目次 1-II-3


3.益金

(1) 益金の内容

 法人税法第22条第2項では、収益の内容を具体的に列挙しており、これを整理すれば次のとおりです。

 (1) 資産の販売で生ずる収益
 (2) 有償による資産の譲渡で生ずる収益
 (3) 有償による役務の提供で生ずる収益
 (4) 無償による資産の譲渡で生ずる収益
 (5) 無償による役務の提供で生ずる収益
 (6) 無償による資産の譲受けで生ずる収益
 (7) その他の取引で生ずる収益

 資産の「販売」((1))とは商品や製品の売上げ、「譲渡」((2))は有価証券や固定資産など棚卸資産以外の資産の売却です。「役務の提供」((3))はサービス業における売上げであり、さらに無償で資産を取得したとき((6))は、受け入れた経済的利益を益金として認識します。

 上記の内容で分かりにくいのは、(4)と(5)の取扱いでしょう。無償で資産を譲り受けた側に課税が生ずるのはやむを得ないとして、その際に資産を譲渡した側に益金が発生するという発想は、企業会計からは出てきません。税務会計固有の理屈によるものです。


(2) 低廉譲渡の取扱い

 たとえば、親会社が子会社に対して所有土地(帳簿価額1,000万円、時価5,000万円)を帳簿価額で譲渡(いわゆる「低廉譲渡」)した場合を考えてみます。

 まず、土地を譲り受けた子会社の側では、次の経理処理を要求されます。

 (借) 土 地    5,000万円   (貸) 現 金
受贈益
   1,000万円
4,000万円

 時価が5,000万円するものを1,000万円で譲り受けることによって、子会社は明らかに4,000万円相当額の経済的利益を受けており、これを益金と認識して法人税の課税が起こるのはやむを得ないところです。

 一方、親会社の側ではいかなる経理処理が要求されるでしょうか。帳簿価額が1,000万円の土地を同額で譲渡したということで、

 (借) 現 金    1,000万円   (貸) 土 地    1,000万円

の処理をしただけでは、税務会計の解答としては不十分です。

 税務の観点からは、そもそも会社は営利を追及する組織ですから、低廉譲渡のような経済的に不合理な取引は、そのままの姿では認められません。あくまで時価で譲渡したものとみて、次の仕訳を要求します。

 (借) 現 金
寄付金
   1,000万円
4,000万円
  (貸) 土 地
売却益
   1,000万円
4,000万円

 つまりこの場合、まずは5,000万円で売却したものと考えて、次のように仕訳します。

 (借) 現 金    5,000万円   (貸) 土 地
売却益
   1,000万円
4,000万円

 ところが、現実の入金は1,000万円ですから、いったん5,000万円受け取った後4,000万円は子会社に返金したものと考えて、さらに次の仕訳を行います。

 (借) 寄付金    4,000万円   (貸) 現 金    4,000万円

 以上2つの仕訳をミックスしたものが上記の解答で、この取引は実質的に、親会社から子会社に対する4,000万円相当額の利益供与ですから、親会社には「寄付金」、子会社には「受贈益」がそれぞれ計上されるわけです。


  さて、企業会計の観点からは、この親会社の仕訳にはあまり意味がありません。売却益は収益となりますが、他方で寄付金が費用に計上されますから、損益計算上は借方と貸方が両建てになるだけで、当期利益に影響を与えません。

 ところが税務の扱いは違います。売却益は益金ですが、寄付金は必ずしも損金になりません。寄付金はその性質上、反対給付のない支出であるため事業活動を行う上での必要性の薄いものも多く、そのため一部のものを除いて損金不算入の扱いとなっています。

 そうなると親会社側では益金(売却益)だけ残り、これに対する課税問題が生じます。結局、低廉譲渡の場合には、譲渡側と譲受側の双方に課税が起こるということです。


(3) 高額買入れの取扱い

 税務では時価を無視した取引は問題視され、低廉譲渡とは逆に「高額買入れ」を行ったときも、やはり課税問題が生じます。

 たとえば、子会社の所有土地(帳簿価額1,000万円、時価5,000万円)を、親会社が8,000万円で買い入れる場合を考えてみます。

 まず、企業会計上の処理は次のとおりです。

<譲渡側(子会社)>
 (借) 現 金    8,000万円   (貸) 土 地
売却益
   1,000万円
7,000万円

<買入側(親会社)>
 (借) 土 地    8,000万円   (貸) 現 金    8,000万円

 要するに、帳簿価額が1,000万円の土地を8,000万円で売買したという仕訳です。

 ところがこの経理処理には、時価が5,000万円であるという要素が反映されていません。つまりこの取引も、要するに親会社から子会社に対する利益供与です。時価5,000万円のものを8,000万円で買い入れることによって、差引き3,000万相当額の経済的利益を与える結果となりますから、同額の寄付金と受贈益をそれぞれで認識しなければなりません。そこで税務上要求される仕訳は、次のとおりです。

<譲渡側(子会社)>
 (借) 現 金    8,000万円   (貸) 土 地
売却益
受贈益
   1,000万円
4,000万円
3,000万円
<買入側(親会社)>
 (借) 土 地
寄付金
   5,000万円
3,000万円
  (貸) 現 金    8,000万円

 実際の売買価額がいくらであれ、税務では時価で取引したものとして益金を認識しますから、譲渡側で計上される売却益は4,000万円(5,000万円−1,000万円)です。さらに、時価と実際の取引価額の差額(3,000万円)相当額だけ、寄付金と受贈益が計上されます。

 この場合に譲渡側の課税関係は、さきほどの企業会計上の処理をしても結果的に同じことです。勘定科目に違い(「売却益」または「受贈益」)はありますが、いずれにせよ7,000万円が課税対象です。つまり、7,000万円の売却益を計上することで、結果として受贈益部分も課税を受け、両者の処理には食い違いが残りません。

 一方、買入側の課税関係は若干複雑です。企業会計の処理では土地が8,000万円で計上されますが、税務上はこれが5,000万円、残り3,000万円は寄付金扱いされます。ここで寄付金は一般に損金不算入の扱いを受けますから、いずれにせよ3,000万円が損金になることはなく、一応この場合も両者同じ結果になります。

 ただし買入側については、高額買入れした資産を後日売却する時点で、課税関係が再燃します。たとえば、上記の土地が時価1億円に値上がりした時点で売却すれば、買入時に上記のいずれの処理をしたかで、売却益の金額が次のように違ってきます。

<企業会計上の処理>
 (借) 現 金    10,000万円   (貸) 土 地
売却益
   8,000万円
   2,000万円
<税務上の処理>
 (借) 現 金    10,000万円   (貸) 土 地
売却益
   5,000万円
   5,000万円

 両者の売却益の差は3,000万円で、これは買入時に行った寄付に相当する金額です。つまり高額買入れの場合、寄付金の損金不算入の扱いが、買入時ではなく後日の売却時点で問題になるということです。

 

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