VI 雑 則
 
 
Q 株主代表訴訟制度の改正 VI-Q
 
 株主代表訴訟については、どのような改正がされたのでしょうか。



   株主代表訴訟に関しては、(1)株主代表訴訟を提起できない場合の明文化、(2)株主から提訴請求を受けたにもかかわらず訴えを提起しなかった場合の不提訴理由の通知、(3)株式交換・株式移転による原告適格の喪失の見直し、の3点の改正がされています。

1 株主代表訴訟を提起できない場合について

 現行法では、株主代表訴訟を提起できない場合について明文の規定はありませんが、今回の改正で、当該訴えが当該株主もしくは第三者の不正な利益をはかり、または当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合には、株主は提訴請求することができないと規定されることになりました(会847(1))。

 訴えが当該株主もしくは第三者の不正な利益をはかり、または当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合には、従来であっても、訴権の濫用という一般条項によって排斥することは可能と考えられていましたが、そのような一般条項では予見可能性・法的安定性という観点から問題があるため、これを明文化したものです。

 なお、当初の案では、(1)当該訴えが当該株主もしくは第三者の不正な利益をはかり、または当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合、だけでなく、(2)当該訴えにより当該株式会社の正当な利益が著しく害されること、当該株式会社が過大な費用を負担することとなることその他これに準ずる事態が生ずることが相当の確実さをもって予測される場合、についても提訴請求することができないという条項が入っていましたが、国会審議の過程で(2)の要件については削除され、(1)の点だけが明文化されることになったものです。

 今回、会社法にて明文化された条項は、担保提供命令と同じように機能することになると思われますが、担保提供命令とは異なり、(1)被告たる役員ではなく会社に損害を生じさせる目的の場合でも訴えを却下することができるほか、(2)原告が担保を提供するかどうかに関わりなく訴えを却下することができることになります。


2 不提訴理由の通知について

 現行法では、株主が、会社は取締役に対して責任追及訴訟を提起すべきと考えた場合には、まず会社に対して提訴請求を行うこととされ(商267(1))、会社がその請求を受けた日から60日以内に訴えを提起しない場合には、株主代表訴訟を提起することができるとされています(商267(3))。

 したがって、会社としては、株主からの提訴請求を受けてから、取締役に対して責任追及の訴えを提起すべきかどうかを調査・検討し、その上で訴えを提起する・しないという判断をしているわけですが、その判断プロセスや理由を株主に対して開示することは要求されていません。

 しかしながら、会社の側で訴えを提起する・しないという判断に至った理由を開示させることにより、将来的に株主代表訴訟を提起する上での争点を早い段階で明確化し、訴訟資料等の収集にも役立つことと思われますし、提訴請求を受けた会社の側でも慎重に判断することになると考えられます。

 そこで、会社法では、株式会社は、株主による提訴請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主等から請求を受けた場合には、請求者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならないこととしました(会847(4))。


3 株式交換・株式移転による原告適格の喪失の見直し

 現行法では、株主代表訴訟の原告適格を有するのは当該会社の株主であり、株主代表訴訟の係属中に原告が株主でなくなった場合には、原告適格を失って訴えは却下されることとなります。したがって、株主代表訴訟の継続中に当該会社が株式交換により完全親会社となったために、原告である株主が被告たる会社の株主から完全親会社の株主へと変わってしまった場合には、原則通り、株主代表訴訟の原告適格を失い、当該訴えは却下されると解されており、下級審判例でもそのような結論とされていました。

 しかしながら、完全親会社の株主は、子会社の業務執行の誤りについて間接的に影響を受ける立場にもかかわらず、株主代表訴訟中に組織再編によって親会社株主になってしまった(それによって、当該訴訟の被告会社の株主ではなくなってしまった)ことにより、それまでの訴訟活動がすべて無となり、訴えが却下されてしまうというのは不当であるとの批判がされてきました。実際、かかる判断に従えば、株主代表訴訟中に組織再編を行うことによって、役員責任の追及を免れるという結論にもつながりかねません。

 そこで、会社法では、責任追及等の訴えを提起した株主等が当該訴訟の係属中に株主でなくなった場合であっても、(1)その者が当該株式会社の株式交換または株式移転により当該株式会社の完全親会社の株式を取得したとき、(2)その者が当該株式会社が合併により消滅する会社となる合併により、合併により設立する株式会社または合併後存続する株式会社もしくはその完全親会社の株式を取得したときには、原告適格を失わず、訴訟を追行することができることとしました(会851(1))。

 なお、今回の改正により、対価を金銭や他の会社の株式として株式交換や合併を行うことができるようになりましたが、それによって原告が完全親会社の株主にもならなかった場合には、もはや当該会社と何の関係もない立場になった訳ですから、原告適格を失うことになります。



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