目次 Q9


退職金処理

Q9 社長退任と退職金

 空前の利益が出たので25年間勤めた同族会社の代表を辞任して1億円の退職金をもらうことにし、息子に代表の地位を譲ろうと考えています。しかし息子の社長としての力量が不安なため、完全辞任ではなく取締役にとどまり、報酬も約半分にして何時でも再登板できるように考えていますが、この処理に何か問題はありますか。


Answer 名目的な退職で、実質的に法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合は、退職金を否認され代表者に対する賞与と認定されます。

 本件の場合、利益が出た機会に退職しており、息子への引継ぎが十分された上での退職ではないので、代表辞任後も経営に関与するため役員にとどまらざるを得なかったのでしょう。こうした場合、退職後の経営上の地位が厳しく査定されることとなります。


《解 説》

 実質的に法人の経営上主要な地位を占めて経営に従事していれば、退職したことにはなりません。また、その判定にあたっては会社の株主構成も影響しますが、貴社の場合、同族会社で株主は社長一族で構成されているものとしての上記結論であることを理解願います。

 さて、退職所得については所得税法第30条に、

 「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。」

と規定されており、また昭和58年9月9日最高裁判決では、

 「(1) 退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること
  (2)  従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること
  (3) 一時金として支払われること

との要件を備えることが必要であり、また、右規定にいう『これらの性質を有する給与』にあたるというためには、それが、形式的には右の要件すべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、右『退職により一時に受ける給与』と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである。」旨判示されています。

 そこで、本件を見てみるに、役員に関して実質的な退職とされる場合を定めた、法人税基本通達9―2―32の(3)に規定する「分掌変更後におけるその役員の給与が約半分と激減したことに当たる」と認められるものの、「その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」とされていることに留意する必要があります。社長一族で株主を構成している事実や空前の利益が出たことで急に代表者が退陣して息子に代表者を譲った経緯から、代表辞任後も経営に関与する必要に迫られて、役員にとどまったと推測されますので、現代表者が辞任して役員としての地位や職務内容が激変したと主張するには困難があると認められます。

 平成19年3月13日の最高裁判決では法人税基本通達9―2―32の基準を満たしても、

 ・退職したとする代表者が取締役としてとどまり
 ・新代表たる息子が会社の状況を把握できていないと推測される
 ・主要な取引先に対して交代の事実を知らせていない
 ・給与の減額が不自然
 ・満期生命保険金の多額収入がある

等の事実認定から役員退職金の損金算入が認められていません。

 さらに、辞任直後はさして問題なくても時の経過とともに経営が成り立たなくなり、2年から3年後にまた元の代表に就任しなくてはならなくなるケースもあるかも知れません。その場合、極めて厳しい見方を想定すると、すでに支払った退職金が役員賞与と認定されるようなことも考えられ、そうすると当初退職金とした金額は遡って損金不算入となりますから、法人税2,550万円と加算税255万円プラス延滞税が課されるでしょう。さらに、個人的には支給された退職金1億円は退職所得としての有利な課税方法が否定され、給与所得として当該年分の給与収入の金額にこの1億円を加算して算出した給与所得の金額を基礎として所得税が課されますので、当初給与収入1,200万円、所得控除額200万円として給与所得に対する所得税の増加額は概算3,900万円となり、減額される退職所得に対する所得税に比べてかなりの増額となるでしょう(平成26年分適用、復興税を除く。以下同じ)。

【参考法令等】
●所法第30条(退職金)
●法法第34条(役員給与の損金不算入)
●法令第71条(使用人兼務役員とされない役員)
●法基通9―2―32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
●昭和58年9月9日最高裁判決
●平成19年3月13日最高裁判決

 

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