目次 Q6


Q6 民事訴訟における裁判所と当事者の役割分担について教えて下さい。

 訴訟物の設定、事実上の主張、立証は当事者によりなされることが必要です(処分権主義・弁論主義)。法規、経験則は原則として裁判所の職責です。法律上の主張は当事者もすることができますが、裁判所はこれに拘束されるわけではありません。

 訴訟物の設定=当事者(処分権主義) 審判対象を設定するのは当事者の役割です。例えば、XがYに1,000万円を貸したところ弁済期日を過ぎても返してもらえないとします。この場合、Xは1,000万円を請求する訴えを提起することもできますが、500万円だけを請求することもできます。後者の場合の審判対象は、消費貸借契約に基づく500万円の貸金返還請求権です。このとき、裁判所はたとえ1,000万円の返還請求権が存在するとの心証を得ても、原告の請求である500万円を超える認容判決を下すことはできません(民訴法第246条)。なぜなら、処分権主義により訴訟物の設定は当事者の役割とされるからです。

 ところで、1,000万円貸したのに500万円しか請求しないということがあるのだろうかと思われるかもしれませんが、そうおかしなことではありません。訴えを提起する際には、裁判所に手数料を納付しなければなりませんが、この手数料は訴訟物の価額に応じて定められています。そこで、勝訴の見込みが低い場合や被告の財産が十分ではない場合などには、あえて原告の考える債権全体の一部のみを請求することもあるわけです。

 法律上の主張=裁判所の主導権/事実上の主張=当事者(弁論主義) 法律上の主張とは、法律効果などについての主張です。例えば、貸金返還請求訴訟において原告が貸金債権の発生を主張したりするのがこれに当たります。法律上の主張は当事者もすることができますが、事実上の主張と異なり、裁判所を拘束することはないと解されています。なぜなら、法律問題についての判断は裁判所の職責だからです。
 これに対して事実上の主張とは、事実の存否に関する当事者の主張です。例えば、貸金返還請求訴訟において原告が主張する、(1)金銭の授受や、(2)返還の合意がこれに当たります。こうした原告の事実上の主張に対して被告がとる態度としては、
 (1) 否認
 (2) 不知
 (3) 自白
 (4) 沈黙
の4種類があります。

 否認とは、相手方の主張を認めないとする陳述です。否認された事実は、その有無につき証拠調べによる確定が必要になります。不知とは、相手方の主張を知らないという陳述です。不知は否認と推定されますので(民訴法第159条第2項)、やはり証拠調べによる確定が必要になります。自白とは、相手方が主張する自己に不利益な事実を認めるとする陳述です。自白が成立すると、当事者はその自白を原則として撤回できなくなり、裁判所はその事実の有無について証拠調べをする必要がなくなり(民訴法第179条)、さらにその自白に拘束されて自白された事実と異なった認定をすることができなくなります。沈黙とは、相手方の主張に対して黙っていることです。沈黙は自白とみなされます(擬制自白・民訴法第159条第1項)。
 このような事実上の主張は、弁論主義により当事者の役割とされています。弁論主義とは、事実と証拠の収集を当事者の権限とする建前のことです。

 法規=裁判所/経験則=裁判所(自由心証主義) 法規、経験則については原則として裁判所の職責とされます。経験則とは、経験から帰納される事物の性状や因果関係に関する知識・法則のことです。上記の例で裁判所が、領収書があるということは金銭の授受があったはずであると認定するのは、まさに証拠を経験則にあてはめて事実を認定したということです。裁判における事実の認定は、審理に現れたすべての資料・状況に基づいて、裁判官が自由に形成する心証に委ねられます。これを自由心証主義と言います。

 立証=当事者(弁論主義) 立証、すなわち証拠の収集や提出・申出は、弁論主義により当事者によってなされます。上記の例で、領収書や契約書などの証拠を収集して提出するのは当事者です。裁判所が勝手に調査を開始して、真実を発見してくれるということはあり得ません。

 

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