目次 Q4


 III 貸倒引当金(1)――あらまし


Q4 貸倒引当金制度の概要

Question
 平成10年の税制改正により、大幅な見直しが行われた貸倒引当金制度の概要についてご教示ください。


Answer


 法人が、その有する金銭債権の貸倒れによる損失の見込額として損金経理により貸倒引当金勘定に繰入れた金額のうち、期末における金銭債権の額を基礎として算定される繰入限度額に達するまでの金額は、申告を要件として損金の額に算入されるという貸倒引当金制度は、平成10年の税制改正により、法定繰入率による繰入限度額計算が原則として廃止されるとともに、法人税基本通達において認められていた債権償却特別勘定の法制化などの見直しが行われ、平成10年4月1日以後開始事業年度から、改正後の規定が適用されることになりました。


 (1)繰入限度額計算の概要

 貸倒引当金の繰入限度額は、期末の金銭債権を個別に評価する債権(個別評価金銭債権)と一括して評価する債権(一括評価金銭債権)とに区分し、それぞれ別に繰入限度額を計算します(法人税法第52条第1項、第2項)。

 なお、平成13年の税制改正前は、貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権に係る繰入限度額と一括評価金銭債権に係る繰入限度額の合計額とされ、仮に、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入額に繰入限度超過額があり、他方、一括評価金銭債権に貸倒引当金の繰入額が繰入限度額に達していない場合には、その通算(相殺)が可能でしたが、平成13年の税制改正後は、個別評価金銭債権に係る繰入限度額と一括評価金銭債権に係る繰入限度額とをそれぞれ別に計算することとされたため、このような通算はできません(法人税基本通達11−2−1の2)。


 (2)個別評価金銭債権に係る繰入限度額

1)対象債権

 個別評価金銭債権とは、その事業年度終了の時において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権をいい(法人税法第52条第1項)、「貸倒れその他これに類する事由」としては、売掛金、貸付金その他これらに類する金銭債権の貸倒れのほか、たとえば、保証金や前渡金等について返還請求を行った場合における当該返還請求債権が回収不能になったときが含まれます(法人税基本通達11−2−3)。

 したがって、保証金や前渡金等は、そのままでは一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象債権にも該当しませんが(法人税基本通達11−2−18)、これらについて返還請求を行った後の返還請求債権について、部分的に回収不能見込額が生じた場合には、これを個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ対象にすることができます。

 また、平成13年の税制改正により、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金は、その対象とした金銭債権に係る債務者に対してほかの金銭債権がある場合には、当該他の金銭債権を含めて繰入限度額を計算し、債権ごとではなく、債務者ごとに損金算入額を計算します。

 したがって、たとえば、法人が債務者であるX株式会社に対して、売掛金100万円、受取手形300万円および貸付金80万円といった3種類の債権を有している場合には、売掛金100万円、受取手形300万円および貸付金80万円のすべてが個別評価金銭債権とされ、法人は債務者であるX株式会社に対して、一括評価金銭債権は有していないことになります。


2)繰入限度額の計算

 事業年度終了時における個別評価金銭債権について、次の(a)〜(d)に応じて計算した回収不能見込額の合計額が個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額となります(法人税法第52条第1項、法人税法施行令第98条第1項、法人税法施行規則第25条の2、第25条の3)。

 (a)  個別評価金銭債権が会社更生法の規定による更生計画認可の決定等の一定の事由が生じたことにより、その弁済を猶予され、または賦払いにより弁済されることとなった場合

 この場合には、対象債権から、その事由が生じた事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額および担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる金額を差し引いた金額が回収不能見込額になります。

 ここで、「一定の事由」とは次の決定等をいいます。

 会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画認可の決定
 民事再生法の規定による再生計画認可の決定
 商法の規定による特別清算に係る協定の認可
 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるもの
   債権者集会の協議決定で合理的基準により債務者の負債整理を定めているもの
  ii  行政機関、金融機関その他第三者のあっせんによる協議により締結された契約でその内容がiに準ずるもの

 また、「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる金額」とは、質権、抵当権、所有留保権、信用保険等によって担保されている部分の金額をいいます(法人税基本通達11−2−5)。

 (b)  個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、その個別評価債権の一部につき取立て等の見込みがないと認められる場合((a)に該当するものを除きます)

 この場合には、対象債権から、担保権の実行その他による取立て等の見込みがある金額を差し引いた金額が回収不能見込額になります。

 なお、「相当期間」とは、おおむね1年以上とし、その債務超過に至った事情と事業好転の見通しをみて、事由が生じているかどうかを判定します(法基通11−2−6)。

 (c)  個別評価金銭債権に係る債務者につき、会社更生法の規定による更生手続開始の申立て等の一定の事由が生じている場合((a)に該当するものおよび(b)の適用を受けたものを除きます)

 この場合には、対象債権から、債務者から受け入れた金額があるために実質的に債権とみられない部分の金額および担保権の実行、金融機関等の保証債務の履行その他により取立て等の見込みがある金額を差し引いた金額の50%が回収不能見込額になります。

 ここで、「一定の事由」とは次の申立て等をいいます。

 会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の申立て
 民事再生法の規定による再生手続開始の申立て
 破産法の規定による破産手続開始の申立て
 商法の規定による整理開始または特別清算開始の申立て
 手形交換所による取引停止処分

 また、「債務者から受け入れた金額があるために実質的に債権とみられない部分の金額」には、同一人に対する売掛金または受取手形と買掛金がある場合のその売掛金または受取手形の額のうち買掛金の額に相当する金額や、同一人に対する売掛金とその者から受け入れた借入金がある場合のその売掛金の額のうち借入金の額に相当する金額など、債権と債務が相殺適状にあるものばかりでなく、債権と債務が見合っており、事実上相殺できる性格をもつものも含まれます(法人税基本通達11−2−9)。

 (d)  外国の政府、中央銀行または地方公共団体に対する個別評価金銭債のうち、これらの者の長期にわたる債務の履行遅滞によるその経済的価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる自由が生じている場合

 この場合には、対象債権から、債務者から受け入れた金額があるために実質的に債権とみられない部分の金額および保証債務の履行その他による取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を差し引いた金額の50%が回収不能見込額になります。


 (3)一括評価金銭債権に係る繰入限度額

1)対象債権

 一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権(売掛債権等といいます)で、個別評価金銭債権および非適格合併等(適格合併に該当しない合併または適格分割型分割に該当しない分割型分割をいいます)により合併法人等(合併法人または分割継承法人をいいます)に移転する金銭債権を除いたものをいいます。したがって、個別評価金銭債権がある場合には、その債務者に対して有する金銭債権の全額が一括評価金銭債権から除外されることになります。

 ここで、「その他これらに準ずる金銭債権」には、資産の譲渡対価である未収金、役務提供の対価たる未収加工料、未収手数料、未収地代家賃等および貸付金の未収利子などで、所得金額の計算上益金の額に算入されたものが含まれ、預貯金や公社債等の未収利子や未収配当金等は含まれません(法人税基本 通達11−2−18)。

 また、売掛債権等について取得した受取手形について裏書譲渡(割引を含みます)をした場合には、その裏書譲渡された受取手形の金額が財務諸表の注記等において確認できる場合にのみ、その売掛金、貸付金等の既存債権は売上債権等に該当するものとして取り扱われます(法人税基本通達11−2−17)。


2)繰入限度額の計算

 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額は、その事業年度終了時における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に貸倒実績率を乗じて計算した金額とされています(法人税法第52条第2項、法人税法施行令第96条第2項)。

 この場合、一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に乗じる貸倒実績率は、過去3年間の貸倒実績率ですが、具体的には次のように計算します(小数点以下第4位未満の端数があるときはこれを切り上げ、また、月数は暦に従って計算し、1月に満たない端数が生じたときは、これを1月とします)。

  A× 12÷ Aの事業年度の
月数の合計数
÷ B÷ Bの各事業年度の数 =貸倒実績率

  A= その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の売掛債権等の貸倒損失の額 その各事業年度の個別評価分の引当金繰入額 その各事業年度の個別評価分の引当金戻入額 合併法人等が引継ぎを受けた引当金戻入額または期中貸倒引当金の戻入額
   
  B= その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度終了の時における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額

 この算式における「個別評価分の引当金繰入額」とは、その事業年度で損金の額に算入された個別評価金銭債権の貸倒引当金勘定の金額および適格分社型分割等により分割継承法人等に移転する個別評価金銭債権の期中貸倒引当金勘定の金額の合計額をいい、「個別評価分の引当金戻入額」とは、その各事業年度で益金の額に算入された貸倒引当金勘定の金額のうち、その直前の事業年度の個別評価金銭債権の貸倒引当金として損金の額に算入された金額の合計額(その各事業年度において貸倒損失の額が生じた売掛債権等または個別評価もしくは期中貸倒引当金の対象とされた売掛債権等に係るものに限ります)をいいます。


3)中小法人等の特例

 中小法人(期末における資本の金額または出資金額が1億円を超える普通法人ならびに保険業法に規定する相互会社および外国相互会社を除いた法人をいいます)、公益法人等または協同組合等(中小法人等といいます)の一括評価金銭債権に係る貸倒引当金については、法定繰入率と貸倒実績率との選択適用 が認められています。

 中小法人等の法定繰入率は、次のとおりです(租税特別措置法施行令第33条の8第4項)。なお、法人の営む事業がいずれの事業に該当するかは、原則として日本標準産業分類の分類を基準として判定します(租税特別措置法関係措通第57条の9−3)。

 (a)卸売業および小売業……1,000分の10
 (b)製造業……1,000分の8
 (c)金融および保険業……1,000分の3
 (d)割賦販売小売業および割賦購入斡旋業……1,000分の13
 (e)その他の事業……1,000分の6

  (注)  卸売業および小売業については、飲食店業および料理店業を含み、割賦販売小売業を除きます。製造業については、電気業、ガス業、熱供給業、水道業および修理業を含みます。

 また、法定繰入率を用いる場合、貸倒引当金の対象となる金銭債権の帳簿価額は、その事業年度終了の時における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額から、実質的に債権とみられないものの金額を控除したものとしなければなりません(租税特別措置法第57条の9第1項、租税特別措置法施行令第33条の8第2項、租税特別措置法関係通達第57条の9−1)。

 この実質的に債権とみられないものの金額は、原則的には、個々の債務者ごとに計算する必要がありますが、平成10年4月1日に存在していた法人は、次に示す簡便計算によることも認められています(租税特別措置法施行令第33条の8第3項)。なお、基準年度とは、平成10年4月1日から平成12年3月31日までの間に開始した各事業年度をいいます。

  その事業年度末の
一括評価金銭債権
の額
× 基準年度末の実質的に
債権とみられないものの
合計額
÷ 基準年度末の
一括評価金銭
債権の合計額
その事業年末の実質
的に債権とみられない
ものの額

  (注)  分数の割合に小数点以下第3位未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

 

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