目次 第3章


第3章 法人税

5.役員・使用人の報酬・給与・賞与・退職金 3-5

(1) 役員

 [1]  役員の意義及び範囲

   役員

 医療法人における役員とは、医療法人の理事、監事、清算人及び医療法人の使用人(職務上使用人としての地位を有する者に限る)以外の者で、その医療法人の経営に従事している相談役・顧問役等をいいます。

   みなし役員

 法人の理事、監事及び清算人以外の者で、法人の経営に従事している者をいいます。みなし役員については、役員の地位を有していなくとも税法上は役員とみなされ、過大役員報酬の損金不算入や役員賞与の損金不算入等について役員と同様の扱いを受けます。

 (一般法人においてはその外に同族会社のみなし役員の規定があるが、医療法人においては同族会社の規定の適用がないため、同族会社のみなし役員の規定の適用はない。)

   使用人兼務役員

 使用人としての職務を有する役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者をいいます。使用人兼務役員と認められるためには以下の要件を満たす必要があります。

     理事長、専務理事、常務理事、理事のうち代表権を有する者、監事、清算人その他これらの者に準ずる役員以外の役員であること

     使用人としての職制上の地位(理事兼事務長など)を有すること

     常時実際に使用人としての職務に従事する者であること

 [2]  役員報酬

 役員報酬とは、役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む)のうち、賞与及び退職金以外のもので定期のものをいいます。

 [3]  役員賞与

 内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しません。

 役員賞与に関しては平成17年に企業会計基準委員会より「役員賞与に関する会計基準」が公表され、企業会計では利益処分ではなく当該会計期間の費用としての項目となりました。

 法人税においても平成18年度改正により「利益連動給与」の規定が設定され、税務署長への事前届出を条件として損金算入されることになっています。

 医療法人は従前より剰余金の分配禁止により役員賞与が禁止されています。私見ですが、医療法人は非営利を前提とする法人であり、法人の利益の増減と連動する役員賞与は医療法上望ましくないものであり、企業会計の考え方の転換と必ずしも連動するものではないと考えられます。従って、医療法人の場合には理事に賞与を支給する場合には、理事の医師給部分に係る賞与として支給することになります。

 役員に対する賞与とは、役員または使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対して継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいいます。

 [4]  役員退職給与

 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理しなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しません。

 医療法人においては剰余金の分配としての役員賞与の支給は禁止されていますが、役員退職給与のうち適正な額は損金経理を条件に損金算入が認められています。

 なお、損金経理が条件となっているため、退職時の事業年度に未払い経理しなかった退職金を遡及して後に支払った場合には損金不算入となります。

  1)  役員退職給与の具体的な判定基準

 役員退職給与の適正額の具体的な判定基準に関しては、現在「平均功績倍率法」が多く使用されています。この方法による適正額の算出方法は以下の通りです。

 類似法人個々の功績倍率= 役員退職金の額/その者の最終報酬月額×その者の勤続年数

 平均功績倍率=類似法人個々の功績倍率の合計値/類似法人の数

 役員退職金適正額=判定役員の最終報酬月額×勤続年数×平均功績倍率

  2)  役員退職年金
 
 理事等に対して役員退職金を支払う場合には、分割払いによる未払い分を含めて全額支払い確定年度の損金に計上することができます。ただし、役員退職金を年金払いする場合には全額を損金に計上することはできず、支払った都度、その金額を損金に計上することになります。従って、一時に全額を支払わない場合、分割払いなのか年金払いなのかによって処理が異なりますが、分割回数が5回程度までなら分割払いとして認められるようです。

  3)  役員に対する適格退職年金契約に基づく掛金

 適格退職年金契約に基づく掛金を支払った場合、使用人については全額損金算入が認められていますが、役員について支払った退職年金掛金については損金算入することはできません。

  4)  使用人兼務役員に対する過大退職給与の判定

 使用人兼務役員に対する退職給与の内、不相当に過大な金額の判定については報酬の場合とは異なり、役員部分と使用人部分を分けずに合計額で適切な金額であるかどうかを判定します。


(2) 使用人

 [1]  使用人に対する未払賞与の計上

 使用人に対する未払給与について、決算時において給与の締め日から決算時までの分を日割り計算で未払い計上することはできますが、使用人に対して未払賞与を損金計上するには、以下の要件を満たす必要があります。

  1)  支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること

  2)  通知した金額を当該通知をしたすべての使用人に対しその事業年度終了の日の翌日から1月以内に支払っていること

  3)  その支給額につきその事業年度において損金経理していること

 [2]  個人事業時の在職期間に対応する退職給与の損金算入

 個人事業から引き継いで法人成りした場合に、個人事業時から引き続き勤務している使用人が退職し、その者に退職給与を支給した場合には、その退職給与には個人事業時に係る部分と法人となった後の部分の金額が混在することになりますが、法人となってから相当期間経過している場合にはその全額を法人の損金に算入することができます。

 [3]  特殊関係使用人に対する給与

 特殊関係使用人に対する給与については、不相当に高額な部分の金額は損金不算入となります。ただし、特殊関係使用人に対する給与については、役員のように金額を定めているわけではないため、不相当に高額であるかどうかの判断は、法人の事業の規模、その者の職歴・職責等で総合的に判断することになります。

 なお、特殊関係使用人とは次の者をいいます。

 A 役員の親族
 B 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者
 C A、B以外の者で役員から生計の支援をうけている者
 D B、Cの者と生計を一にしているこれらの親族


(3) 現物給与等

 [1]  報酬・賞与

 理事等に対して通常の報酬以外に資産を譲渡・贈与した場合または他の経済的利益を供与した場合には一定の場合を除き報酬または賞与として取り扱います。

 [2]  社宅に係る経済的利益

 社宅については、社宅費は通常の家賃(時価)より安いのが一般的ですが、著しく低い場合にはその部分については給与として課税されることになります。ただし、使用人社宅については形式的な基準として、通常の家賃の半額以上を徴収している場合には給与としての課税はされません。

 [3]  食事代の現物支給

 看護師等に対する食事代については給与以外の経済的利益ですが、福利厚生的な側面を有しているため、現物給与とされる金額について一定の基準を設けています。次の2要件をいずれも満たす場合には、経済的利益はないものとされ給与課税されません。

 A 食事代の半額以上を自己負担としている場合
 B 法人の食事代の負担が月額3,500円以下である場合

 

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