目次 II-Q8


Q8 節税のポイント

Question 経営者としては当然節税したいのですが、法を犯すような脱税はしたくありません。経営者として考慮すべき節税のポイントを教えてください。

Answer
ポイント
(1) 税金を減らせば、会社経営が安定するというものではありません。節税による副作用も考えたうえでの判断が必要になります。
(2) 基本的な節税は日常の基本的経理業務をきっちりしていれば可能ですが、それを行わずに行き当たりばったりの節税に走るのは本末転倒となりかねません。


 解 説 ▼
【1】節税が経営にプラスとは限らない

 節税というと必ず会社のためになると考える経営者も多いのですが、必ずしもそうではありません。節税に当たって第一に考えるべきなのは、利益は減らさず、かつ資金繰りにも悪影響を与えないかどうかです。決算上利益を減らすことで節税はできても、金融機関に対する信用問題が出てきますし、節税で税金は減ったもののそれ以上の資金支出があっては資金繰りが悪化してしまいます。

 貸し渋り・貸し剥がしといった、金融機関の対応が問題にされていますが、本業自体が振るわなければ、それはやむを得ないことです。節税を行う場合、節税額以上の支出を伴う場合がほとんどですので、税引き後利益等で約定の借入金元本の返済が可能かどうかをチェックしてみてください。借入金元本の返済を圧迫するようであれば、悪い節税といえます。話は少し逸れますが、バブル期などのように含み益が自然に増加するならともかく、現在のような経済環境では、本業の収益のみで借入金を10年以内で完済できれば優秀な企業だと思います。話題の産業再生機構は、対象企業について債務残高を、3年以内に営業キャッシュフローの10倍以内に削減することを再建計画に盛り込むべきとしています。

 したがって、節税のための支出が将来の収益に貢献するか、もしくは含み資産の形成となるものであることを十分検討したうえで、長期的視野から節税策を行う必要があります。特に設備投資は、投資キャッシュフローがマイナスになることに注意してください。生命保険の節税効果に関しても、支払保険料総額を考えたうえで慎重に検討する必要があります。5年平均でフリーキャッシュフローがプラスになるような節税策を講じないと、かえって資金繰りが悪化する場合もあります。また、減損会計の考え方も参考になります。

【2】具体的な節税策

 支出なしの節税も可能です。使用する予定のない棚卸資産・固定資産の廃棄、含み損を抱えたゴルフ会員権等の売却、回収見込みのない売掛金等の債権放棄(Q2)、未払費用等の計上もれの確認などは、基本的ですが失念しているケースがよくあります。もう一度自社の貸借対照表を自己監査してみてください。本当に資産価値のあるものが適正な価額で計上され、簿外負債はないかをチェックしましょう。実地棚卸しをいいかげんに行い期末商品を過大に計上していないかどうかも注意してください(Q4)。

 そのうえで、税額控除、特別償却、留保金課税不適用などの法人税の優遇税制の利用、連結納税の検討、消費税の課税事業者選択や簡易課税の選択などの重要な意思決定を税理士と相談してきっちり行っているかを確認してください。こうした事例に関連して税理士職業賠償責任保険の事故が多いのですが、経営者自身が問題意識を持ち、顧問税理士と経営計画等について話し合っていれば、そうした問題は未然に防げたはずです。もちろん税理士の専門家としての責任は当然ですが、それ以前に経営者と税理士のコミュニケーション不足という根本的問題があると考えられます。

 要は、決算間際であせって節税を考えるのではなく、日常の経理業務をしっかりと行い、税理士と密接に連携することが、利益予測はもちろんのこと「基本的な節税」を可能にします。そのうえで、設備投資や生命保険等の利用などの「積極的な節税策」を計画的に考えるべきです。

 

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