FRAUD MAGAZINE
(2016.10.20掲載)
シェル・ゲーム(イカサマ賭博)
ダミー会社(Shell company)の調査と国際的な不正におけるその役割の解明

Shell Games
Investigating shell companies and understanding their roles in international fraud

 (訳注:Shell companyシェルカンパニーとは、企業買収を目的としたダミー会社のこと。実体がないという意味で、シェル(貝、殻)という言葉が使用される)。

Ryan C. Hubbs, CFE,CIA,PHR,CCSA
翻訳協力:坂崎誠 CFE

 犯罪者はダミー会社をマネーロンダリングや脱税、そしてありとあらゆる不正を持続させるために利用する。著者はダミー会社を定義、解剖することにより、不快に痛い所を突くこの危険な存在をCFEが調査することを支援する。

 不正対策の専門家にとって、ダミー会社のスキームを調査したり理解したり、面と向かいあったりしなければならないという考えは、どう見ても馴染みの薄いものでしかない。ダミー会社のことはニュースで聞くかもしれない。しかし、本当によその会社、国、産業で起こっているだけなのだろうか。不幸なことに、国際犯罪と不正の状況はこの四半世紀の間で劇的に変化した。ダミー会社はもはや大規模な脱税者にとどまらない。読者の属する組織が今日の経済において何らかのタイプの経済活動に従事しているならば、ダミー会社は懸念事項となるはずだ。ダミー会社は世界で最も腐敗し、危険で、冷酷な個人や団体が選択する財務上、不正の手段である。兵器商人、麻薬カルテル、汚職に手を染める政治家、詐欺師、テロリスト、サイバー犯罪は、ダミー会社の利用者のほんの一例に過ぎない。サダム・フセイン(Saddam Hussein)、イラン、アルカイダ(Al Qaeda)そしてオサマ・ビン・ラディン(Osama bin Laden)は、かつて、あるいは今もダミー会社の支持者である。(参照:“Web of Shell Companies Veils Trade by Iran's Ships" by Jo Becker, New York Times, June 7, 2010, https://tinyurl.com/k7enss4.) 負けたくないばかりに、合法的な事業の団体が国際的なイカサマ賭博に手を出し、不幸なことに、その中のある者は成功を収めていることが判明している。

 2014年4月、ヒューレット・パッカード社は米国司法省、証券取引委員会に罰則で1億ドル以上の支払うことに合意した。司法次官補のブルース・シュワルツ氏(Bruce Swartz)によると、「ヒューレット・パッカード社の子会社は賄賂の支払のために不正資金を作り、ダミー会社の複雑な関係と銀行口座を資金洗浄のために作成した。そして賄賂の受領者の監視のための2組の通帳を利用し、匿名のメールアカウント用とプリペイド式の携帯電話を使って現金の入ったバッグを手渡しするための秘密の会議を設定した」(参照:the April 9, 2014, U.S. Department of Justice release, “Hewlett-Packard Russia Agrees to Plead Guilty to Foreign Bribery," https://tinyurl.com/mtmuugd.)すべてのダミー会社が不正な手段のために利用されるわけではなく、法人としての適法な使い方ある、たとえば、将来のビジネスの権利や機会を失わないため、持ち株会社として利用する、(名義のみの)ダミー会社を設立するなど。すべてのダミー会社が犯罪的陰謀に加担してはいないので、なぜある者がダミー会社を犯罪目的で利用するのかを理解することが重要になる。主な目的はその他の基本的な不正スキームと同じく秘匿することである。これは横領した資金の性質、起源、仕向地および、また真の所有者と犯罪行為もしくは陰謀の意志決定者の隠匿を含む。

貝殻、棚と法人設立者 (Shell, shelf and incorporators)

 多くの例で、一つのダミー会社では不十分で、不正実行者はネットワークを必要とする。数多くのダミー会社、任命された取締役、住所、偽りの株主たちがスキームや犯罪の企てを隠すのに必要とされる。大物犯罪者はダミー会社の設立者を利用して、力のいる仕事と偽装のための会社の複雑な仕組みを作り出し、優秀な調査担当者を当惑させ、混乱させる。ダミー会社は異なる形態や規模を持つため、司法管轄地域がその隠蔽を助長することになる。ある不正実行者は一回の利用のためダミー会社を設立し、放棄する。もしくは繰り返し利用するか、複数回にわたって所有者を変更するかもしれない。シェルフカンパニー「売却目的で設立された会社」を設立して、一定期間利用しないかもしれない。シェルフカンパニーは合法であると見せかけ、未熟な調査担当者や基本的な適性評価(デューデリジェンス)の仕組みを欺く可能性が高い。なぜなら、実際よりもっと長く存続していたように見えるからだ。古いシェルフカンパニーほどいかなる領域においても遡ることができるので、そうでもしない限りできない時点で事業活動に従事することが可能になってしまう。

 インターネット上および世界中に文字通り何百というダミー会社の設立者がリストされている。最も広く利用されている設立者はワイオミングコーポレートサービス(Wyoming Corporate Services)であり、ダミー会社・シェルフカンパニーの設立者はワイオミングに所在している。ロイターの2011年の調査によると、いくつかのダミー会社がワイオミングに起源を持ち、多数の国際不正と犯罪行為に利用されている。(参照:the Reuters June 28, 2011, article, “Special Report: A little house of secrets on the Great Plains," by Kelly Carr and Brian Grow, https://tinyurl.com/6bgmxtd.)

 いくつかのダミー会社設立者は他者よりも秘密主義で、共にビジネスをする相手をえり好みする。少ない金額、時間と忍耐にもかかわらず、不正実行者はダミー会社の精密なネットワークを僅かな時間で構築できる。しかし、社名の作成はダミー会社の偽りのネットワークの構築における最初の一歩に過ぎずない。会社はさらなる隠蔽のために、多くの場合違法だが任命された取締役と株主、を必要とする。

ダミー会社任命取締役 (Shell nominee directors)

 不正実行者は、真の所有者に合法である外見を与えて偽装するため任命取締役、場合によっては、他のダミー会社を使う。ある被任命者は不正実行者による会社の書類への利用のためだけに名前を売却する。他の被任命者は企業の記録を処理し、書類にサインし、郵送するというような限られたサービスを実際にダミー会社に提供する。

 多くの組織が任命された取締役のネットワークを暴くために活動してきた。英国ガーディアン紙がその他の国際的な調査、反汚職組織の援助の下に確認したところ、わずか28人の任命取締役が2万1千社以上の会社を設立し、支配しており、その多くが犯罪組織や犯罪者に関与している。(参照:The Guardian blog article “Offshore secrets: how many companies do ‘sham directors' control?" by James Ball, Nov. 26, 2012, https://tinyurl.com/khstfpm.)単純なインターネット検索をするだけで、任命取締役の何人かが国連の「石油・食糧交換計画」、イタリアのマフィア事業、資金洗浄の膨大な事例に関わっていることに簡単に結びつく。

 これらの任命取締役は国際犯罪組織と工作員を結びつけ、隠蔽する要である。彼らは非常に広範囲で利用されているので、複数の事業所を少し調査するだけで彼らに出くわすことになる。

 その何人かは同一の法人の取締役として記載されている。2014年の初め、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ:The International Consortium of Investigative Journalists)は、彼らにもたらされた2つのダミー会社の設立記録、取締役と住所をグラフィカル・インターフェースのデータベースとして公表した。このデータベースは、いくつかのダミー会社のネットワークの範囲、どれだけ多くの会社、個人、任命取締役が相互に関連しているかを示している。(ICIJオフショアリークデータベース“ICIJ offshore leaks database"は次のURLで検索できる。https://tinyurl.com/jwxbg2z.)

ダミー会社設立の多発地域 (Shell incorporation hotspots)

 2012年6月、国際的な反汚職組織であるグローバル・ウィットネス(Global Witness)が、刊行したレポート「Grave Secrecy」はロシアとキルギスタン国内および周辺の国際犯罪ネットワークとダミー会社が資金洗浄、汚職そして不正に関与していると報告した。このレポートは、「一つの事例では、ロシア出身の死者の身元証明がある英国の企業の代表として利用された。この人物はこの企業が設立される3年前に死亡していたが、企業のオーナーとして掲載されていた、そしてロンドンで会社の会議に『出席』までしていた」と言及している。

 グローバル・ウィットネスの調査は20社以上が一見しただけでは他の会社と関係ないように見えることを確認した。しかし、取締役、その関係、勤務先住所を詳しく見直すと、非常に大きく、相互に関連する数か国にまたがるネットワークの存在が判明した(参照:「Grave Secrecy」全文のPDFファイルhttps://tinyurl.com/mu5483k.)。

 「Grave Secrecy」レポートで確認された多発地域の住所の一つはセーシェル諸島のビクトリアにある「103 Sham Peng Tong Plaza」だ。単純なグーグル検索で一回検索しただけでこの住所は16万件の関連するウェブサイト、会社、個人にヒットする。 もう一つの住所は刑事犯罪の資料と制裁に無関係であると確認された住所は、「PO Box 3444 Road Town, Tortola, BVI」である。この住所はグーグル検索では16万件のヒットを生む。これらの住所はダミー会社設立のホットスポットのわずか数例である。 

 これらの住所の一つと共に確認される実組織は重大な警告と考えるべきである。

インターネットによる貝殻(ダミー会社)の調査と追跡 (Investigating and tracking shells via Internet)

 ダミー会社を利用する主な目的は隠蔽なのでその所有者を調べ、追跡するのは簡単ではない。しかし不可能でもない。次のツールと技術は反不正の専門家がダミー会社を特定するか、最低でもダミー会社のネットワーク全体を解明につながる一片の情報を発見するのに非常に有益である。

1.ウェブ履歴(Web history)

 ダミー会社を設立したいと思う不正実行者は、もちろん、適法会社を装うためウェブサイトを持たなければならない。悪人は、時として杜撰であり、過剰な情報や、彼らが支配または監督する他の組織にリンクできる情報もウェブサイトに掲載する。非常に有用なツールの一つがwww.archive.orgであり、はインターネット上のほとんどのウェブサイトのスナップ写真を掲載している。ウェブサイトが変更され、あるいはもはや運営されていなくても、有効で役立つ履歴情報を見つけることができる。これらのスナップ写真が既知の情報を確認する手助けとなるかもしれないし、新たな調査の方向を示してくれるかもしれない。

2.所有者の特定、既知の関連者の追跡のための公共の情報(Public records to identify owners and tracking to known associates)

 公共の情報は存在する組織と個人を相互に繋げる重要な鍵である。LexisNexisやCLEARように有料の申込を必要とするものもあるが、以下の公共の情報源は無料で利用できる。

 情報を発見したら、ネットワークを発見・解読する手がかりとなる既知の関係者を突き止めるまで追跡を続けなければならない。 全容の解明に向けてあらゆる手がかり、連絡先、情報源を追い、相互にチェックすることを継続しなければならない。

3.ネットワークをマッピングする(Mapping the network)

 ダミー会社と連絡先の追跡において最も重要な仕事は発見されたすべての情報の関連を文書化できることだ。手がかり、行き止まり、そして情報の量は圧倒的なものに違いないが一片の重要な情報は見過ごされ、関連付けられなかったりすることもある。ほとんどの調査担当者は高額なマッピング技術を購入する余裕はないだろう。次善の選択肢は無料のオンラインマッピングとリレーションシップツールである。www.draw.ioを使って調査担当者はプレゼンテーション資料やレポート向けの簡単な相関図の作成や、相互に関係のある繋がりの経過を追うことができる。どんなに小さかろうとあらゆる情報をマッピングすることだ。住所、電話番号はダミー会社のネットワークを発見する鍵となるので、この2つの様々な組み合わせをオンラインで検索しよう。

4.「Whois lookup」ドメインの所有者、IPアドレスを調べる (Whois lookup,' for domain ownership, IP addresses)

 ダミー会社の設立者は、関与する法人についての公の情報を隠すことは怠らないだろう。しかし、その該当するウェブサイトのアドレスを設定するときは油断するかもしれない。

“Whois lookup”サーチエンジンを使って次の情報を発見できる。

 利用可能な「Whois」ウェブサイトは何百もあるが、中でもwww.whoisology.comは特徴、名前、領域にもとづき、データベースにあるすべてのウェブサイトを結びつけることで連鎖分析を可能にする。どれだけ多くのウェブサイトがダミー会社の多発地域である「103 Sham Peng Tong Plaza」に所在しているのかを知りたいとする。2014年4月現在、Whoisologyは900社以上あると報告している。

5.オンライン上の存在を評価する(Evaluating online presence)

 ダミー会社は正確に言うと存在しないので、その設立者が活動していて実質のあるオンライン上の存在を装うのは非常に難しい。何が実質のあるオンラインの存在を構成するのだろうか?

 ダミー会社の設立者はどのようにしてこの障害を乗り越え、その事業が合法的であると偽装するのか。

法人を入念に調査する時は以下の点を検討する。

海外の国と銀行 (Offshore countries and banks)

 ダミー会社は実際にはどこにでも設立できるが設立者は一般に特定の国や地域を利用する。設立者にとって好都合な点は政府による法執行の欠如や企業の秘密を保護する特定の法律などである。高リスクの国のリストとして良い情報源は米国国務省による主要な資金洗浄国の年次リストである。(http://tinyurl.com/pmhpkye)

 あなたは高リスクの国の銀行毎のSWIFTコードをwww.theswiftcodes.comのようなウェブサイトで確認できる。(SWIFTコードは世界の金融機関を識別するために付与された固有のコードである)

 SWIFTコードを確認した後、その銀行の入出金を監視するか、顧客や仕入れ先がその銀行に口座を持っているかを確認する必要があるかも知れない。

リスクの特定:内部情報の見直しと監視 (Identifying your risks: reviewing and monitoring your internal data)

 証拠は明白だ。:ダミー会社が存在するというだけで十分であり、そのつながりやネットワークは広大である。大きさと国際的な広がりにもよるが、読者の組織も被害者になったり、知らないうちに手先として使われたりするかもしれない。自社の内部情報を見直し、監視することはダミー会社に巻き込まれるリスクを軽減する。

1.何を見直す必要があるか?(What do I need to review?)

 連絡先、銀行、住所、所有者の情報、顧客・仕入先データ、送金データ、売上と購買の発送先と発送元、購買発注、請求証憑が含まれるすべての内部データを見直すこと。

2.何を探すべきか?(What should I be looking for?)
オンラインの情報源 (Online resources)

 ダミー会社を追跡し、突き止めそして調査することはリソースと援助がなければ時間のかかる困難なものになる。

 以下のオンラインの組織はダミー会社と犯罪組織の調査、報告、および/または追跡の色々な局面に関与する。

Global Witness, www.globalwitness.org.

www.theguardian.com.

www.offshorealert.com.

“The Puppet Masters: How the Corrupt Use Legal Structures to Hide Stolen Assets and What to Do About It," http://tinyurl.com/pukwqbc.

町の悪質なゲームに参加しないこと (Don't be a player in the worst game in town)

 ダミー会社とその関連者は企業にとって非常に悪い知らせとなる。読者の組織の不正実行者はそれらを汚職の手段としてもしくは資産の流用として利用するかもしれず、外部の犯罪者は読者の組織に対する資金洗浄の手段としてそれらを受動的に利用することができる。

 ダミー会社、国際汚職、不正、資産流用、資金洗浄の最新の時流に遅れてはいけない。顧客、仕入業者、従業員の情報を保護すること。取引先企業と、悪人・ダミー会社を相互に参照すること。ダミー会社のスキームの被害者となったら、当局に連絡すること。用心を怠ってはならない。現在組織作られているダミー会社は次世代の巨大な国際不正の中心になりうる。読者の組織は町の悪質なゲームで最前列座ったりしてはならない。

Ryan C. Hubbs, CFE, CIA, PHR, CCSA
テキサス州ヒューストンに本拠をおくハリバートン(Halliburton)のフォレンジック監査マネージャー。 ACFE Facultyメンバーである。
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