第1章 3-Q3 |
3 社会保障協定 |
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日本が締結した社会保障協定の概要 |
社員を海外勤務させた場合、通常は勤務地国の年金制度にも加入しなければならないと聞きました。日本と勤務地国での年金制度への二重加入を防ぐ制度があれば教えてください。 |
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日本は14か国(ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス)との間に社会保障協定が発効しています。そのため、これら14か国に社員を赴任させる場合、相手国での赴任期間が5年以内であり、かつ、その社員が日本の年金制度に加入していることを条件に、相手国の年金保険料等を免除してもらうことができます。
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1 社会保障協定締結の背景は? 〜年金保険料の二重払いによる企業負担の増加、勤務地国での年金保険料掛捨て〜 社会保障協定とは、相手国に勤務した会社員等の社会保険料の二重払いを防ぐことを目的としたものです。そもそも公的年金などの社会保険制度は、現在居住している国の制度に加入することが原則となっています。しかし通常、企業からの出向で海外勤務する場合、海外勤務中も出向元である日本本社との雇用関係が継続しているため、その間、日本と勤務地国の両方の社会保険制度に加入しているのが現状です(いわゆる「保険料の二重払い」)。そして多くの場合、勤務地国での社会保険料の負担は海外勤務者本人ではなく、海外勤務者を送り出した日本本社が全額負担しています(例えば、日本企業がアメリカ勤務中の社員のために負担していた社会保険料は、新聞報道等によると年間数百億円にも達し、これが日本企業の国際競争力を阻害する一因にもなっているといわれていました。)。 さらに、年金を受給するには、ある一定期間以上の加入期間が必要なため、数年程度で日本に帰国するケースが多い海外勤務者については、勤務地国での保険料は結果的に掛捨てになるケースがほとんどでした。 2 そもそも社会保障協定とは 上記のような状況を解決するため、年金制度の二重加入の防止や年金加入期間を両国間で通算し、年金の掛捨てを防止しようとする二国間での協定が、社会保障協定と呼ばれるものです。 (1)年金制度等への二重加入の防止 (i)相手国での勤務期間が当初の予定で5年以内の場合(例:アメリカ) a)協定発効前 アメリカ勤務期間中は、日本の保険料だけでなくアメリカの保険料も支払うため、年金制度に二重加入、つまり保険料を二重に支払っていました。しかも、海外勤務期間は通常、数年程度と短期間のため、支払った保険料は結果的に掛捨てになっていました(アメリカの場合、年金保険料の払戻しはできません。)。 b)協定発効後 協定発効後は、日本の年金制度への加入を条件に、アメリカの年金制度等への加入が免除されます。よって、アメリカ勤務期間中、年金保険料を二重に支払う必要がなくなります。 (ii)相手国での勤務期間が当初の予定で5年超の場合(例:アメリカ) a)協定がない場合 (i)a)と同様に、保険料を二重に支払い、支払った保険料は結果的に掛捨てになっていました(アメリカの場合、年金保険料等の払戻しはできません。)。 b)協定発効後 アメリカでの勤務期間が、当初の予定で5年を超える場合は、アメリカでの勤務期間中は、日本の年金制度等を脱退し、アメリカの年金制度等のみに加入することになります。 (2)年金加入期間の通算 年金の通算措置とは、「一方の国(例えばA国)の年金制度への加入期間が、年金受給に必要な最低加入期間に満たない場合、相手国(例えばB国)の年金制度への加入していた期間を一方の国(A国)の年金制度への加入期間とみなして、カウントすることができる」という制度です。 (i)協定発効前(年金通算措置がない状態) 日本で基礎年金受給に必要な期間は25年、アメリカでの年金受給に必要な期間は10年です。そのため、「(1)(ii)」のように、日本での年金保険料支払期間が20年、アメリカでの同保険料支払期間が8年といったケースでは、協定発効前の状況では、日米いずれの国からも年金を受給することができませんでした。
(ii)協定発効後(年金通算措置がある状態) 協定発効後は、一方の国の年金受給のために必要な期間が不足している場合、相手国での加入期間を足す(通算する)ことができます。 よって日本から20年分、アメリカから8年分の年金を受給することが可能です。
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