目次 II-2


2 債権譲渡の客体

 民法は、「債権は、譲り渡すことができる」と認めています(民法466条1項)。しかし、債権の譲渡性にも制限があります。

 第1に、「その債権の性質がこれを許さないとき」です(民法468条1項但書)。債権が、債権者・債務者の個人的関係や個性を基礎としていて、債権者が変わってしまうと給付の内容が変質してしまうような場合のことです。

 例えば、特定の人の肖像画を描く債務のように、債権者との関係で債務の内容が規定されているような場合に、勝手に債権譲渡されて、別の人の肖像画を描いてくれといわれても、そういうわけにはいかないということです。

 第2に、法律上、債権譲渡が制限されている場合があります。扶養請求権(民法881条)、災害補償を受ける権利(労基法83条2項)、社会保険における保険給付を受ける権利(健康保険法61条等)等です。

 第3に、特約による制限です。債権者・債務者間の特約によって債権譲渡を禁止することができます(民法466条2項)。銀行預金債権、公共事業の建設請負代金債権等の国、地方自治体等の公共団体を債務者とする債権は、ほとんどの場合譲渡禁止特約がついています。

 もっとも、譲渡禁止特約は、善意の第三者に対抗することはできません(民法466条2項但書)。条文の文言は「善意」のみを要求していますが、判例は、「譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は、その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは、その債権を取得し得ない」(最判昭和48年7月19日民集27・7・823)として「無重過失」であることが必要としています。

 重過失とは、通常の過失に比較して注意義務を欠く程度が著しいことを言います。つまり、特約の存在を知らないと、過失があっても債権を取得することができますが、重過失があるときは、保護されず、債権を取得できないことになります。そして、「銀行預金の譲渡禁止特約は、銀行取引の経験のある者にとって周知の事柄に属する」と判示していますので、銀行預金の譲渡禁止特約は、結果的に常に第三者に対抗できることになります。

 第4に、譲渡制限というのとは少し違いますが、債権譲渡は、その時期や方法等により、場合によっては他の債権者を詐害する行為にあたるとして取り消されることがあります(民法424条1項)。また、否認権行使の対象となることもありますので、注意を要します(破産法160条、民事再生法127条、会社更生法86条)。

 

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