実践! 経営コーチ

  税金なんか払いたくない
  −税金は信用を買うコスト−



日本経営コーチ協会 アドバイザリーボード: 伊地知 克哉



食品加工業のK社は、5年前に大きな赤字を計上したが、流通大手のB社との契約を獲得して業績が上向き、3年前から利益が出るようになった。ところが、前期までは法人税等は均等割りのみですんでいたのが、今期は法人税を支払う必要が出てきたことに社長のA氏は納得していない様子。そこで、話題は決算から税金へ・・・。


A社長
3年前からすると、そんなに利益は変わっていないのに、どうして今期はこんなに法人税を持っていかれるんですか。やっと、資金繰りが楽になってきたところなのに税金でゴソッともっていかれるのは納得がいきません。何でも知り合いの会社は節税を上手くやってそうだし、うちも節税できないものですかね。


経営コーチ
節税ですか。(1)受容
節税と一口に言われましても、会社によって適用要件が異なってきます。いろいろな条件を勘案して判断しないと脱税という事になりかねません。ですから、知り合いの会社が本当に節税をしているかどうかは何とも言えませんね。 でも、御社も節税の恩恵は確実に受けておりますよ。(リフレーミング)


A社長
え、本当ですか。いつ、いくら節税していましたっけ。


経営コーチ
過去2年間、今期と同じくらい利益が出ていたのに、ほとんど税金が出なかったのは、なぜだと思いますか?(オープンクエスチョン)


A社長
そ、それは・・・、5年前に大赤字を出したから、繰越何とかっていう、あれでしょ。


経営コーチ
繰越欠損金のことですね。


A社長
そうそう繰越欠損金、それですよ。そうか、過去の大赤字を繰り越して所得計算に使えるのですね。


経営コーチ
まあ、平たく言えばそういうことですね。(笑)。


A社長
じゃあ、5年前に赤字を出していなければ、3年前から法人税を今期と同じくらい払わなければならなかったということですか。


経営コーチ
簡単に言うと、そう言うことです(笑)。


A社長
じゃあ、今期は税金を払わないといけないのですね(笑)。


経営コーチ
過去の赤字を穴埋めするくらい、それだけ業績が回復したのですから、今期は法人税を納めるのは当然ですよ。
それとも、もう一度赤字を出すような事態をお望みですか。(リフレーミング (2)確認)


A社長
と、とんでもない。赤字はこりごりです。


経営コーチ
赤字になった5年前と業績が回復した現在とで、会社の経営で何が1番変わったと思いますか。(オープンクエスチョン)


A社長
うーん、そうですね。そういえば先週、M銀行の融資担当者が飛び込み営業でやってきましてね「社長、設備投資するなら、是非当行をご利用下さい。ご融資しますよ」って、パンフレットを置いていきました。条件が合えば無担保・無保証の新商品だそうです。


経営コーチ
M銀行ですか。それはすごいですね。M銀行と言ったらメガバンクですよ。


A社長
でしょう。5年前なんか、取引先のS信金ですら「担保か保証人がいれば別ですが、そうでなければ社長の会社にはもう融資枠がありません」って冷たくあしらわれていたんですよ(笑)。


経営コーチ
そういえば、先日、新製品の商品化の目処が立ったとおっしゃていましたね。しかも画期的な商品だとか。((3)承認)


A社長
そうそう。あれは自信作でね、ヒットする予感があるんですよ。売れ行きが好調ならば、製造ラインを増やす設備投資もしなきゃいけないし、そのためには設備資金の調達も必要かなと考えていたので、S信金にM銀行の話をしたら「しゃ、社長、当金庫も融資のご相談に乗りますから」って、担当者が慌てて声がひっくり返っていましたよ(笑)。


経営コーチ
5年間で、金融機関の態度が天と地ほど変わったと言うことですね。((1)受容)


A社長
そうですね。いやあー金融機関というのは、業績がよいときは「借りてくれ」って言うし、業績が悪くなると「貸しません」「今月の返済、大丈夫ですか」って言うし、いい加減なものですね。


経営コーチ
じゃあ、新商品がヒットして業績が良くなったら、ますます「借りてください」って言って来るじゃないですか。(4)促す


A社長
そうだね。それはそれで、気持ちいいんだけれどね(笑)。


経営コーチ
そうなると社長、業績も更に伸びるわけじゃないですか。((2)確認)


A社長
すると、利益が増えるから税金も増えるということか。


経営コーチ
何としても節税をしたいようですね(笑)。それ(税金)よりも、何が大切なことを忘れていませんか。(リフレーミング・オープンクエスチョン)


A社長
税金より大切なこと?


経営コーチ
はい。納税は義務ですから、適正な税金は支払わなければなりません。しかし、税金が増えるといっても、法人税等の実効税率は40%くらいですから、利益の全部を持っていかれるわけではありません。むしろ、税引後の利益を考えてください。


A社長
税引後利益ね。


経営コーチ
この2年間、税引後の利益はどうしていましたか。(オープンクエスチョン(2)確認)


A社長
別にうちは配当するわけでもないし、普通なら残るはずなのに、損益計算書の金額ほど残っていなかったな・・・。あれ、どこに消えたんだ?


経営コーチ
税引後利益の半分くらいは、借入金の元本部分の返済に充てられたのではないですか。((2)確認)


A社長
そうだ。ということは、新たな融資を受けるということは、今以上に税引後利益を上げないと、借入金の返済ができないということ?


経営コーチ
そういうことになりませんか。(1)受容 (2)確認


A社長
そうですね。


経営コーチ
なのに、新商品がヒットしているにもかかわらず、利益を少なくして節税をしようとしたらどうなりますか。(リフレーミング・オープンクエスチョン)


A社長
銀行に借金が返せなくなる?


経営コーチ
ということは、税金を支払うということは、どういう意味があると思いますか。(オープンクエスチョン)


A社長
税金を支払っていない会社には、銀行は融資をしない。そういうことですか。


経営コーチ
5年前がそうだったのではありませんか。((2)確認)


A社長
そうです。そうです。


経営コーチ
良いご経験をされていますね。“あの素晴しい経験をもう1度”(笑)されたいのですか。((2)確認)


A社長
真っ平、御免です!


経営コーチ
税金を払うのは、信用の証、つまり信用を買うコストと考えれば、損益計算書に法人税等という費用科目があることも、それなりに意味があると思いませんか。((2)確認)


A社長
なるほど!わかりました。


経営コーチ
新商品がヒットするよう、頑張ってください。


伊地知 克哉 (いじち かつや)

中小企業診断士伊地知克哉事務所 中小企業診断士

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