目次 Q9


Question
 資本的支出の償却方法の見直し
 減価償却制度の改正に伴って、「資本的支出」の取扱いが新たに規定されたと聞きましたが、どのような内容ですか。

Answer


 資本的支出とは、固定資産に関連して支出された金額のうち、固定資産の原価を構成する支出をいいます。これに対して、修繕費(又は、資本的支出に対応する概念を意味する用語として、「収益的支出」ともいいます。)は、固定資産の効用の現状維持を目的として支出されるもので、その支出した事業年度の費用となるべき支出をいいます。実務上、「資本的支出」と「修繕費」を区分する判断が難しく、税務調査でもしばしばトラブルになることがあります。資本的支出と修繕費の区分は、原則として次のようになります(法令132)。




(1) 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
(2) 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額

 平成19年度の税制改正で、新しい減価償却制度が導入されたことによって、「資本的支出」の取扱いが、次のようになりました。

〔原則〕
 内国法人が有する減価償却資産について支出する金額のうちに132条(資本的支出)の規定によりその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額がある場合には、当該金額を54条(減価償却資産の取得価額)1項の規定による取得価額として、その有する減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとします(法令55マル数字1)。なお、従来は「取得価額に加算する」とされていました。




 また、旧定率法を採用している建物に資本的支出をした場合において、「特例」の適用を受けないときは、当該資本的支出に係る償却方法は「定額法」に限られます(法基通7−2−1の2)。

 なお、取得価額の「特例」として、次の(1)〜(3)のような処理も認められています。


(1)  平成19年3月31日以前に取得した既存の減価償却資産に資本的支出を行った場合

 平成19年3月31日以前に取得した既存の減価償却資産に資本的支出を行った場合、資本的支出を行った事業年度において、従来どおり、資本的支出の対象資産である既存の減価償却資産の取得価額に、この資本的支出の金額を加算することができます(法令55マル数字2)。

 なお、資本的支出の本体取得価額への加算については、平成19年4月1日以後に取得した減価償却資産に対する資本的支出は認められていません。

 この加算を行った場合は、平成19年3月31日以前に取得した既存の減価償却資産の種類、耐用年数及び償却方法に基づいて、加算を行った資本的支出部分も含めた減価償却資産全体の償却を行っていくこととなります。

 また、いったん、その減価償却資産全体に対して、その事業年度に償却費の計上を行った場合には、翌事業年度以後において、その加算した資本的支出を新たな資産の取得として平成19年4月1日以後に取得をする資産に採用する新たな定率法等の償却方法を採用することはできません。

 例えば、平成10年3月31日以前に取得し、旧定率法を採用している建物に資本的支出を行った場合は、旧定率法により資本的支出の対象となった建物と合算して減価償却することができることとされましたが、この場合には、定率法を採用することができず、あくまでも資本的支出の対象となった建物と同じ旧定率法となります。また、翌事業年度以後に資本的支出の対象となった建物から切り離して、新しい定率法を採用することはできません。

取得価額

平成19年3月31日以前の取得減価償却資産(旧償却方法を採用)

資本的支出


(2)  定率法を採用している既存の減価償却資産に資本的支出を行った場合

 資本的支出の対象資産である既存の減価償却資産(「旧減価償却資産」)と資本的支出(「追加償却資産」)の両方について定率法を採用しているときは、資本的支出を行った事業年度の翌事業年度開始の時において、その時における旧減価償却資産の帳簿価額と追加償却資産の帳簿価額との合計額を取得価額とする一の減価償却資産を新たに取得したものとすることができます(法令55マル数字4)。

 この場合は、翌事業年度開始の日を取得日として、「旧減価償却資産」の種類及び耐用年数に基づいて償却を行っていくことになります(次図参照)。

 また、いったん、減価償却資産全体に対して、翌事業年度に償却費の計上を行った場合には、翌々事業年度以後において、その合算した資本的支出を新たな資産の取得として旧減価償却資産と追加償却資産を別々に償却する方法は採用できません。




(3) 事業年度内に複数回の資本的支出を行った場合

 事業年度内に複数回支出した資本的支出について定率法を採用し、かつ、個々の資本的支出について上記Aの適用を受けないときは、その資本的支出を行った事業年度の翌事業年度開始の時において、その資本的支出のうち種類及び耐用年数を同じくするものの当該開始の時の帳簿価額の合計額を取得価額とする一の減価償却資産を新たに取得したものとすることができます(法令55マル数字5)。

 この場合は、翌事業年度開始の日を取得日として、既存の減価償却資産と同じ種類及び耐用年数に基づいて償却を行っていくこととなります。

 また、既存の減価償却資産と合算した資本的支出については、翌々事業年度以後において、他の資本的支出との合算は選択できません。逆に、他の資本的支出と合算した資本的支出についても、翌々事業年度以後において、既存の減価償却資産との合算の組み合わせに変更することはできません。




 「原則」と「特例」の有利不利の選択については、本体と資本的支出をそれぞれ別個の減価償却資産として償却した方が償却費の額は大きくなりますから、原則の方が特例より一般的に有利といえます。

 なお、特別な償却の方法の承認を受けている減価償却資産について資本的支出をした場合には、その資本的支出はその承認を受けている特別な償却方法により償却することができます(法基通7−2−3(注))。

 また、耐用年数の短縮の承認を受けている減価償却資産に資本的支出をした場合において、その減価償却資産及びその資本的支出につき、短縮した耐用年数により償却を行うときは、改めて国税局長の承認を受けなければなりません(法基通7−3−23参照)。

 

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