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2 自己株式の取得 |
会社法では、自己株式の取得できる場合を次のように定めており(会155)、原則として財源規制を課しています。ただし、株主保護の要請等から会社自らの意思が反映せずに取得する自己株式取得については、財源規制が課されていません。
これは、一般的な自己株式取得の場合であり、株主総会決議等に基づく取得であるということができます。 (1) すべての株主に申込み機会を与えて行う取得(ミニ公開買付) 会社法では株主総会の特別決議を経ることなく、自己株式を市場取引・公開買付以外の方法で取得することができることとなりました。 つまり、株主総会(定時株主総会に限定されない)の普通決議により、有償取得する株式の数(種類株式の発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間(ただし、1年を超えない範囲)を決議し、具体的な内容の決定は、取締役会に授権可能となりました(会156(1))。 取締役会は、株主総会の決議後、取得する株式の種類・数・1株当たりの取得価額、取得請求期間、価額の総額などを具体的に決定した後(会157(1))、株主に対して通知又は公告します(会158)。 株主は、提示された期間内に、取得を請求する株式の種類及び数を会社に通知して、株式の取得請求をすることになります。 なお、株主からの請求により取得すべき株式数が、会社が予定する総数を超えた場合には、按分して取得することになります(会159)。これは、会社からの株式買取通知に対して、株主が価格等を判断して応じることになるため、ある種の公開買付と同様の手続きとなっており、ミニ公開買付とも呼ばれています。 (2) 特定の株主からの取得 イ.特定の株主からの取得手続き 前記(1)は、すべての株主に申込みの機会を与えて実施する自己株の取得ですが、特定の株主からの取得を株主総会で決議(特別決議)し(会309(2)二)、自己株式を取得することも可能です。 この場合、特定の株主だけが会社に対して取得を請求できるのは、株主間の公平を害するおそれがあります。そこでまず第1に、株主総会の決議では、売主となる株主の議決権行使は制限され(会160(4))、第2に、他の株主に総会決議の前に自己を売主に追加することができる請求権(売主の追加請求)を認めています(会160(2)(3))。 なお、次の2つの場合には、売主追加請求の手続きの対象外となっています。
したがって、株式譲渡制限会社においては、相続人から自己株式の取得をするにあたり、相続人を除いた株主による特別決議があれば、他の売主の追加請求手続きなく、相続人に限定して株式の取得ができることになります。 (3) 子会社からの取得(会163) 株式会社がその子会社が保有する自社の株式を取得する場合には、取締役会設置会社にあっては、取締役会で(1)の株主総会での決議事項、つまり、(1)有償取得する株式の数(種類株式の発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、(2)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、(3)株式を取得することができる期間(ただし1年を超えない範囲)を決議し取得できます。なお、取締役会非設置会社の場合には、株主総会となります。 (4) 市場取引等による自己株式の取得(会165) 以上の手続きの例外として、市場取引または公開買付により、自己株式を取得する場合には、原則として、株主総会で会社法第165条第1項の事項((1)有償取得する株式の数(種類株式の発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、(2)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、(3)株式を取得することができる期間(ただし、1年を超えない範囲))を決議するだけで、取得することができます。 また、あらかじめ定款に「取締役会決議により自己株式を取得することができる」ことを定めれば、取締役会決議で自己株式の取得が可能です。
取得請求権付株式を取得するのと引換えに交付される会社の株式以外の財産(社債、新株予約権、新株予約権付社債を含む)の帳簿価額がその請求の日における分配可能額の範囲内であれば、取得請求権付株式の株主は、会社に対して自己の有する取得請求権付株式の取得請求が可能です。 会社は、株主が取得請求した日にその請求に係る取得請求権付株式を自己株式として取得します。
株式取得事由が発生した場合に、取得条項付株式の一部を取得することとする旨の定款の定めがある場合に、会社が取得条項付株式を取得しようとするときは、その対象となる取得条項株式を取締役会で決議します。この決議をしたときは、会社は直ちに、その取得条項付株式を取得する旨を、その対象として決定した取得条項付株主及び登録株式質権者に対し、通知または公告しなければなりません。 会社は、株式取得事由が生じた日に取得条項付株式を自己株式として取得します。
全部取得条項付株式の発行会社は、株主総会の特別決議により、その全部の株式を取得することができます。この株主総会においては、取得対価(株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等)と全部取得条項付株式を取得する日を決議しなければなりません。 なお、取締役は株主総会において、全部取得条項付株式を取得する理由を説明する必要があります。
旧商法では、売買等の特定承継の場合については、定款で取締役会の承認を必要とする旨を定めることができましたが、合併や相続等の一般承継に対する譲渡制限は、認められないと考えられていました。 会社法では、相続、合併等その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式をその株式会社に売渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができるようになりました。 (定款記載事例)
定款にこのような規定を定めた場合、会社は、売渡請求の都度、株主総会(特別決議が必要)において、請求する株式の数とその株式を保有する者の氏名又は名称を定めることが必要です。また、一般承継があったことを知った日から1年を経過しないときに請求することが必要です。 一般承継による株式の取得であっても、会社にとって好ましくない者が株主となるおそれがあることは、譲渡による移転と本質的に異なることはないと考えられるため、この規定が設けられました。
自己株式取得の財源は、剰余金の分配可能額となっています。剰余金の分配可能額は、剰余金の額に調整項目を加算、減算して計算します。 計算式は、非常に複雑ですが、通常の事業年度末の場合を前提にすると次の計算式となります。 (分配可能額の計算)
譲渡制限会社の場合、のれん調整額、その他有価証券評価差額、土地再評価差額金がない場合も多いと思われますので、その他利益剰余金の額にその他資本剰余金の額を加算し、自己株式の簿価および純資産額中剰余金以外の額の300万円不足額を控除すれば、その金額が自己株式の取得財源となります。 (事 例) 次の決算書の会社があります。自己株式の取得財源の枠の金額は、 いくらになりますか。
(計算式) 300(その他資本剰余金)+4,000(その他利益剰余金)−300(自己株式) −200(その他有価証券評価差額金)−300(土地再評価差額金) =3,500(取得枠) 自己株式取得の財源規制と決定機関等をまとめると、次表のようにとなります。
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