備され、企業組織再編税制として統一的観点からの見直しが行われた。

 これに対して、我が国には、企業結合に関する会計基準は、連結会計基準以外にはなく、商法の規定に従う範囲内でさまざまな会計処理が行われている。商法では、合併、株式交換・移転、会社分割のそれぞれにおいて、増加資本金についての規定が設けられている。しかし、受け入れる資産・負債の評価方法については規定がない。そのため受入純資産額が時価以下であれば、任意に純資産額を定めることができる。

 このように現状では、企業結合に適用すべき会計処理基準が明確でないため、経済的実態が同一であっても、法的形式が異なるごとに会計処理が異なる可能性がある。特にここ数年、企業結合が増加の傾向にあることを踏まえると、首尾一貫した会計処理基準を整備する必要性があるといえる。

 このようなことを背景に、企業会計審議会は平成13年7月に「企業結合に係る会計処理基準に関する論点整理」を公表し、以後、企業結合に関する議論が行われている。さらに平成15年8月にそれまでの議論をまとめ「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下、意見書)を公開した。ここでは、この意見書の内容を簡単に見ていくことにする。


 2 意見書の内容

1 対象取引

 企業結合に該当する取引には、ジョイント・ベンチャーの形成及び共通支配下の取引も含め本基準の適用対象とされる。ここに企業結合とは、ある企業(会社及び会社に準ずる事業体をいう)と他の企業または企業を構成する事業とが一つの報告単位に統合されることをいう。ただし、連結財務諸表原則に会計処理に関する定めがあるものについては、本基準の対象取引から除外される。

2 会計基準の基本的考え方

 企業結合には、「取得」と「持分の結合」という異なる経済的実態を有するものが存在するので、それぞれの実態に対応した適切な会計処理方法を適用する必要があるとの観点から基準は作成されている。

 すなわち、「取得」に対しては、ある企業が他の企業の支配を獲得することとなるという経済的実態を重視し、パーチェス法により会計処理することとされる。これは、企業結合の多くは実質的にはいずれかの結合当事企業による新規の投資と同じであり、交付する現金及び株式等の投資額を取得価額として、他の結合当事企業から受け入れる純資産を評価することが、現行の一般的な会計処理と整合するからである。

 他方、企業結合の中には、いずれの結合当事企業も他の結合当事企業に対する支配を獲得したとは合理的に判断できないものがあり、このような「持分の結合」に対しては持分プーリング法により会計処理することとされる。これは、いずれの結合当事企業の持分も継続が断たれておらず、いずれの結合当事企業も支配を獲得していないと判断される限り、企業結合によって投資のリスクが変質しても、その変質によっては個々の投資のリターンは実現していないと見るものである。

 このように取得と持分の結合は、異なる経済的実態を有しているため、会計処理方法も、いずれかの結合当事企業において持分の継続が断たれていると判断されるならば、対応する資産・負債を公正価値で引き継ぐパーチェス法が、すべての結合当事企業において持分が継続していると判断されるならば、資産・負債を帳簿価額で引き継ぐ持分プーリング法が、企業にとっての投資原価の回収計算、すなわち損益計算の観点から優れていると考えることができる。

【取得と持分の結合の区別】図表参照)

 取得と持分の結合は持分の継続という観点から区別されるが、持分の継続は具体的な明確な事実として観察することが困難な場合が多いので、持分の継続を「対価の種類」と「支配」という操作可能な2つの観点から判断する。具体的には、次の要件のすべてを満たすものは持分の結合と判定し、持分の結合と判定されなかったものは取得と判定する。なお、複数の取引が一つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として判定する。

 ア  企業結合に際して支払われた対価の種類が議決権付普通株式であること
 イ  結合後企業に対して、各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと
 ウ  議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと

図表 取得と持分の結合の判定

図表 取得と持分の結合の判定

 

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