株価だけではない「事業承継」

(4)『遺産分割』の困難に備える

1.遺産分割の困難とは

 相続の一連の手続の中で、「誰がその財産を相続する」といったことを、相続人間で決定することが『遺産分割協議』です。
 遺産分割協議は、相続人全員の合意が無ければ成立しません。当然、相続人間で折り合いが悪い場合は協議をまとめることは難しくなります。ただ、そういった不仲のケースだけでなく、相続人の個別の理由によっても協議が成立できなくなる可能性もあります。
 例えば、相続人の一人が行方不明だったり、病気等で判断能力がなくなっていたりといったケースは、協議に重大な支障となります。それこそ、誰かが遠方に住んでいるだけでも大きな手間がかかってしまうこともあるのです。
 さらに、状況によっては、税務申告等のために協議を急ぐ必要も発生するといったこともあります。「うちは親族の仲が良いから問題ない(そう言っていてもめてしまった場合もあるようですが)」という話を聞くこともよくありますが、別の事態を想定し、遺産分割への対策を甘く見るべきではありません。

 遺産分割の内容によっては、相続人の感情的なトラブルを発生させたり、会社の株式を引継いだ者の会社への支配力や相続税にも影響を与えるため、言うまでも無くその内容も重要です。
 会社側からすると、株主に相続が発生すると、株主が固定できないで困ってしまうこともあります。急いで株主総会を開催して重要な決議をしてもらいたいとき、「まだ遺産分割が終わっていないから議決権を行使できない」という事態も考えられます。定款の規定である程度のことはケアできるかもしれませんが(事業承継(3)の2参照)、全てのケースに十分な対応をすることはできないでしょう。


2.遺言の活用

 遺産分割協議が上手く行かないリスクを回避するための最も有効な手段は、「遺産分割協議を開催させないこと」だと考えます。
 協議を開催させないためには、『遺言』を利用し、その内容で『相続に関する落としどころ』を全て決めてしまうことが最も一般的でしょう。相続発生後ただちに株主を固定してしまうことができるようになります。
 遺言を使って対策をする場合は、もちろん税金や当事者感情も含めて作成しておきたいところです。さらに、遺言の内容をしっかり実現してもらうため、信頼できる者を遺言執行者にしておくこともおすすめします。
 生前のうちから少しずつ株を譲渡するようなケースでも、その途中でお亡くなりになってしまうリスクを考慮して、遺言で保険をかけておくと良いでしょう。

 遺言で相続の内容を決めるときに『遺留分』が気になる場合もあります。相続財産が株式以外ほとんどなく、その株式が高額に評価される場合、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性が高いでしょう。
 この点につき、事業承継円滑化法で新たな制度が作られていますが、果たしてどれほど利用されるのかは疑問です。
 もっと重要なことは、「遺言で遺留分を侵害していたところで、その遺言内容自体は有効」だという性質ではないでしょうか。たとえ誰かの遺留分を侵害していたとしても、遺言に書いた内容はそのまま実現されるので、財産の帰属や株主を直ちに固定できます。
 また、遺留分に基づく請求(遺留分減殺請求)を行うかは、相続人ごとの判断により、それが可能な期限も決められています。それこそ、「起こされるか分からない請求に対して事前にビクビクしているよりは、起こされたときに事後的な対応をすればよい」という考え方も成り立つのではないでしょうか。
 あらかじめ、遺留分による主張をケアできることがベストですが、必要以上に心配して先に進めなくなってしまっては、より問題が大きくなってしまいます。


3.種類株式の活用

 相続税を減らすためには、相続財産をできるだけ分散させるべきです。しかし、会社の株式が分散してしまうと、会社に対する支配力が弱まってしまいます。
 そこで、その相反する二つを同時にかなえるために、種類株式等を利用することも考えられます。議決権の無い株式を会社にタッチしない株主に相続させることで、相続財産は分散して相続されるものの、会社の経営には口を出させないということになります。
 また、遺留分対策にもこの方法を応用できます。遺留分を侵害しないように議決権の無い種類株式を相続させるのです。しかし、遺留分の紛争の原因は感情的な問題が大きいところ、このような相続のさせ方をしてしまうと、余計に感情を逆なでしてしまうかもしれません。
 いずれにせよ、種類株式等というものはあまりに概念的過ぎて、分かりにくいという感覚があります。使いこなすにはハードルが少々高いかもしれません。


4.生命保険の活用

 遺産分割に関わる問題には、あまりテクニカルな方法というものはふさわしくないと感じています。できるだけ、後を引かず、きれいさっぱり終われる方法を落とし所にしたいところです。
 その点では、まとまったお金を一時金として受取ることのできる生命保険は、非常に使い勝手の良いツールとなります。
 例えば、遺産分割の場面で後継者が全ての株式を相続すると、他の相続人とのバランスが悪くなってしまう場合に、後継者に死亡保険金がおりるようにしておき、その保険金を他の相続人に支払うことで不平等を解消することもできます。遺留分の問題では、他の相続人が遺留分に基づく請求をしてきた際に、保険金でその請求に対応できるようにしておくことも可能です。
 また、遺産分割の話とは少しそれますが、死亡保険金で相続税の納税資金を準備したり、自社株を相続人から買取れるようにしておくということも可能です。

 

Copyright 著作権マーク Arrows Legal Service. All Rights Reserved
Copyright 著作権マーク SEIKO EPSON CORPORATION , All rights reserved.