目次 Q5


Question
 繰延資産をめぐる会計処理の原則
 繰延資産をめぐる会計処理と償却方法について会社法上の取り扱いを教えてください。

Answer
ポイント (1) 繰延資産として計上することが適当であると認められるものは限定されています。
(2) 具体的には、株式交付費、社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む)、創立費、開業費、開発費の5項目です。
(3) 繰延資産は、効果の及ぶ所定の期間にわたって償却しなければなりません。したがって、支出の効果が期待されなくなった場合は、その未償却残高を一時に償却する必要があります。


 繰延資産に関する会社計算規則

 会社計算規則は、繰延資産として計上することが適当であると認められるものを繰延資産に計上するとしているだけで(計規74丸数字3五)、その具体的な内容や会計処理については何も指示がありません。そのため、企業会計の慣行を斟酌して、企業会計基準委員会実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告といいます)を参考にすることになります。


 繰延資産として計上できる項目

 実務対応報告では、株式交付費、社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む。)、創立費、開業費、開発費の5項目を繰延資産とすることとしています。これは、繰延資産の部に計上した額が剰余金の分配可能額から控除されること(計規158丸数字1)を考慮したものといえます。

 なお、従来の建設利息については会社法において既に廃止されていることや、社債発行差金については金融商品会計基準において社債金額から直接控除する方法に改められたことから、両者は繰延資産としては取り扱われなくなりました。

 実務対応報告が限定列挙する繰延資産の項目について、それぞれの内容を一覧表の形式で示しますと次のとおりです。

項 目 内   容
株式交付費
(注1)
(注2)
 株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用
社債発行費等
(新株予約権
の発行に係る
費用を含む。)
(1) 社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用
(2) 新株予約権の発行に係る費用のうち、資金調達などの財務活動(組織再編の対価として新株予約権を交付する場合を含む。)に係るもの
創立費  会社の負担に帰すべき設立費用、例えば、定款及び諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額ならびに設立登記の登録免許税等
開業費
(注3)
 土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用
開発費
(注4)
 新技術または新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上または生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用をいう。ただし、経常費の性格をもつものは開発費には含まれない。
(注1) 企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る費用を前提としているため、株式の分割や株式無償割当てなどに係る費用は繰延資産には該当せず、支払い時に費用として処理することになります。また、この場合には、これらの費用を販売費及び一般管埋費に計上することができます。
(注2) 実務対応報告では、新株の発行と自己株式の処分に係る費用を合わせて株式交付費とし、自己株式の処分に係る費用についても繰延資産に計上できるとしています。
(注3) 「開業のとき」には、その営業の一部を開業したときも含むものとしています。
(注4) 「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、発生時に費用として処理しなければならないことに留意する必要があります。


 繰延資産の会計処理および償却方法

 実務対応報告による繰延資産の会計処理および償却方法は次のとおりですが、支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、その未償却残高を一時に償却しなければなりません。

項 目 会計処理 償却方法
原則 容認
株式交付費 支出時に費用
(営業外費用)
として処理
繰延資産に
計上
 株式交付の時から3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却
社債発行費等 ・社債の償還までの期間にわたり利息法により償却
・継続適用を条件として定額法も可
新株予約権の
発行に係る費
 新株予約権の発行の時から3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却
創立費  会社の成立の時から5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却
開業費  開業の時から5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却
開発費 支出時に費用
(売上原価また
は販売費および
一般管理費)と
して処理
 支出の時から5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却


 繰延資産の表示

 繰延資産に対する償却累計額は、繰延資産の金額から直接控除し、その控除後残高を各繰延資産の金額として表示することとされています(計規84)。

 

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