税理士業界ニュース
(2015年10月)

「書面添付」を報酬単価アップのツールにしよう!

実務の効率化を図り顧客満足度を向上

 特集「会計事務所ビジネスモデルの変革」第3回は「書面添付」をテーマに挙げる。

 「書面添付」というと、どのような印象を抱くだろうか。「税務調査が必ず省略されるわけではないから、あまりやりたくない」「手間がかかるだけで、お金も取れない」ではもったいない。書面添付は報酬単価を上げ、事務所経営を活性化させる絶好のツールなのである。


書面添付を行うと月額顧問料の20%を加算

 「書面添付」と「報酬アップ」というと、一見何の関係もないようにも感じられる。しかし、実際に書面添付を活用して、顧問報酬の単価アップを遂げている例がある。

 「広告費ゼロ」「平均月額顧問料3万8,000円」という、常識にとらわれない経営を実践し、事務所設立から1年弱でスタッフ7人体制まで急成長した青色申告会計(東京都千代田区)の元村康人代表税理士は、顧問先に書面添付を提案し、顧問報酬アップにつなげている。

 元村氏は、書面添付を実施した顧問先の月額顧問料を、通常よりも20%加算させる。たとえば月額顧問料4万円の顧問先に書面添付を行うと、顧問料が20%増の4万8,000円になる。

 ポイントは、月額顧問料に一定割合を加算することにある。

 通常、書面添付を行うと、申告時にスポットで、たとえば5万円などと料金を請求することが多い。しかし、それでは事務所の売上としてうまみがない。書面添付を行うと、その顧問先に対して、税務調査立ち会いの報酬が見込めなくなる可能性があるジレンマも生じる。一方、料金を受け取って書面添付をしたにもかかわらず、税務調査に入られると、その立ち会い報酬を請求しづらくなるだろう。「一定額」ではなくて「一定割合」を顧問料に加算することが、報酬アップの決め手。単月スポットで報酬をもらうよりも、毎月の顧問料に上乗せするほうが、事務所のキャッシュフローの観点でも望ましい。

  顧問先の立場からしても同様だ。決算申告時には納税に加えて決算料を会計事務所に支払う。さらに書面添付の料金が加わるとなると、資金繰りに響く。一方、書面添付の料金として、顧問料に一定割合を加算することで、料金を分割払いしていることになり、顧問先の資金負担が緩和されるのだ。

 書面添付による顧問料の一定割合加算は、いわば顧問先を税務調査から守る保険のようなもの。顧問料に一定割合を上乗せすることで、会計事務所が税務署から顧問先を守ることになる。そのため、青色申告会計では、書面添付を行った顧問先が税務調査を受けた際、立ち会い報酬を無料にしている。

 さらに、書面添付を毎年実施して顧問料に加算しても、その顧問先に対して税務調査や意見聴取が毎年行われるわけではない。3〜5年に一度、税務調査が入って立ち会い報酬をもらうより、高収益が期待できるのだ。

 このような仕組みで元村氏は書面添付を活用して報酬単価アップを実現している。手法はいたってオーソドックスだ。


書面添付活用5つのメリット

 元村氏のように書面添付を活用して報酬アップを図るメリットは主に5つある。

メリット1 顧問先を税務調査から守ることができる

 周知の通り、書面添付最大のメリットは、顧問先を税務調査から守ることには変わらない。企業経営者にとって税務調査は苦痛である。数日間拘束され、知識がない税金に関する質問を受ける。調査に立ち会う分だけビジネスの機会損失が生じ、全然プラスにならない。

 書面添付を行うと、税理士の意見聴取により税務調査が省略されるケースがある。もし意見聴取の結果、税務調査が行われることになったとしても、ポイントを押さえた調査になり、日程が短縮される可能性がある。税務署の業務負担軽減にもつながるのだ。

 「税務調査が大好き」という経営者は存在しない。痛みを伴う税務調査が来る確率を低くできるということは、書面添付最大のメリットといえるだろう。

メリット2 銀行融資に有利

 申告書の書面添付をしている企業は、金融機関によっては金利の優遇や審査の短期化というように、融資に関する優遇措置を受けられることがある。

 理由はもちろん「正しい決算書・申告書」というお墨付きがあるから。巷では決算書を「企業用」「銀行用」「税務署用」と3通り作っているともささやかれているように、銀行は中小企業の決算書を信用していない傾向にあるという。しかし、書面添付がなされている企業は、税理士が決算内容の正確性を保証しているも同然。銀行も安心して融資を審査し、貸出を実行できるのだ。

 融資を必要としていない中小企業はないと言ってもよい。銀行融資に有利な点を伝えれば、顧問先のほうから書面添付をお願いしてくるかもしれない。

メリット3 他の事務所と差別化できる

 法人税で書面添付を実施している割合は、年々増加傾向にある。とはいっても依然として10%を下回っている。書面添付をきちんと行っているだけで、他の会計事務所との差別化が図れるのだ。

メリット4 顧問契約が継続する

 メリット1にあるように、書面添付を実施した企業は、税務調査に入られる確率が低くなる。しかも、書面添付は一度実施したら、毎年継続する必要がある。

 それはなぜか。税務署の立場になって考えると、これまで書面添付がなされていた企業が、あるときから書面添付をされていなかったら「何かあるのでは」と勘ぐってしまう。すると「この企業に税務調査に行ってみよう」と思うようになるという。だから、一度書面添付を行った企業は、毎年書面添付を継続することが望ましい。

 もし、書面添付を行っている顧問先が、他の会計事務所に乗り換えたら、高い確率で書面添付を実施していないと思われる。会計事務所を替えたタイミングで税務調査に入られる可能性が高まるのだ。書面添付を行っている会計事務所を解約して、同じ地域で書面添付を実施している会計事務所を探すのは実際難しいだろう。 書面添付のメリットを享受した顧問先は、よほどのことがない限り顧問契約を解除することがなく、書面添付を継続して行うようになる。会計事務所はその分を上乗せした顧問報酬をキープできるのだ。

メリット5 事務所売上と職員の給与が上がる

 書面添付の料金を顧問料に加算することで、事務所の売上が上がる。書面添付料金として顧問料の2割を加算するならば、5件の顧問先に書面添付を実施すれば、新規顧問先を1件獲得したことと、ほぼ同じになる。そう考えると、積極的に行うことが望ましい。

 また、売上増に伴って、職員の給与も上げられる。担当先に書面添付を行うことで、手当をつけたり、一定割合を給与に加算するなどすれば、職員も積極的に、担当先に書面添付をすすめるようになる。給与水準が上がれば、職員の定着も実現するだろう。


顧客の視点で見ると多くのメリットがある

 書面添付に関して、会計事務所の立場からすると「手間がかかる」「リスクがある」といったネガティブな声が少なくないだろう。しかし、顧客の視点で見ると、書面添付を行うことで、税務署や銀行からの信頼を得ることができ、さまざまなメリットをもたらす。顧客満足度が上がり、不可欠な価値を提供することができるだろう。

 事務所の業績向上策のひとつとして、これまで気づくことのなかった「書面添付で報酬アップ」。積極的に取り組めば、他の事務所と差別化が図れ、価値を提供できる会計事務所に進化するだろう。