1−(2) |
【事例2−1】
税務調査において、法人代表者による100万円(消費税8万円)の売上金除外の事実が指摘されました。
申告調整
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 売上計上洩れ | 1,080,000 | 1,080,000 |
(減 算) 未払消費税 | 80,000 | 80,000 |
〈別表5(1)〉
T 利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
区 分 | 期首現在高 | 当期の増減 | 期末現在高 | |
減 | 増 | |||
未払消費税 | Δ 80,000 | Δ 80,000 |
脱税を意図した法人代表者による売上除外の事例です。このような場合、一般に除外した売上金は代表者個人によって費消されているでしょうから、代表者に対する給与とされます。そこで税務上、次のような仕訳を要求されます。
〈調整仕訳〉
(借) | 役員給与 | 1,080,000 | (貸) | 売 上 | 1,000,000 | |
仮受消費税 (未払消費税) | 80,000 |
役員給与のうち定期同額給与は損金に算入されますが、本事例のように事実の隠ぺいや仮装経理により支給するものは、たとえ定期同額支給であっても、全額が損金に算入されません(法法34③)。
そこで、上記仕訳の借方は損金不算入のため、貸方の売上100万円を別表4で加算します。その際、税込みの108万円を加算、消費税追徴額8万円を減算と、両建てで記載するのが一般的です。そして、加算の108万円は費消しているので社外流出項目ですが、減算の8万円は修正申告後に納付が生じるので、留保項目となります。
別表5(1)には、加算の108万円相当額は社外流出しているので計上されず、減算した8万円の納税債務がマイナスの利益積立金として記載されます。なお、法人税および消費税の修正申告とは別に、当該役員給与に対する源泉所得税の追徴が行われます。
参 考
税込経理の場合の調整仕訳および申告調整は、次のとおりです。
〈調整仕訳〉
(借) | 役員給与 | 1,080,000 | (貸) | 売 上 | 1,080,000 |
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 売上計上洩れ | 1,080,000 | 1,080,000 |
〈別表5(1)〉
調整なし
別 解
個人的に費消した金員を法人に返還することとしたときは、給与としないで代表者に対する“貸付金”として処理することが認められる場合もあります。上記の申告調整との違いは、源泉所得税の課税の有無にあります。
この処理が認められた場合、申告調整は次のようにします。
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 貸付金計上洩れ | 1,080,000 | 1,080,000 |
(減 算) 未払消費税 | 80,000 | 80,000 |
〈別表5(1)〉
T 利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
区 分 | 期首現在高 | 当期の増減 | 期末現在高 | |
減 | 増 | |||
貸 付 金 | 1,080,000 | 1,080,000 | ||
未払消費税 | Δ 80,000 | Δ 80,000 |
この場合における税務上の修正仕訳は、次のようになります。
〈調整仕訳〉
(借) | 貸 付 金 | 1,080,000 | (貸) | 売 上 | 1,000,000 | |
仮受消費税 (未払消費税) | 80,000 |
借方は貸借対照表項目ですから、税務上、この処理は利益積立金の増加につながります。そこで、会計上の貸借対照表に計上洩れとなっている貸付金108万円を、簿外資産として別表5(1)に計上します。
なお、このように貸付金として認定する場合には、その貸付金に対する金利の授受が問題となります。法人側において、「受取利息計上洩れ」の加算の問題が生じることにご留意ください。
当期に修正申告を行い、追徴の消費税8万円を納付して次のように仕訳しました。
(借) | 租税公課 | 80,000 | (貸) | 現金預金 | 80,000 |
申告調整
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 消費税納付 | 80,000 | 80,000 |
〈別表5(1)〉
T 利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
区 分 | 期首現在高 | 当期の増減 | 期末現在高 | |
減 | 増 | |||
未払消費税 | Δ 80,000 | Δ 80,000 | 0 |
費用計上した8万円は、修正申告ですでに減算しています。そこで二重の損金算入とならないよう、この費用は損金不算入扱いとし、別表4において加算します。同時に、納税を済ませたことにより納税義務は消滅しますから、別表5(1)に計上しているマイナスの利益積立金を減少させます。
なお、修正申告した売上計上洩れ100万円については、社外流出項目なので、受入れ仕訳を行いません。いいかえれば、社外流出欄で加算した金額は修正申告の後、減算するすべがありません。
参考1
本事例で追徴の消費税を納める際の処理として、次のような仕訳も考えられます。
(借) | 仮 払 金 (仮払消費税) | 80,000 | (貸) | 現金預金 | 80,000 |
すなわち、中間納付分と同じように資産計上して、期末に未払消費税を計上する際に相殺するという処理の仕方です。この処理を行う場合、下記のように特異な申告調整を行うことになります。
申告調整
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 消費税納付 | 80,000 | 80,000 |
(減 算) 仮払消費税認容 | 80,000 | 80,000 |
〈別表5(1)〉
T 利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
区 分 | 期首現在高 | 当期の増減 | 期末現在高 | |
減 | 増 | |||
未払消費税 | Δ 80,000 | Δ 80,000 | 0 |
上記の処理では、追徴額の8万円は損金経理されないので本来、別表4における加算は不要です。ところが、納税を済ませたので別表5(1)の利益積立金は消滅させねばなりません。そこで、別表4において加算は留保欄、減算を社外流出欄という両建ての調整を行うことで、所得金額には影響を与えず、しかも利益積立金は減少させるという書き方をすることになります。
参考2
税込経理を行っているときは、修正申告における別表4の処分が「社外流出」のみであるため、翌期認容項目は存在せず、受入れの申告調整は何ら必要ありません。税込経理の場合、消費税は納税申告書を提出した事業年度、すなわち本事例では当期に損金算入されます(平成元年直法2−1七)。したがって、納付し「租税公課」に計上した消費税8万円は、税務上もそのまま損金に算入され、これに関する申告調整も不要です。
別 解
【事例2−1】の別解のように、費消した金員を貸付金として処理したときは、修正申告後、代表者は108万円を会社に支払うこととなりますが、その際の会計上の処理は次のようにします。
〈税務否認の受入れ〉
(借) | 貸 付 金 | 1,080,000 | (貸) | 雑 収 入 (前期損益修正) | 1,000,000 | |
未払消費税 | 80,000 |
〈貸付金の回収〉
(借) | 現金預金 | 1,080,000 | (貸) | 貸 付 金 | 1,080,000 |
〈消費税の納付〉
(借) | 未払消費税 | 80,000 | (貸) | 現金預金 | 80,000 |
会計上、上記の受入れ仕訳を行ったとき、申告調整は次のようになります。
〈別表4〉
区 分 | 総 額 | 処 分 | |
留 保 | 社外流出 | ||
(加 算) 消費税納付 | 80,000 | 80,000 |
(減 算) 貸付金受入れ | 1,080,000 | 1,080,000 |
〈別表5(1)〉
T 利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
区 分 | 期首現在高 | 当期の増減 | 期末現在高 | |
減 | 増 | |||
貸 付 金 | 1,080,000 | 1,080,000 | 0 | |
未払消費税 | Δ 80,000 | Δ 80,000 | 0 |
受入れ仕訳で計上している雑収入100万円相当額は、税務上は、修正申告ですでに益金算入済みです。このままでは二重に益金を計上することとなるので、この雑収入を益金不算入扱いするため、別表4で減算します(修正申告時の調整に合わせて加減算の両建て処理)。また、税務と会計の食い違い解消により、別表5(1)におけるプラスとマイナスの利益積立金も、残高を0にするため減少欄に記入します。