税理士業界ニュース
(2016年4月)

今こそ歯科医院マーケットに参入しよう!

歯科医院はコンビニより1万件以上も多い

グラフ 歯科診療所数とコンビニエンスストア店舗数の推移

 グラフは、歯科診療所とコンビニエンスストアの数の推移を示している。平成27年12月末時点の歯科診療所の総数は6万8,746院。ここ5年間はほぼ横ばいで推移している。一方、コンビニエンスストアの平成27年12月末時点の店舗数は5万3,544店。至る所にある印象を受けるコンビニよりも、歯科医院のほうが1万件以上も多いのだ。都市部では、同じ雑居ビルに複数の歯科医院が入居している例も珍しくない。

 さらに歯科医院は都市部ほど過密状態にある。平成26年の各都道府県の歯科診療所数を、各都道府県の可住面積(実際に開発された面積)で割り、1平方キロメートル当たりの歯科診療所数を計算すると、次のようになる。

1位:東京都……7.6院
2位:大阪府……4.2院
3位:神奈川県…3.4院
4位:埼玉県……1.4院

 東京都は1キロ四方の中に歯科医院が7.6院と、密集ぶりがうかがえる。さらに、東京都の人口を歯科診療所数で割った数値=1歯科診療所がカバーできる住民数が1,257人で、全都道府県で最少の47位。1位の福井県2,669人の半分以下となっている。


1歯科医院当たりの歯科医師数は約1.51人

 もうひとつ、歯科医院の競合をカオス状態にしている統計結果がある。平成26年末の歯科診療所数は6万8,839院で、歯科医師数は10万3,972人。1歯科医院当たりの歯科医師数は約1.51人になる。

 つまり、大半が1人の歯科医師で歯科医院を経営していることになる。これは、会計事務所(公認会計士事務所+税理士事務所)の総数3万1,222件(平成24年経済センサス─活動調査)と、税理士登録者総数7万5,621人(平成28年2月末現在、日本税理士会連合会)とで算出した、1会計事務所当たりの税理士数約2.42人よりも少なく、歯科医院の零細ぶりが表面化している。

 これらデータから、有資格者=歯科医師が院長先生1人プラス数人のスタッフだけの状態で歯科医院経営を行い、競合に立ち向かっているのが、歯科業界の現状である。このレベルの規模ならどんな業種であれ、きちんと戦略立てた経営をしているとは考えにくい。しっかりとした経理処理も期待できないだろう。それゆえ、歯科医院に対して、会計事務所がサポートできる余地が十分に残されているといえる。パートナーとして経営支援を行えば、付加価値の高い業務にかかわることができる。


本来業務をベースにコンサルタントと差別化を図る

 歯科医院は会計事務所に何を求めているのだろうか。歯科医院経営情報誌の月刊『アポロニア21』(日本歯科新聞社)編集長・水谷惟紗久(みずたに・いさく)氏に、歯科医院と会計事務所との関係性等について話をうかがった。

 「会計事務所と良い関係性を築いている歯科医院は少ないです」(水谷氏)。その原因として、歯科医院が会計事務所に求めることと、会計事務所が歯科医院に施しているサービスとの間にギャップがあることを挙げている。

 大半の会計事務所は、歯科医院に対して税務申告とその周辺業務を行うことをゴールとしている。一方、歯科医院は会計事務所に対して、「経営のことをどこまで聞いていいかわからない」ケースが多いという。なので、経営全般を見てもらいたい歯科医師と、税務申告までやればいいと考えている税理士とのやり取りがかみ合わなくなる例が、少なくないそうだ。

「会計事務所は歯科医院との契約時には『どこまでかかわるか』『どこまでかかわりたいか』をすり合わせた上で、業務内容を線引きすることが必要です」(水谷氏)

 医療機関は経営、人事、増患などさまざまな分野のコンサルタントが関与するケースが多い。歯科医院も同様である。会計事務所もコンサルティング要素が強い業務を行うことで、付加価値を高められるだろう。一方、水谷氏は、コンサルタントと同じ土俵に立たず、税理士ならではの強みを活かせるサービスを実践すれば、良好な関係を築けると考えている。その理由は、税理士とコンサルタントとの根本的な立ち位置の違いにある。

「コンサルタントは基本的にスポットでのテコ入れで利用されます。短期間でのゴールとビジョンを示し、そこに向かって突き進みます。一方、会計事務所は継続的に税務・会計をサポートするのが前提です。なので、本来業務をベースとしたサービスがいいでしょう。コンサルタントと張り合って動くと、短期間の付き合いで終わってしまうかもしれません」(水谷氏)

 会計事務所が歯科医院に実践するとよいサービスとして、水谷氏は以下の4つを挙げている。

●経営計画
●管理会計
●経理代行
●コスト削減

 いずれも税理士・会計事務所のスイートスポット。ニーズと付加価値が高い。5年後、10年後までの経営計画に携われるのは会計事務所の「特権」でもある。そして、管理会計でPDCAサイクルを回していくと、歯科医院の業績は上向いていく。すると、会計事務所は歯科医院にとってかけがえのない存在になり、付加価値に見合った報酬が期待できる。

 水谷氏は会計事務所が歯科医院に特化するポイントとして、「歯科医院経営に関連する業法を理解する」ことを付け加えている。

「医療法、歯科医師法、薬事法の3法を理解し、歯科診療の法的な流れをつかんでおきましょう。知らないでアドバイスをすると、必ずトラブルに発展します」(水谷氏)


歯科医院マーケットに参入しやすい下地

 前号の「税理士業界ニュース」第68号で掲載した、中島由雅税理士のインタビューで触れた通り、次のように、会計事務所は歯科医院マーケットに参入しやすいバックグラウンドがある。

●経営指導しやすい
 保険診療で予約制なので、売上の把握と見通しが容易である。
契約時に競合がいない
紹介が中心なので、きちんとコミュニケーションを取れば、競合せずに新規契約できる。
歯科医師と税理士は共通点が多く、共感できる
ビジネス構造での共通点と、共感できる悩みが多く、良好なパートナーシップを築けば、相乗効果が生まれやすい。

 一方、歯科医院マーケット参入でボトルネックとなるのは、新規顧客や紹介を受ける人脈等の開拓にある。この最大課題を解決するために、このほど「歯科実務研究会」を発足させた。歯科医院特化を狙いたい会計事務所は、ぜひ活用していただきたい。