税理士業界ニュース
(2016年3月)

今こそクラウドで「記帳代行」を「経理代行」に高めよう!

 去る2月4日(木)に弊社ビジネスラウンジにて第13回税理士会議が開催された。テーマは「記帳代行&経理代行」。この場で参加者に「自計化と記帳代行、どちらの顧客のほうが多いか?」と質問したところ、「記帳代行」の回答が圧倒的だった。もちろん、会議テーマから記帳代行や経理代行に注力している税理士が集まったのは事実であるが、記帳代行を基幹業務のひとつに据えている事務所が多いことがうかがえた。

 同会議の冒頭で、弊社代表取締役・広瀬元義が登壇した。今回は同講演のポイントにあたる「記帳代行から経理代行に高めるメリット」について解説する。

 記帳代行から経理代行へのシフトがもたらすメリットは2つある。ひとつは「会計事務所が長期的に付き合える顧客を獲得できる」ことである。

 企業経営上、経理業務は欠かすことができない。お金の流れが止まったら、企業は倒産するからだ。企業の経理代行を請け負うとなると、経営パートナーとして、長期的な視点で、会社のビジョンにフォーカスする必要がある。そうすると、自然に顧客との長期的な付き合いができるようになるのだ。

 経理代行のもうひとつのメリットは「30人未満の中小企業が経理業務から解放される」ことである。

 経理代行によって、30人未満の中小企業は、経理部門をなくすことが可能になる。クラウドの活用で、会計事務所は30人未満の中小企業の経理部門を代行できるのだ。

グラフ1 御社の顧問先において、月次決算を行っている割合

 このメリットを提唱するには、数々の根拠がある。まず、グラフ1を見ていただきたい。これは「平成26年度中小企業における会計の実態調査事業」で、税理士と税理士法人に対して実施した「御社の顧問先において、月次決算を行っている割合」。

 半数近くの税理士・税理士法人が、8〜10割の顧問先に対して月次決算を行っていることが判明した。

グラフ2 自社の経理財務に関する事務の状況

 一方、グラフ2は中小企業の経理財務に関する事務の状況を示している。「納品書、請求書、領収書等の作成・保管までを社内」「仕訳伝票の起票までを社内」というように記帳代行をお願いしている割合は、4分の1強にとどまり、大部分の企業が自計化を実践していることが読み取れた。

 「自計化+巡回監査」という仕組みは会計事務所の中心的業務スタイルで、いったんはサービスの完成形を見た。しかし、現場はこれら仕組みに縛られて、移動と入力内容チェックに時間を取られ、会計事務所の業務が税務申告と巡回監査で手一杯になってしまった。顧問先から見ても、会計事務所の職員が会社に来て、パソコンに向かって黙々と入力チェック作業を行い、特段有意義なアドバイスがないまま帰ってしまっては、会計事務所のサービスにありがたみを感じないだろう。そうしたことが背景で、周知の通り、会計事務所の顧問料は低価格化が進行した。


顧問先が経理社員を雇って自計化するデメリット

 では、自計化を中小企業の立場から見てみよう。

グラフ3 従業員数(うち経理財務担当の人員数)

 グラフ3は、中小企業の経理財務担当の人員数を示している。7割が経理財務担当が1人以下という状態である。うち1割強は0人という実態が浮かび上がった。

グラフ4 記帳を担っている担当者

 グラフ4は、記帳を担っている担当者の内訳を表している。「代表者が実施」が13.3%に上り、グラフ3の経理財務担当が0人の12.2%とほぼ近い結果になった。つまり、中小企業の1割強が、経営者自ら経理を兼務していることが判明した。

 このように、経理部門に人員を割けない中小企業にとって、自計化はもちろんのこと、経理業務そのものが負担になると思われる。

 では、起業当初の段階から経理担当者を採用すればいいのかというと、そうではない。

 実際、中小企業が経理社員を1人雇うとなると、年間400万円前後の給与に社会保険料や福利厚生等が加わり、多大なコストがかかる。そして、毎年同一業務を頼んでいても、年々昇給させなければいけなくなる。また、総務・人事・事務等の業務と兼任になり、経理業務の優先順位が落ちることが想定される。

 さらに、経理社員が急に辞めてしまうこともあるだろう。すると後任者の採用に時間とコストがかかる。担当者不在になると、経営者が再び経理業務を行うことになる。こうなると、せっかく軌道に乗っていたビジネスの発展が、一時ストップしてしまう。

 こんな状況に陥っている中小企業に、自計化をすすめていないだろうか。自計化をすすめることで、企業の発展にブレーキをかけている恐れがあることを、会計事務所は理解しなければいけない。自計化が負担になり、本業に力を入れられず、企業の存続が危ぶまれては、本末転倒である。

 一方、中小企業が会計事務所に経理代行を頼んだ場合、年間200万円前後の報酬を支払っても、社員を1人雇うよりずっと低コストで済む。業務量が増えなければ、料金が上がることはない。顧問契約が継続する限り、経理業務が途切れることなく続くのだ。

 会計事務所が30人未満の中小企業に対して経理代行を行うと、企業は本業に集中できるようになる。新たなビジネスの創出や新規顧客の開拓に多くの時間を割くことができ、業績向上が望める。長い目で見ると、会計事務所への報酬アップも期待できるだろう。


中小企業のニーズは経営相談より経理代行

グラフ5 顧問先の経営者から経営改善上の相談を受けることがあるか

 グラフ5は、税理士・税理士法人を対象に「顧問先の経営者から経営改善上の相談を受けることがあるか」を質問したアンケート。「ほとんどない」が3割を占め、「年に数回」が半分弱。約4分の3の税理士・税理士法人が、年に数回以下しか経営相談を受けていないということが判明した。つまり、約4分の1の税理士しか、経営者から頻繁に相談されるパートナーとして認められていないとも推測される。

 これまで会計事務所の付加価値業務というと、経営相談や各種コンサルティングだと見られていた。もちろんこれらは大事だが、もっと中小企業に付加価値をもたらす業務として経理代行があるのだ。

グラフ6 記帳を担っている担当者

 グラフ6は、中小企業の記帳頻度を表している。毎営業日、記帳をしている企業は半分弱に達し、9割超の企業が月に1回以上記帳しているのだ。つまり、経理代行のニーズは高いと思われる。

 経理代行を付加価値業務の柱とする際、記帳代行と明確に分けることが不可欠である。

 記帳代行とは、顧客から預かった証憑を100%機械的に入力するものと定義する。一方、経理代行は税務判断等を会計事務所側で支援するサービスで、経理や税務全般をサポートする。サービス内容は記帳から請求書発行、振込代行、売掛金管理など多岐にわたり、契約時にどこまで請け負うかを決めていく。記帳代行の延長線で安価にて引き受けるということがないように気をつけたい。

 今はクラウドという新しいテクノロジーが普及しつつある。最新武器を手に、30人未満の中小企業の経理をすべて請け負うことで、これまでにないビジネススタイルが築けるだろう。