税理士業界ニュース
(2016年6月)

米国AAMサミット
2016年のテーマはin newvation!

 米国の会計事務所のマーケターが一堂に会するAAMサミット。今年は5月3日から4日間、ニューオーリンズで「in newvation」をテーマに開催された。革新と新しさ主眼に、さらに進化していく米国の会計業界を見ることで、日本の会計事務所が進むべきヒントを探った。
米国AAMサミット

全米のマーケターがニューオーリンズに集結

 2016年5月3〜6日、アメリカの会計事務所に所属するマーケティング担当者たちの集いであるAAM(Association for AccountingMarketing)サミットがルイジアナ州ニューオーリンズで行われた。
 アメリカでは、30人規模を超える会計事務所にマーケティングの専任担当者を置くことが多い。会計事務所に必要なマーケティング手法を学びに全米から担当者が集まったのだ。弊社は日本で唯一のAAMメンバーとして、10年以上前から、このサミットに継続的に参加している。
 AAMサミットでは、毎年テーマが決められている。今年のテーマは「in new vation」。「INNOVATION」(革新)に「NEW」(新しさ)を掛け合わせた造語だ。今後の会計事務所業界において、“革新”に、さらに“新しさ”が必要とされているということを意味している。
 「in new vation」というテーマの元、4日間にわたり、さまざまなマーケティング手法についての講義が行われた。参加者の多くは最新のマーケティングについて学び、さまざまな気づきを得ていた。
米国AAMサミット

もはやクラウドは前提
革新はその先へ

 In new vationという、革新性と新しさのなかで、印象的だったのは、クラウドはすでに当たり前の話であり、すべてそれを前提として話が進められているということだ。今年も多くの企業やサービスのブースが並んだが、「クラウドを前提としないものはない」と言っても過言ではない。
 AAMの翌日、一昨年、弊社の「ビジョナリーサミット」で講演していただいた、シアトルで公認会計士事務所を営むトーマス・S・ボーン氏に再取材を行ったところ、それは完全に裏付けられた。もはや事業のほとんどのやり取りがクラウド上のデジタルツールで行われ、ペーパーレス化しているのだ。会計情報はもちろん、さまざまな書類はクラウドのファイル共有サービスでやりとりし、ビデオチャットで会議をする。
 また、ボーン氏は、これらのクラウドサービスを活用することで、顧問先に対して記帳代行だけではなく、経理代行、財務代行という付加価値の高いサービスを行うことができている。そして、それは、低価格競争から脱し、高額な報酬につながっているのだ。1ヵ月あたり約25万円が相場で、約80万円の顧問先もあるという。にわかには信じられない額である。
 それだけではない。ボーン氏はアメリカ国内を越え、スウェーデンにまで顧客がいるというのだ。もちろん、国境を越えてまで、監査に行くことは経費の面を考えてもあり得ない。このようなワールドワイドのビジネスが実現できるのも、昨今の目覚ましい技術革新のおかげであり、それらのサービスを利用することで可能性が大いに広がっているということを示している。
米国AAMサミット

発展途上であるがゆえに
日本では大きなチャンス

 ひるがえって日本ではどうだろうか。まだまだ会計事務所のクラウドサービスの利用は限定的であると言わざるを得ないというのが現状だろう。
 しかし、加速度的に進化を続けるテクノロジーの前に、導入を検討するというような猶予はもはやない。会計業界だけではなく、もはやクラウドは広く一般に広がっており、現状に留まっているという選択肢はないのだ。
 テクノロジーの進化において、会計士や税理士の仕事がなくなると言われているのは、アメリカでも日本でも同じだ。それでも、AAMやボーン氏の例が示しているように、会計人の仕事がなくなるわけではなく、むしろ顧問先にとっては、なくてはならない存在になっている。
 今まさにクラウドによって会計事務所の業務が変わりつつある。記帳代行や経理代行、コンサルティング業務など、付加価値の高い業務がその先にあるのだ。
 まさにボーン氏が、経理代行で多くの顧問料を得ているのと同じことが、日本の会計事務所でもできる。請求書発行や振込代行、売掛金管理など、中小企業のバックオフィス業務を請け負うことで、企業側も本業に集中できるようになり、顧問先との関係も一歩進んだものになるだろう。
 テクノロジーは日々進化している。いま世界で求められているのは「革新」のさらに新しいものだ。これまでの会計業界の歴史を見てもアメリカで起こっていたことは、日本でも確実に起こる。
 日本においても先進的な事務所では、クラウドの利用により、業務効率化を図り、近隣だけではなく全国に顧問先を抱えるところも出てきている。しかし、そうした事務所はまだ一握りだ。クラウドはまだまだ発展の余地があり、最新のテクノロジーを取り入れることで、他者より先んずることができるとも言える。新たな道を進むのは今だ。
 今回、JAZZという新しい音楽を生み出したニューオーリンズの街で革新と新しさをテーマにAAMサミットが開かれたことは、会計事務所の新しい可能性を見出すこととつながっていたのだろう。

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