目次 I-Q1


第 I 章 企業会計


Q1 会計における簿記の意味

Question 会計をはじめて経験する担当者に簿記を理解させたいのですが、どのような説明が効果的でしょうか。

Answer
ポイント
(1) 簿記専門用語が会計アレルギーの一番の原因です。わかりやすい言葉と実務経験を通して、簿記および会計業務に接することが効果的です。
(2) パソコンで利用できる会計ソフトの普及で、簿記初心者でも短期間で簿記業務に従事できるようになりました。その反面、その正確性を検証するため財務諸表を読める経理マンが求められます。
(3) 企業活動の成果を外部に公表する財務諸表の重要性を知り、それが簿記の産物であると理解できれば、簿記の基本知識や会計の定型的日常業務の重大さを認識できます。


 解 説 ▼
【1】簿記は慣れが上達の近道

 簿記は15世紀のイタリアで生まれた企業活動を計数的に記録する技法です。簿記の目的は経済活動の進展とともに時代により変化してきましたが、現在では永続的な企業活動を可能にするために日々の営業活動を計数的に効率よく記録し、広く利害の関係する人々に開示することがその目的となっています。簿記は、人知のもっともすばらしい発明(ゲーテ)といわれるようにすぐれた記録方法であり、専門的に学習した人でなければいくら数学や国語ができても簿記はできません。ここでいう簿記は複式簿記で、複式とは同じ数字を左右両側に記入することによって、商品や土地に姿を変えたり売上げ、仕入れで増減するお金のダイナミックな動きを記録しようとするものです。よく初心者がつまずく原因といわれる「貸方、借方」は、その技法の基本ルールであって、音楽の音符や英語の文法と同じで、知らないとわからないものであると考えた方が入門しやすいと思います。ただ、皆が小遣帳で単式簿記は経験しており、複式簿記といってもしくみそのものはシンプルなので、日常業務には専門用語をわかりやすい言葉(たとえば借方を左方等)で置き換えて全体像を理解することが近道です。どうしてもアレルギーを感じられる場合には、気分を変えて英文会計から入るのも面白いと思います。英語も簿記も慣れが上達の近道です。

【2】パソコン会計も入力するのは人間

 簿記のしくみは理解したとしても、仕訳伝票を手書きし、元帳に転記しさらに貸借計算が合うかどうかは簿記の厄介な作業の最たるものでした。ところが、パソコンソフトを利用したパソコン会計においては、転記や資料作成の工程が自動化されるため作業量は激減し、転記・集計ミスもなくなるばかりか、管理上有効なデータへの加工も容易です。また、帳簿の保存が電子データで可能となり紙資源や保管スペースの軽減にもつながります。ただし、入力するのは人間なので最初の仕訳入力の科目や時期が誤っていたのでは、できあがった財務諸表そのものが無意味どころか弊害となる危険性があります。

【3】財務諸表の役割

 そこで、簿記の最終産物である財務諸表の読める担当者を教育する必要がでてきます。入力時の誤りは、結果である財務諸表が読めれば見つかるからです。

 会計学では「財務諸表は、経営者、株主・投資家、債権者(銀行等)、国(税務署等)などの利害関係者の意思決定に役立つ会計情報を提供する機能が要求される」と教えますが、いままでの日本では、中小企業の経営者にとっては「税務申告や融資のための財務諸表」という意識が強く、銀行も土地の含み益や担保価値にしか興味がないといった風潮があったことを考えると、最近の決算書の読み方ブームに見られるようバブルがはじけてようやく財務諸表本来の役割が求められる環境になってきたといえます。

 

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