目次 II-2-3


2 IAS第37号

3 認識規準

 引当金は次の3要件が満たされる場合に認識されなければならない(第14項)。

 (A)  事業体が過去の事象の結果として現在の義務(法的または擬制の)を負っている。
 (B)  当該義務を清算するために、経済的効益を具現化するような資源が事業体から流出することが確かである。
 (C)  信頼性をもって当該義務の金額を見積ることが可能である。

 会計実務の現場において、引当金の具体的な認識が問題となるような場合には、これら3要件のそれぞれを〈要件内容〉と〈要件確度〉の二側面から吟味する必要がある。

 認識規準(A)の〈要件内容〉は、「現在の義務」を招来するような「過去の事象」の存在である。本基準はこれを「義務的事象」と呼び直している(第17項)。引当金の認識が求められる「義務的事象」とは、それによって一旦義務がもたらされたならば、もはや清算する以外にはこれを解消または回避できないような事象をいう。具体的には、義務の清算が法律によって強制される場合、あるいは第三者に事業体が必ずや義務の清算を行なうであろうとの確信を抱かせるような擬制的義務の場合がこれに該当する。当該義務を将来において回避する手立てがあるならば、引当金を認識することはできない。たとえば、環境法規が所定の期限までに事業体の特定設備に煤煙防止装置の取付けを義務付けたような場合、当該事業体は製造工程を変更することにより環境法規の規制を逃れることが可能である。ゆえに、煤煙防止装置の取付コストを引当金に計上することはできない(第19項)。繰返しとなるが、引当金は負債である。後で回避や撤回が可能ならば、たとえそれが将来的拘束であっても負債とはいえない。このあたりの論点は、事業構造改革引当金や修繕引当金の認識問題として吟味されるところである。

 認識規準(A)に関して、たとえば事業体が訴訟事件(=「過去の事象」)の被告として現に法廷で争っているような場合、果して「現在の義務」を負っているのか否かが問題となる。100%勝訴となるのであればなんの義務も負っていない。100%敗訴となるのであれば損害賠償の義務はもはや回避できない。これが認識規準(A)の〈要件確度〉の側面である。本基準は、入手可能なすべての証拠を考慮に入れたうえで、貸借対照表日現在で50%超の確率(it is more likely than not)で「現在の義務」が存在するならば、引当金を認識することを要求している。なおこのとき、「現在の義務」が存在する確率が50%以下であっても、認識規準(B)が杞憂(remote)でないかぎり、事業体はこれを偶発負債として開示しなければならない(第16項)。

 認識規準(B)の〈要件内容〉とは、「経済的効益を具現化するような資源が事業体から流出すること」の具体的意味に他ならない。IASC概念フレームワーク第62項は次の6取引を例示列挙している:(1)現金支払、(2)他の資産の譲渡、(3)サービスの提供、(4)他の債務への置換、(5)持分への転換、(6)債権者側の債権放棄・債権喪失。引当金会計に照らせば、退職給付引当金が(1)の、小売業のポイント引当金が(2)の、製品保証引当金が(3)の典型例となろう。

 ここでの留意点は「資源流出」と「資源流入」が両建されるケースである。IASC概念フレームワーク第91項は次のように記す。「実務上、双務契約の当事者が互いに同じだけ義務を履行していない場合(たとえば売買契約の買手側は支払義務を、売手側は商品引渡義務をそれぞれ未履行の状態)、一般には当該義務は財務諸表において負債として認識されない。しかしながら、このような義務も、負債の定義に該当し、もし特別な状況下で認識規準を満たすならば、負債と認識することが適当な場合がありうる」。実は未履行契約そのものは、「1 趣旨と範囲」で述べたとおり、本基準の対象外である。が、このあたりの論点は、資産除去債務の両建問題として吟味されるところである。

 認識規準(B)の〈要件確度〉に関しては、本基準は(A)同様に、50%超の確率をもって「資源流出の確かさ」を判定するように定めている(第23項)。

 認識規準(C)の〈要件内容〉は、文言のとおりであり、特段の注釈は不要であろう。見積計算は確定計算の消極的代替ではない。本基準は、IASC概念フレームワーク第86項から次の金言を転載することによって、見積計算という測定行為の積極的意義を強調している(第25項)。すなわち、「見積の使用は財務諸表の作成における本質的な要素であって、それ自身財務諸表の信頼性を損なうものではない」。

 認識規準(C)の〈要件確度〉は、引当金の測定方法の方で詳細に論じられることになる。

 

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