実践! 経営コーチ

  「赤字覚悟のセールをする!」
  −セールを成功させたい−



日本経営コーチ協会 アドバイザリーボード
中小企業診断士  伊地知 克哉



駅前でカジュアルウエアの店を営んでいるD社長。立地条件がよいため、これまではまずまずの売上を維持してきた。ところが、3ヵ月ほど前、駅から1キロほど離れた場所に大型ショッピングセンターHがオープン。ナショナル・ブランドのカジュアルウエア店(X社)がテナントとして出店してきた。その影響からか、客数が減少気味である。


D社長
いやあー参ったよ。今までは学校や会社帰りの若い子たちがフラッと寄ってくれたのに、あのショッピングセンターができてからは素通りする子が増えたね。このままじゃ、いけない。それで、来月特大セールをやろうかと思っていてね。実は在庫がたまり気味なので、原価割れ覚悟の破格値をつけて、売り切っちゃおうと思っているんだ。


経営コーチ
素通り客を引き止めるわけですね。(言い換え)
これまで、大きなセールをやったことがありましたっけ。(確認)


D社長
そうだな、決算期に在庫一掃セールはやったことがあるけど、今回は特別だよ。


経営コーチ
これまでにない特大セールですね。(言い換え)


D社長
そう、半端なセールじゃないよ(笑)。


経営コーチ
何がなんでも、原価割れ覚悟で特大セールをおやりになるのですか。(ファクトプレゼンテーション)


D社長
うーん…。売上減少が少ない今だから、インパクトのある特大セールはやりたい…。


経営コーチ
特大セールによって、御社にどのようなメリットが生じると思いますか。(オープンクエスチョン)


D社長
メリットか…。まず、在庫がはける。在庫がキャッシュになる、ことかな…。


経営コーチ
原価割れ覚悟の破格値で販売する商品はどのくらいありますか。(焦点をあてる)


D社長
いや、買ってもらえれば、何でも破格値で売りたいよ。特大セールだからね(笑)。


経営コーチ
では、特大セールの破格値で商品を購入したお客さんは、御社にどのようなイメージを持つと思いますか。(リフレーミング)


D社長
うーん、安い店?いや、それは困るなあ。


経営コーチ
困るというのは、利益が出なくなるからという意味ですか。(確認)


D社長
それもあるし、適正価格で買ってくれるお客さんがいなくなるリスクがあるしな…。


経営コーチ
御社の場合、商品の売れ行きが季節や流行などに影響される面がありますから、これまでもある程度は在庫一掃セールを行ってきましたよね。(確認)


D社長
そうなんだ。特に、冷夏とか暖冬だとその影響がはっきり出るしね…。


経営コーチ
そうでしたね。
今回は決算期でもありませんし、冷夏や暖冬の影響からセールを行うわけではありません。(ファクトプレゼンテーション)
であれば、せっかく特大セールと銘打ってやるのですから、お客さんにも喜ばれて、経営的にもメリットがあることをやりたいですよね。(確認)


D社長
それは、もちろん。


経営コーチ
ところで、客数の減少はX社の影響だと思いますか。(焦点をあてる)


D社長
そりゃあ、全国ブランドのX社とうちのような小さなショップだったら、お客さんもあっち(X社)に流れるでしょう。


経営コーチ
Hができてから、私も何かと気になっていたので、先週の水曜日、物珍しさも手伝ってHに行ってみました。いろいろと見て回ったのですが、驚くべきことにX社にはあまり若いお客さんはいませんでしたよ。むしろ中高年の夫婦が多かったですよ。(ファクトプレゼンテーション)

D社長
えっ、ほんとですか。それじゃあ、あまり競合していないのかな。(業界の専門誌を取り出し)そういえばこの雑誌で読んだけど、X社の店舗コンセプトはカジュアル衣料で、男性でも女性でも着こなせるような、斬新なデザインが受けているということだったけど…、あった、この記事だ。どれどれ、X社のブランドコンセプトは…、「男女共用」か!


経営コーチ
そうですか、男女共用がコンセプトなんですか。だから、夫婦連れが多かったのですね。(ファクトプレゼンテーション)
百貨店やGMS(総合スーパー)の衣料品売り場といえば、紳士服と婦人服は別々のフロアーというのが私のイメージでしたから、一人だと何となく居心地が悪く感じたのはそのせいですかね(笑)。(焦点をあてる)


D社長
そうですよ、経営コーチ。ということは、客数減少は別に要因があるのかな。客数減少=X社との競合と短絡的に考えすぎていたのかもしれないな。


経営コーチ
客数が減少し始めた時期とHのオープンは同じ頃ではないでしょうか。(ファクトプレゼンテーション)


D社長
えーと、Hのオープンが2ヵ月前、プレオープンがその約1ヵ月前だったから…、ちょうど2ヵ月くらい前から客足が減っている。そうだ、Hは今注目の大手GMSが展開している人気のショッピングセンターだから、若い子たちもHの珍しさに惹かれてうちの店を素通りしているのかもしれない。ということは、いずれ飽きたら戻ってくるかね(笑)。


経営コーチ
それは社長の仮説ですか(笑)。(支持)


D社長
いや、希望だね(笑)。これは、もう少し原因を調べたほうがいいかもしれないな。


経営コーチ
お客さんにそれとなくお話を聞いてみてはいかがですか。(指示)


D社長
うん、そうしてみるよ。


経営コーチ
さて、特大セールですが、商店街のイベントと絡めるとか、できませんかね。(リフレーミング)


D社長
そうか、客数減少はうちだけじゃなくて、他の商店も影響が出ているといってたな。ちょっと商店街の会長に提案してみるかな。。


経営コーチ
いいですね。ショッピングセンターという集合体にには商店街という連合体で対抗する。もともと、ここは立地のよい商店街ですから、その強みを生かせる特大セールをやってほしいですね。そのように商店街が盛り上がってくれたら、私も市民の立場としてうれしいですし、知り合いを誘って買い物に繰り出したいですよ。(支持)


D社長
ほんとに!それは心強い。何だか熱いものがこみ上げてきたよ。


経営コーチ
資本力では負けるかもしれませんが、商店主の絆の力では負けないでしょうし、通勤・通学の人が必ず通る駅前という地の利を生かせば、いい知恵が出ると思いますよ。(ファクトプレゼンテーション)


D社長
そうだね、何も一人で悩むことはなかったんだな。商店街連合で戦うことを忘れていた気がする。他県の商店街には、地域通貨の流通を促進させて、一人暮らしの高齢者や地域の安全に自ら取組んでいるという話も聞いたことがある。


経営コーチ
それはすばらしい取り組みですね。地域住民の一人として、私にも何かできることがあれば、おっしゃってください。一市民としても協力しますよ。(支持)


伊地知 克哉 (いじち かつや)

中小企業診断士伊地知克哉事務所 中小企業診断士

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