目次 II-3


第3章 持株会社の実務

 1 持株会社制度導入にあたって

 持株会社制度は、より効率的な経営を実行するための一つの経営体制であるが、その採用にあたっては、まず下記に掲げるような持株会社制度のメリットとデメリットを十分理解した上で検討する必要がある。また、社内においてすでに事業部制やカンパニー制など、ある程度事業ごとに体制が整っていることも重要である。

【メリット】
(1)  グループ全体としての戦略の策定
 親会社が純粋持株会社になれば、事業会社である子会社を管理することに専念できる。その場合、親会社はグループ全体としての方向づけと戦略の策定をして、ヒト・モノ・カネといった経営資源の配分を大局的見地から行うことができる。

(2)  経営責任の明確化
 純粋持株会社の採用により、親会社の取締役、子会社の取締役ともに自社の経営に専念することができるので、責任の所在が明確になると考えられる。

(3)  子会社の正当な業績評価
 子会社は自社の事業に特化することができるので、親会社にとっても子会社の業績をより正確に評価することができるとともに、成長性のある事業と不採算の事業の区別が明確になり、新たな事業に進出するか、あるいは撤退するかの経営判断を早期にすることができる。

(4)  事業再編の早期実現
 合併・買収や営業譲渡など事業再編に関する手法はいろいろあるが、特に他の会社の人員を受け入れた場合には、労働条件や賃金体系など人事労務面で苦労する場合が多いのが現実である。持株会社制度の採用により、このような問題から解放され事業再編を早期に実現できる可能性がある。


【デメリット】
(1)  労使交渉の困難性
 親会社はグループ全体を管理することになるため、製造、販売などに従事する労働者は子会社に移ることになる。そうすると労使交渉の直接の当事者は子会社の経営者であるが、最終的な決定権は親会社の経営者になる可能性が高いため、どちらと交渉すればよいかが不透明になる。

(2)  間接業務の負担増
 純粋持株会社の採用により、各社ごとに管理・間接部門等を持つことから、間接部門が肥大化し、経費増加につながる危険性がある。

(3)  現行税制法上の不利
 現行の税制では、会社間の損益通算は認められない。したがって、グループ全体としての納税額が増えるおそれがある。これは従来1つの会社内で黒字部門と赤字部門で損益を相殺できたのが、別会社にすることにより黒字会社の利益にそのまま課税されるからである。連結納税制度の早期実現が叫ばれるゆえんである。
 また、子会社設立時に法人税や譲渡所得税など多額の税負担が生じる。

(4)  リストラの増大
 メリットのところでも述べたように、持株会社制度の採用は今後、事業再編を加速させる可能性がある。しかしそのことは、子会社を簡単に売却したり、不採算の会社を整理するなどの企業のリストラが増加する可能性があることをも意味する。

 

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