目次 I-4


4 今後の展望

 会計ルールをめぐる国際的な潮流は、1970年代以降、上述の会計パラダイムの漸次的転換とちょうど併走するように、「調和」(各国の会計ルール間の差異を可能な限り許容範囲に収めようとするHarmonization)から「収斂」(各国が単一の会計ルールの開発に努めるConvergence)へと移行し、いまや「採用」(各国が国際財務報告基準[IFRS]を自国の会計ルールとして受け容れるAdoption)の段階にまで極まろうとしている。

 現にわが国経済界は「採用」の支持に傾いている。2008年10月に日本経済団体連合会が公けにした意見書「会計基準の国際的な統一化へのわが国の対応」では、次のように提言している。

 「米国がIFRSの採用に向けた方向性を示唆した今日、主要先進国の中で、IFRSの採用を正式に表明していない国は日本のみとなっている。既に、海外に上場する日本企業のなかには、IFRSの使用に向けた準備を開始する企業も増えつつある。日本も国際的な潮流を勘案しつつ、IFRSの採用を含む、今後のわが国会計基準の方向性に関する検討を加速し、具体的なロードマップを早急に作成すべきである」。

 引当金会計も当然にこの国際的な潮流の向うところに滑走してゆく。IFRSにおける現行の引当金ルールは国際会計基準(IAS)第37号「引当金、偶発負債および偶発資産」である。その内容は第2章で詳しく論述するが、本書のキーノートを奏でるこの巻頭の章では、その改訂公開草案の一節を紹介しておきたい。

 「本公開草案は、その対象とする負債を定義する用語として『引当金』の語を使用することはしない」。

 先に「『引当金』という用語は、長く費用科目の相手勘定として利用されてきたところの、実質的に収益費用アプローチ製の建設資材であった。であるならば、資産負債アプローチの建設現場ではこの用語はもはや不要かもしれない」と記したのは、この一節を強く意識しての筆遣いであった。日本の会計ルールにとって、「収斂」か「採用」かの開国度合に違いはあるにせよ、IFRSを受容することが既定の路線であるならば、早晩わが国の会計制度から引当金の語がまとめて消え去るかもしれない。

 会計制度が矢継ぎ早に改まる平成の時代にあって、引当金の一語が歴史的使命を終えることなど、さほどの事件でもないと言うべきか。しかしながら、わが国の会計学者および会計実務家には節季仕舞いの棚卸作業が待ち受けている。つまりは、現存するすべての引当金勘定について、IFRSの規定に照らし、あるいは資産負債アプローチの観点から、その存否が、認識規準が、測定方法が問い直されなければならない。

 「引当金会計に動意あり」。本章の冒頭にこう謳った真意はここにある。引当金会計の大転換を迎えようとする今この時点で、わが国の引当金会計の来し方と有り様を再吟味し、もって次代の要請に備えたいと望む。ここに本書執筆陣共通の問題意識がある。

 

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