目次 II-2-5


2 IAS第37号

5 個別検討

 本基準の付録Cは、認識規準(A)(B)を実際の会計事象に適用できるよう(認識規準(C)は満たされているとの前提)、ふんだんに具体的な引当金事例を紹介している。この箇所は会計実務家にとって大いに参考となる。ただし、付録Cは本基準の一部を構成しない旨の断り書きが添えられている。

(1) 製品保証引当金

 イ.  会計事象:甲製造会社は、製品の売買契約において、購入者に対し販売後3年間の製品保証(故障時の無償修繕または無償交換)を約している。過去の実績データに鑑みて、当該製品保証条項にもとづくクレームの発生は50%超の確率と見込まれる。
 ロ.  認識規準(A):製品保証条項付きの販売行為が義務的事象であり、これが法律上の義務を招来する。
 ハ.  認識規準(B):製品保証行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の製品保証コストの最善の見積りをもって測定される。

(2) 環境修復引当金 I (土壌汚染に対する法的規制)

 イ.  会計事象:甲石油会社は、環境法制の遅れた乙国において、汚染した土壌の洗浄を義務付けられないまま、ここ数年間操業を続けてきた。ところが、当年度末になって、新しい土壌洗浄法案が近いうちに承認されることが確実であることが判明した。
 ロ.  認識規準(A):土地汚染が義務的事象であり、これが法律上の洗浄義務を招来する。
 ハ.  認識規準(B):洗浄行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の洗浄コストの最善の見積りをもって測定される。

(3) 環境修復引当金 II (土壌汚染に対する自主的対応)

 イ.  会計事象:甲石油会社は、乙国での操業によって、土地を汚染してしまった。乙国には土壌洗浄を義務付ける法規はないが、甲社はかねてより自社の環境方針を広く世間に公表し、そこにおいて自らの責めに帰すべきすべての環境汚染を洗浄する旨を宣言していた。甲社は過去において現にこの環境方針を遵守している。
 ロ.  認識規準(A):土地汚染が義務的事象であり、これが擬制上の洗浄義務を招来する。
 ハ.  認識規準(B):洗浄行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の洗浄コストの最善の見積りをもって測定される。

(4) 資産除去引当金

 イ.  会計事象:甲石油会社は、乙国の沖合油田での操業に際して、開発許諾契約を締結している。これによれば甲社は、開発完了時に油田掘鑿装置を除去し、海底の原状回復を図らなければならない。この装置除去と原状回復に要するコストは最終的に$**になると予想されるが、その90%は開発完了時に、残る10%は原油の採掘を通じて発生する。期末日現在、装置の組付けは終わっているが、原油の採掘は始まっていない。
 ロ.  認識規準(A):装置組付けが義務的事象であり、これが法律上の除去義務を招来する。一方、期末日現在では、原状回復の義務を招来する原油採掘の事象はいまだ生起していない。
 ハ.  認識規準(B):除去・回復行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の除去・回復コストの最善の見積りの90%をもって測定される。当該90%部分のコストは油田掘鑿装置の取得価額を構成する。

(5) 返品調整引当金

 イ.  会計事象:甲小売業者は、商品に不満足な顧客のために、自社の方針として代金返却制度を採用している。この制度は広く一般に周知されている。
 ロ.  認識規準(A):商品販売が義務的事象であり、これが擬制上の返金義務を招来する。
 ハ.  認識規準(B):返金行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の返品コストの最善の見積りをもって測定される。

(6) 事業部廃止引当金 I (未実行)

 イ.  会計事象:甲社の取締役会は2000年12月12日に乙事業部を廃止することを決定した。期末日(同年12月31日)以前には、当該決定は関係者に知らされておらず、いかなる廃止手続も実行されていない。
 ロ.  認識規準(A):なんらの義務的事象も存在しない。
 ハ.  認識判定:引当金は認識されない。

(7) 事業部廃止引当金 II (着手済)

 イ.  会計事象:甲社の取締役会は2000年12月12日に乙事業部を廃止することを決定した。12月20日、取締役会は廃止に係る詳細計画を承認。顧客に対してその旨を伝える通知書を発送し、乙製品の代替を手当てするよう促した。また乙事業部の従業員には解雇通告を発した。
 ロ.  認識規準(A):顧客および従業員への伝達が義務的事象であり、これが擬制上の廃止義務を招来する。
 ハ.  認識規準(B):廃止行為の生起は確かである。
 ニ.  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の廃止コストの最善の見積りをもって測定される。

(8) 公害対策引当金

 イ.  会計事象:新しい環境法規の施行によって、甲社は2000年6月30日までに工場に煤煙防止装置を取り付けることが義務付けられた。甲社は下掲の日付時点でその義務を果していない。
 ロ.  1999年12月31日時点
  (a)  認識規準(A):装置取付けに関しても、罰金支払に関しても、なんらの義務的事象も存在しない。
  (b)  認識判定:引当金は認識されない。
 ハ.  2000年12月31日時点
  (a)  認識規準(A):装置取付けに関しては、依然なんらの義務的事象も存在しない。なぜならば、甲社は罰金を支払うことにより装置取付け義務を有効に回避することができる。けれども甲社の不作為に関しては、環境法規の遵守違反が義務的事象となり、これが法律上の罰金支払義務を招来する。
  (b)  認識規準(B):環境法規の適用の厳正度に鑑みて、罰金賦課の確かさが定められる。
  (c)  認識判定:装置取付けに関する引当金は認識されない。しかしながら、50%超の確率で発生するであろう罰金支払に関しては引当金が認識され、その計上額は将来の罰金賦課の最善の見積りをもって測定される。

(9) 教育訓練引当金

 イ.  会計事象:新しい金融サービス法規の施行によって、甲金融機関は従業員をして当該内容を熟知せしめるべく大規模な教育訓練プログラムを実施する必要に迫られた。期末日時点ではなんら教育訓練は実施されていない。
 ロ.  認識規準(A):なんらの義務的事象も存在しない。
 ハ.  認識判定:引当金は認識されない。

(10) 損害賠償引当金

 イ.  会計事象:甲仕出し業者が2000年某月某日の結婚式に供給した料理が原因で、10人の中毒死被害者が出た。甲に対して損害賠償を求める訴えが裁判所になされたが、甲はその責任について争っている。2000年12月期に係る財務諸表の承認日までの時期では、甲の顧問弁護士は「当社に責任が問われないことは確かだ」と意見を述べていた。だが、2001年12月期の財務諸表を作成する頃には、顧問弁護士の見解は「裁判の経過から判断するに、当社に責任が問われることは確かだ」に変わっていた。
 ロ.  2000年12月31日時点
  (a)  認識規準(A):入手可能な証拠資料に鑑みて、義務的事象は存在しない。
  (b)  認識判定:引当金は認識されない。もし損害賠償金の支払が杞憂でないならば、事案の内容を偶発負債として開示する。
 ハ.  2001年12月31日時点
  (a)  認識規準(A):中毒事件の発生が義務的事象となり、これが法律上の損害賠償義務を招来する。
  (b)  認識規準(B):損害賠償の生起は確かである。
  (c)  認識判定:引当金が認識され、その計上額は将来の損害賠償の最善の見積りをもって測定される。

(11) 特別修繕引当金(自主措置)

 イ.  会計事象:甲製鉄所の溶鉱炉の内張りは、技術上の理由から、5年ごとに取り替える必要がある。期末日時点で、前回の取替から3年が経過している。
 ロ.  認識規準(A):なんらの義務的事象も存在しない。たとえ5年ごとの内張り取替が経営者の事業継続の意思決定に依存しているとしても、それは回避不能な負債ではない。
 ハ.  認識判定:引当金は認識されない。代りに、内張りの取替コストは資本的支出として固定資産の取得価額に算入され、5年間にわたって減価償却されることになる。

(12) 特別修繕引当金(法定措置)

 イ.  会計事象:甲航空会社は法律の定めにより3年ごとに航空機を点検修理しなければならない。
 ロ.  認識規準(A):なんらの義務的事象も存在しない。たとえ3年ごとの点検修理が法律で義務付けされているとしても、それは回避不能な負債ではない(たとえば航空機の売却)。
 ハ.  認識判定:引当金は認識されない。代りに、点検修理コストは資本的支出として航空機の取得価額に算入され、3年間にわたって減価償却されることになる。

 

目次 次ページ