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14.その他の課税問題

(1)消費税(資産の移転)

 合併及び会社分割については、商法上権利義務の移転手続は包括承継となります。したがって、税法も商法の手続関係を踏襲しますから、資産等の移転も包括承継として捉えます。消費税法施行令2条第1項第4号では、資産の譲渡等の範囲について包括承継を除くと規定されています。したがって、合併及び会社分割における資産の移転は、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税取引には該当しません。なお、当然ながら、法人税法上の適格・非適格を問われるものではありません。

 一方、現物出資及び事後設立については、資産等の移転は消費税法上の資産の譲渡等に該当し、課税取引となります。この場合、適格現物出資について、法人税法上は帳簿価額による譲渡となりますが、消費税法における課税対象となる金額(課税標準)は、その出資により取得する株式の取得時の価額(時価)に相当する金額となりますから注意が必要です(消令45(2)三)。また、事後設立が行われた場合の消費税の課税対象となる金額(課税標準)は、その課税資産の譲渡の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外のもの、若しくはその権利その他経済的な利益の額)とされています(消法28(1))。つまり、事後設立においては、法人税法上の適格事後設立であっても時価による資産等の売買取引が行われますから、消費税の課税対象となる金額は、時価相当額となります。

 このように、現物出資及び事後設立についても、法人税法上の適格・非適格にかかわらず、時価相当額が消費税の課税対象となる金額となります。なお、前述の消費税の課税対象となる価額は、いずれの場合も消費税及び地方消費税は含まれない価額、すなわち税抜価額とされます。


(2)登録免許税

 会社分割に係る登録免許税は合併と同じ水準で減税されます。ただし、減税措置については、商業登記は本法で手当てされていますが、不動産登記は租税特別措置法によって5年間の時限立法として手当てされている点に注意を要します。

 (イ) 商業登記

 分割による株式会社・有限会社の設立又は増資の登記に係る登録免許税については、資本の額又は増加した資本の額の1.5/1,000とされていますが、分割をする株式会社等の分割直前の資本の金額から当該分割直後における資本の金額を控除した金額を超える資本の金額に対応する部分については、7/1,000とされています(最低税額は3万円)。

 (ロ) 不動産登記

 (a) 所有権移転登記
 会社分割による不動産の所有権移転の場合も通常の資産譲渡による移転の場合と同様、対抗要件としての登記を備える必要があることから、原則として「不動産の価格(固定資産税評価額×1/3)」に対して通常税率(50/1,000)が適用されます(措法80の2・84の5)。
 ただし、会社分割制度を支援する観点から当初5年間(平成18年3月31日まで)は租税特別措置法により、会社分割により当該権利を取得した日以後3年以内に登記するものに限って軽減税率(6/1,000)が適用されます。

 (b) 抵当権の移転登記
 債権金額又は極度金額に対して原則として通常税率(2/1,000)が適用されますが、所有権移転登記と同様、当初5年間(平成18年3月31日まで)は、会社分割により当該権利を取得した日以後3年以内に登記するものに限って軽減税率(1/1,000)が適用されます(措法80の2)。


(3)印紙税

 分割計画書及び分割契約書に係る印紙税額は、合併契約書と同様、1通につき4万円とされます。


(4)不動産取得税、自動車取得税などの地方税

 会社分割における不動産取得税の非課税の適用は、適格・非適格にかかわらず以下の要件をすべて満たした場合となります(地令37の14)。

分割型分割 交付金なし
按分型
・主要な資産・負債の移転
・移転事業の継続
・従業者80%以上の引継ぎ
分社型分割 交付金なし

 また、現物出資・事後設立によって会社を新設する場合の不動産取得税についても、従前と同一条件の非課税要件が継承されました。この場合も、適格・非適格にかかわらず下記要件を満たせば非課税となりますが、新設法人に限る規定である点に注意を要します。

  要  件
株式会社
出資株式会社が新設株式会社の発行済株式90%以上を保有
譲渡した営業を継続して行うことを目的とすること
新設株式会社の取締役の1人以上が出資株式会社の取締役又は監査役であること
株式会社以外 上記要件に類するとき

 組織再編成における自動車取得税の取扱いについても、非課税となる適用要件は不動産取得税と同様となります。


(5)まとめ

 上記の各税目についてまとめると以下のようになります。

  会社分割 合 併 現物出資 事後設立




増加資本額 1.5/1,000* 7/1,000
不動産登記 所有権移転 6/1,000(5年間) 6/1,000 50/1,000
抵当権移転 1/1,000(5年間) 1/1,000 2/1,000
不動産取得税 一定要件で非課税 非課税 一定要件で非課税


資産の譲渡等 非該当 該 当
課税標準 株式の時価 総資産の時価
 分割等前の対象となる資本金を超える場合は7/1,000


企業組織再編税制の創設で何が変わるか

 今回創設された企業組織再編税制では、会社分割に伴う繰越欠損金の処理、含み損を抱えた事業部門の分割等が注目を集めていますが、その他にもいろいろな分野で今まで行われていた手法の見直しをする必要があります。
 もう一度原点に戻って考えて見ましょう。
 先ず今回の税制改正では、会社分割の手法と同じ効果を得られる別の手法について税制上の整合性を保つための改正が行われています。
 具体的には、「合併」「特定資産の現物出資による分社」「事後設立による分社」に関する税制が改正されました。
 税制が改正されますと、以前より税制上有利になる部分と不利になる部分の両面が出てきます。したがって、この「企業組織再編税制」を具体的に検討される場合は、必ず従来の税制と比較して、どの部分が変更になり、その変更により従来より有利になるのか、不利になるのかを個別に充分確認した上で実行に移す必要があります。
 また今回の改正税制では資産の移動に伴う法人税・みなし配当課税等を繰り延べる、適格〇〇〇とした場合、資産は強制的に帳簿価格により移転するので、資産の持つ含み益の一部を簿価の引上げに使うことはできません。したがって、M&Aで買収した会社を合併する場合の処理等が変わってくることに注意を要します。

 

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