目次 III-Q14


第III章 商  法


Q14 商法改正の概要

Question 最近、商法の改正関係のニュースをよく耳にします。中小企業に影響する部分について説明してください。

Answer
ポイント
(1) 会社の資本政策を弾力的に行えるための種々の手当てが施されました。
(2) 実体経済のグローバル化の変化に追いつくための手当てが施されました。
(3) 企業統治の健全性の担保のための手当てが施されました。
(4) 情報技術革新の動きを導入しました。


 解 説 ▼
【1】商法改正の経緯

 基本六法といわれる法律のなかでも、とりわけ改正頻度の多いのが商法ですが、この度の一連の改正は、平成13年から15年にかけ4次にもわたって行われました。そして、15年4月1日以降はすべての改正が施行されます。このような大改正が行われたのは、経済社会のスピーディーな変化に対応するためです。

 改正の柱になったのは以下の4点です。

 (1)資金調達・株式制度の規制緩和
 (2)グローバル化
 (3)コーポレートガバナンス
 (4)IT化

【2】資金調達・株式制度の規制緩和に関する改正点

 資本調達市場の成熟や規制緩和の流れから、会社の資本政策の機動性や自由度を高めるための改正で、その内容は多方面にわたります。

 (1)  会社が発行する自社の株式、これを自己株式といいますが、その取得が原則的に自由になりました。これを利用することで、株主対策やオーナーの相続対策などの事業承継対策ができますし、合併・会社分割・株式交換などの企業組織の再編にも活用できる路が開かれました。

 (2)  予定価格で会社の発行する株式を買い取る権利、これを新株予約権といい、また特に有利な価格や無償で新株予約権を付与する場合をストックオプションといいますが、その発行を一般的に認めることにしました。そして、従来このストックオプションに課されていたさまざまな制限を撤廃しました。権利を与える対象者、権利行使期間、行使されたときに与える株式数などの制限なしに実施することができることになりました。

 (3)  会社の株式の発行価額についての金額規制がなくなりました。また、1株当たりの額面という規制もなくなりました。たとえば、100万円の資金調達に発行する株式の数は何株であっても問題ありませんし、「1株いくら」という記載自体がなくなりました。

 (4)  継続して5年間通知や催告が届かず、配当金が受け取られていない株主を所在不明株主といいますが、その保有株を取締役会決議を経て売却できるようになりました。これは株主管理の手間の削減になります。
 また、株券を事故や盗難でなくした株主が株券の再発行を求める手続を株券失効制度として設けました。会社への届出と時間の経過だけで喪失した株券を無効にできるように簡素化しました。従来の株券についての公示催告や除権判決の厄介な手続をなくしたものです。

【3】グローバル化に関する改正点

 情報通信分野での日々の技術革新は、地理的物理的障壁を容易に跳び越えます。国境が国を区別する分水嶺になるとしても経済活動を隔てる障壁にはなり得ないといわれるのもこのような理由からでしょう。こうした中で、日本独自の規範や規準で世界に起こる各種の事象を解釈するのは危険なことです。会計の分野では、会計ビッグバンと呼ばれる会計手法の変革がありました。退職給付会計や税効果会計などの極めて会計的な言葉がマスコミで当たり前のように伝えられるのは、これまでになかったことです。

 (1)  A社がB社の発行済み株式総数の50%超を有したとき、A社を親会社、B社を子会社といいますが、その決算書をA社とB社とのグループで見るとき利用されるのが、「連結財務諸表」です。単に合計するのではなく、AB両社間の取引は内部取引として、ないものと考えて作成し、グループとしての本当の実力を見ようとするものです。実は、従来、商法にはこの考え方はありませんでした。商法上の大会社は、この連結を行う必要が規定されました。

 (2)  一般的に、外国の法律に則って設立された会社を外国会社といいますが、従来は、日本で継続的に取引や事業活動を行う場合は、国内に営業所を設ける必要がありました。その義務を廃止しました。

【4】コーポレートガバナンスに関する改正点

 最近、食生活を脅かす会社の不祥事が連続したり、特殊な関係者に利益を供与したりする事件が起こりました。アメリカでも大きな会計不正事件がありました。会社の運営機構はいかにあるべきなのか、会社というのは自らに自浄作用を期待し得ないのかといったことが、さかんに論じられています。

 そこで、法令遵守のための企業統治(これをコーポレートガバナンスといいます。)はいかにあるべきなのかという観点からの改正がありました。

 (1)  監査役の地位や機能が強化されました。まずその任期が4年になりましたし、任期途中での辞任についてもその身分保障のため、辞任後の最初の株主総会に出席して辞任理由等を述べることができます。また、その義務の履行のために取締役会への出席義務と意見陳述義務が明文化されました。

 (2)  取締役の会社に対する責任の免除は従来、全株主の同意が前提でした。ただこれでは、1人の株主の反対があっても免責されないことになり、経営を主導する取締役の行為を不必要に萎縮させてしまう可能性があります。そこで改正法は、一定の要件があればその責任を軽減できることにしました。ただし、年間の報酬の一定の年間分は、損害賠償の責めを免れないと規定しています。一定の年間とは、代表取締役6年、取締役4年、社外取締役と監査役は2年とされています。

【5】IT(情報技術)化に関する改正点

 インターネットをはじめとする情報技術の革新は、会社の情報開示の方法にも大きな変革をもたらしています。この度の改正で、株主の承諾があれば、株主総会の召集通知や議決権の行使についてもインターネットを利用することが認められました。そして、株主や会社債権者からの会社への通知や請求、逆に会社から株主への通知や請求も、相手方の承諾があれば、電子メールを利用することができるようになりました。また、取締役会決議があれば、貸借対照表の内容をインターネット上のホームページで開示できるようになりました。

 

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