目次 II-2


第2章 持株会社の税務

 1 設立時の税務

1 株式買取りによる方法

 持株会社を設立し、その会社によって事業会社の株主から株式を買い取る場合、株式を売却する株主に課税が生じる。株主が個人の場合には所得税、法人の場合には法人税の問題になる。

2 現物出資による方法

 現物出資により持株会社制度を採用する場合、既存事業会社の株主がその所有する株式を新規持株会社に現物出資する場合と、既存事業会社がその有する資産を新規持株会社に現物出資する場合とに分けられる。現物出資は税務上譲渡とされるので、前者においては既存事業会社の株主に対して譲渡所得税が、後者においては既存事業会社に対して法人税がそれぞれ課税される。

 法人税については、従来は一定の要件を満たせば、圧縮記帳の適用により課税を繰り延べることができたが、平成13年の税制改正により、この有価証券の圧縮記帳の制度は廃止された。また、商法上の事後設立にあたる変態現物出資についても、所要の改正がなされている。

 消費税についても、法人税同様、改正されている。

3 第三者割当増資による方法

 第三者割当増資は新株発行であるから、資本等取引として発行会社について課税関係は生じない。しかし、第三者割当時の株価に比べて著しく低い価格により、第三者割当で新株式の払込価額を決定した場合は、引受者に法人税が課せられる。また、著しく高い価格による引受けの場合は、既存株主に対して法人税や所得税が課される場合がある。


 2 運営時の税務

1 受取配当金の益金不算入(法人税法第23条)

 持株会社が、国内の子会社をもって事業を行わせる場合は、法人税法上の受取配当金の益金不算入制度を考慮する必要がある。

 受取配当金の益金不算入は、配当金がすでに支払法人側で法人税課税後の税引後利益を原資としていることから、これを受取法人側で益金とし法人税を課税すると同一所得に対して二重に課税が行われるので、このような二重課税を排除するために設けられている制度である。

 益金不算入割合は、配当金の元本が関係法人株式等に該当する場合は100%、該当しない場合は50%であるが、持株会社の場合ほとんどは配当金の100%が法人税の課税の対象にはならない。

2 企業支配株式

 企業支配株式とは、株主とその同族関係者により発行済株式の20%以上が保有されているものをいう。持株会社の所有する株式はほとんどの場合この企業支配株式に該当する。法人税法上、企業支配株式については次に掲げる特別な規定がある。

3 経済的利益と寄付金課税

 法人が金銭その他の資産、または経済的利益の贈与または無償の供与を行う場合、法人税法上は寄付金として取り扱うのが原則であるが、子会社については、次に掲げる場合に寄付金には該当しないとされる。


 3 事業承継時の税務

 ここでは、持株会社制度により事業承継に関わる相続税及び贈与税がどうなるかについて検討する。持株会社制度それ自体は経営の効率化等の観点から採用するかどうかを検討すべきであろうが、特に未公開の同族会社の場合、オーナーにとって事業承継は重要な関心事と考えられる。

1 公開会社の場合

 すでに上場もしくは店頭登録している会社が、持株会社制度を採用した場合、すなわち各事業部門を子会社化することによって持株会社となった場合、持株会社化が株式相場に影響を与えなければ、事業承継に関する相続税及び贈与税に特に変化はない。

2 未公開会社の場合

 未公開会社が持株会社化した場合には、その持株会社化した会社の株式または出資が事業承継により移転する場合の相続税、及び贈与税に大きな変化がある。

 相続または贈与の際の株式の評価は、財産評価基本通達により行われるが、持株会社の場合には原則として純資産方式によって評価することになる。すなわち、財産評価基本通達によれば、会社の資産をこの通達によって評価した合計額のうち、株式及び出資の価額の合計額が25%以上(中会社及び小会社の場合50%以上)となる会社を株式保有特定会社とし、この場合には原則として純資産方式によって評価することになっている。持株会社の中でも、純粋持株会社はその性質上、この株式保有特定会社に該当することになると思われる(財産評価基本通達189)。

 したがって、株式保有特定会社に該当すれば、持株会社の株式は純資産方式によってのみ評価されることになり、類似業種比準方式を採ることはできなくなる。


 4 持株会社整理時の税務

 最後に、持株会社を整理するときの税務を検討する。ここで「持株会社の整理」とは、持株会社の清算、持株会社株式の売却その他が考えられる。

1 持株会社の清算

【清算法人に対する法人税(法人税法第93条第1項)】
 持株会社を解散し清算すると、残余財産が分配され、清算所得に対して法人税が課税される。清算所得は、次の算式により算定する。

  清算所得=残余財産の価額−解散時の資本金・資本積立金・利益積立金の合計額

2 持株会社株式の売却(租税特別措置法第37条の10)

 持株会社の整理には前述した持株会社の清算の他に、持株会社株式の売却が考えられる。持株会社を清算した場合には、上記のとおり会社及び株主に対して法人税及び所得税が課されるので、税負担という点からは会社を清算するよりは持株会社の株式を売却する場合の方が有利である。

 すなわち、この場合は株主に対して株式の売却益の26%(所得税及び住民税)が他の所得と分離して課税され、持株会社そのものに対する課税は生じない。ただし、この方法は株式の売却先がある場合であり、買い手が見つからない場合には、持株会社を清算するか事業子会社の合併による方法しかない。

 

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