| I-1 |
| I.総 説 |
| 1 引当金会計に動意あり |
| いま引当金会計に新たな動きが生じている。これが、私たち、日頃より会計実務の最前線で業務に当る本書執筆陣の共通の認識であり、また著述の契機である。まずはこのあたりの問題意識を明らかにしておきたい。 実のところ、ここしばらく、わが国において引当金のあり方そのものが会計学界および会計実務界で大きなテーマとして取り扱われたことはなかった。古くは昭和56年の旧商法第287条の2の引当金規定の改正、および昭和57年の企業会計原則の注解・注18の修正をめぐり引当金論争が起こった。下って平成10年の税制改正に際しても、法人税法上の引当金が大幅に縮減されたのを機に、会計陣営から厳しい批判が提起された。しかしながら爾後10年余、会計実務家は、会計ビッグバンの掛け声のもと、米欧から新しい会計基準を導入することに汲々とし、伝統的な引当金問題に真っ向から取り組むことは少なかった。 この間の経緯を言えば、引当金をめぐる商法問題は、旧商法第32条第2項の斟酌規定「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」を通じて、実務上は会計の側に引き取られてしまい、顕在化することはなかった。また引当金をめぐる税法問題も、税効果会計の制度化によって、一応の解決をみており(すなわち会計上の引当金繰入額の損金不算入部分は、将来減算一時差異として繰延税金資産に計上されるに至り、もはや会計上の利益を歪める虞れはなくなっている)、確定決算主義の逆基準性の問題はなお未解決であるものの、企業の税負担の軽重の議論にほぼ収斂されている。 無論、この10年間、引当金に関していくつかの会計ルールが追加・変更されている。退職給付引当金然り、役員退職慰労引当金然り、利息返還損失引当金然り。けれども、その追加・変更の過程で、改めて引当金の本質が問い直されたわけではなかった。 然るに近時、この引当金会計に大きな動意が感じられる。その震源は、会計パラダイムの漸次的転換という、財務諸表の基礎工事に関わる大きな地殻変動にある。 |