目次 第4章 II−3


3 不動産の買取り・切離し

(1)不動産の買取り

 資産管理会社やオーナー個人が所有の不動産を対象会社に賃貸しているケースがよく見られるが、会社売却においては、その不動産が買い手にとって必要とされるかどうかが問題となる。

 事業上必要な不動産であれば、対象会社に買い取らせることを検討する必要がある。買い手にしてみれば、いつまでも前オーナーとの契約関係が続くことは望まず、オーナーにとっても会社売却した後も現在の賃料が維持される保証はないため、会社売却前に不動産を処分しておきたいと考えるからである。


(2)不動産の切離し

 逆に、対象会社が本業と関係ない投資用不動産を保有しているようなケースでは、買い手から、「譲渡対象から不動産を外してほしい」と言われることがある。買い手が関心を持つ経営資源は、技術・ノウハウなどの無形資産である場合が多く、不動産のような維持コストのかかる有形資産は不要と考えるからである。

 不動産を本業としている買い手であれば、投資用不動産は適正に評価してもらうことができるが、そのようなケースは例外であり、一般的には不動産は不要な資産という見方をされることのほうが多い。

 本来、買い手は対象会社の事業の将来性に着目して買収を行う。その場合、本業とは関係ない投資用不動産は、たとえ収益を生んでいても、買収対象に含める必要はないと考えられる。

 しかし、事前に不動産を売却しようとしても、現実には容易に売却先が見つかるわけではなく、また含み益があると多額の売却益が計上されるため、現実的な方法とはいえない。

 そこで、会社売却を行う前に、不動産を分社化しておくという方法が考えられる。売却の対象から外しておけば、オーナー個人は不動産所有会社からの安定収入を継続的に得ることができる。

 なお、既存の資産管理会社が別にあるならば、不動産をそこへ現物分配すればよい。その際、資産管理会社が対象会社の100%親会社(持株会社)であれば、無対価の会社分割も可能である。


図表4−13 子会社から親会社への無対価分割型分割

図表4−13 子会社から親会社への無対価分割型分割


 売り手が個人株主であれば、対象会社から不動産を切り離した後、対象会社の株式譲渡を行う取引スキームのほうが税務上有利である。これに対して、上記のモデルのように資産管理会社(持株会社)、すなわち法人株主が売り手であれば、事業譲渡した後で株主に利益分配したほうが有利になるケースが多い。

 一般的に、会社売却を前提として非適格分割を行う際には、移転する資産の含み損益が実現するので、含み損益を実現させるべき事業あるいは資産の選択を行う必要がある。

 例えば、売却対象となる事業からは「譲渡損」が出るにもかかわらず、残そうとする不動産に「含み益」があるようなケースである。この場合、会社分割で事業と不動産を切り離す際、不動産を分割法人に残すことによって「含み益」の実現を温存するとともに(不動産取得税と登録免許税の負担も回避できる)、事業を分割承継法人に移転し、分割法人において「譲渡損」を実現させることが効果的である。


図表4−14 不動産を切り離す取引スキームの例

図表4−14 不動産を切り離す取引スキームの例


 なお、不動産が事業用資産として使用されている場合、DCF法による会社の公正価値評価において不動産そのものの評価は行わない。不動産の価値は会社の将来キャッシュ・フローに反映させていると考えるからである。したがって、本業で使用する不動産にどれだけ多額の含み益があっても会社の事業価値を高める効果はない。

 これに対して、不動産が事業用資産として使われていない場合(投資用不動産の場合)、DCF法による会社の公正価値評価において、本業の事業価値とは別建てで評価して加算する。これまで事業用資産として使われていても、リストラ目的で売却が決定した不動産についも同様である。このような不動産を別建て評価するのは、将来キャッュ・フローを生み出していないため、現時点での換金価値で評価すべきだからである。

 

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